セクシーさってなんだろう。
『ソウルに帰る』という映画を見ながらふとそう思った。
『ソウルに帰る』は韓国で生まれてすぐに養子に出されフランス人として育ったフレディという女の子が韓国に来てルーツを探す物語なんだけど、そのフレディがめちゃめちゃセクシーなんです。でもそのセクシーさって日本や韓国でセクシーと見なされるセクシーさじゃない。相手に一ミリも媚びない強さが魅惑的。そんなセクシーさ。
フレディって日本や韓国でモテるタイプじゃないんですよね。めちゃめちゃ自我が強いし人の言うこと聞かない。だけど彼女は若いイケメンのフランス男も、武器で儲けるリッチなおじさんもあっさり惚れさせる。若い時はそのワイルドさで、少し大人になってからはその野心で、まわりの人間を、男だけでなく女をも魅了する。
日本は、そしてたぶん韓国も、めちゃめちゃ自我が強くて人の言うこと聞かなくて誰にも媚びない、フレディみたいな女を肯定的に描くことはあまりないですよね。現実にいてもきっと世間から浮いてしまう。ましてやセクシーな女は普通の女じゃないと見なされる。
でもだからこそ、この内面からあふれるパワフルなセクシーさを持つアジア系のヒロインがソウルの街を歩く姿がすごく新鮮だった。そしてそんなフレディを見ていると、いまだ家父長制の強い国に生きている、ということを改めてつよく実感してしまう。
どんな属性であれセクシーであること、個性的であることに価値を置くフランスという国で生き抜くとフレディみたいな女がゴロゴロいるのかと思うと、羨ましくもあり、それもそれで大変そうだと思ったり笑。どちらにせよ生まれ育つ社会の影響は大きい。
そしてヒロインがセクシーであることは彼女の要素の一つにしか過ぎないという、成熟した映画の視線はさすがフランスだなって思う。ダヴィ・シュー監督はカンボジア出身の男性で、プノンペンとパリを拠点としているそう。映画の舞台はソウルの街で有名な韓国の俳優さんたちも出てるのに、やっぱり韓国映画とは質感がぜんぜん違う。もちろんハリウッド的なアジアの描き方とも違う。韓国の社会や文化を肌感覚で理解しつつ、描き方は西洋的。すごくオリジナリティがある。
ちなみにフレディを演じたパク・ジミンも9歳のときに家族でフランスに移住しており、フレディと共通項が多いそう。本来はビジュアルアーティストで役者の仕事は本作が初めてだそうだけど、そうとは思えない存在感だった。
一人の女性が自分のルーツを探すという個人的な小さな物語なのに、その背後にある大きな社会や文化の違いについてもいろいろ考えるフックのある映画だったなと思う。満足です。こういう映画をもっと見たい。