第7週「女の心は猫の目?」
女の心は気まぐれで変わりやすいことのたとえ。女心は、猫の目が光によって形が変化するように変わりやすいとの意から。
今週のも知らなくて調べました。同じ意味の「女心は秋の空」のほうが有名ですよね。まあ「猫の目」より「秋の空」のほうがなんとなく詩情があっていいかなと思うけど、どちらにせよ男性視点で「女の気持ちがわからない」ことを「女は気まぐれ」であり「女の気持ちは変わりやすい」からだと雑にまとめちゃってる感がある。わからないなら考えような…?
今週は寅子、花岡、優三の恋愛観、結婚観が交錯した、興味深くも読み解きに幅のある、チャレンジングな週だったように思う。
そもそも寅子は花岡をどう思っていたんだろう。いつもはまず本人が饒舌にしゃべるし、本人が黙ればナレーションがここぞとばかりにしゃべる。だけど花岡に対する気持ちだけは言葉にされなかった。「君のことばかり考えてしまう」と言われてポーッとなったり、プロポーズされるかもって花江に囃し立てられてちょっと意識してしまったり、という反応は見えたけど、寅子が花岡を目で追ってしまったりというような自発的な恋の描写はなかった。
一方の花岡は寅子への好意は隠さなかったけど、最後まで明確に言葉にして恋愛に踏み込もうとはしなかった。そもそもこの当時はそれなりの家にとっては見合い結婚が当たり前、結婚前の交際はふしだらであると強く言い聞かされてきた時代。花岡もカフェーの女給とは遊べても寅子を遊び相手にはできないとわかっていたはず(それもひどい話なのだけど)。だからもし、ほんとうに寅子との交際に踏み出すならば、明確な結婚の意志が必要だった。
だけどそこには大きなハードルがある。花岡は数年おきに転勤のある判事をしばらく勤めたのち、最終的には故郷で父親の弁護士事務所を継ぎたいと思っている。一方の寅子はまだ修習中の身で、夢を諦めざるをえなかった仲間のためにも立派な弁護士になることを自分自身に強く誓っている。人生が噛み合わない。少なくとも今じゃない。
けっきょく花岡は、寅子への感情よりも自分の人生のロードマップを選んだのだと思う。それはぜんぜん悪いことじゃないし、むしろ若いのにしっかりしてんな〜!って思う。彼自身もまた、家父長制の社会の中で自分の感情を殺さなければならなかったという犠牲者の一面もあるわけだし。だからわたしは花岡が最後のデートのとき、寅子に気持ちを伝えなかったことが彼のいちばんの誠意だったなと思ったし、すごくよい別れだなと思った……ので、あとでよねと轟に叱られてたのはちょっと気の毒に思った笑
ただそこで、結局寅子はどう思っていたんだろうという疑問は残る。花岡のように、互いの未来を考えて自分の感情を押し殺したようには見えなかった。いつもは頭の回転が早くて饒舌な寅子が、花岡の好意に対しては反応が薄く、戸惑っていたように見えた。佐賀に帰る花岡を笑顔で見送り、なのに彼が婚約者を伴って現れると少しだけ気落ちした様子を見せた。寅子はどうしたかったんだろう?ほんとうに花岡に恋をしていたんだろうか?
この時代、恋愛はまだそんなに身近じゃなかったはずで、恋愛沙汰が週刊誌を賑わせてもそれは違う世界の話で、けっきょく結婚相手というのは親が連れてくるものだというのが、当時のミドル〜ハイクラス女性の認識だったと思う。現代でいうラブイデオロギーに染まりきっていない時代とも言える。だからそんな世界のなかで寅子が恋愛や結婚にピンときてないのも、そんなにめずらしいことではないのかもない。同じ時代の『カーネーション』でも、あのわきまえない女代表みたいな糸子でさえ、父親の連れてきた相手と四の五の言わずに結婚した。そういう時代ではあった。
そんななか、アロマ当事者のかたの感想を読んでいて、寅子が花岡が醸し出しているムードに気付きつつもうまく反応できないところや、優三さんの隠した気持ちには気付けないあたりがすごくアロマっぽいというのを読んで、なるほどな〜と腑に落ちるものがあった。というのも今ちょうどとらつばの脚本家さん・吉田恵理子さんの過去作であり、アロマンティック・アセクシャルのふたりを主人公にした『恋せぬふたり』(2022)を見返していて、恋愛コードを読み取れないゆえのまわりと行き違いが起きてしまうのが、まさに今週のとらつばの寅子と周囲の温度差、と重なる気がしたからだ。『恋せぬふたり』と合わせて見ると、脚本は寅子のアロマンティックぽさをかなり意図的に描いているのがわかる。
つまり恋愛結婚が良しとされていた時代ではなかったことをふまえても、寅子がアロマンティック寄りの人であるということが描かれてるんだけど、現代から見ると、もしくは強いラブイデオロギーを内面化している人が見れば、寅子が理解できない、わからない、と突き放される可能性があることはドラマの作り手もわかっていたと思う。それでもあえて過度に説明したりわかりやすくしようとはしなかった。そもそも「わかりやすくすること」そのものがマイノリティに対する暴力性をはらんでいることをこのドラマの作り手は理解していて、従来のマジョリティーファーストの朝ドラからステップアップしようとする意思までも感じて勝手にグッときてしまう。
一方、優三とは結婚になだれ込むまで早すぎて情緒ゼロか!?と思ったけど😂、でも優三の「ずっと好きだった」も性的に惹かれる「好き」というより「君の笑顔を守りたい」的な友愛に近いラブだったのがよかったし、「猪爪家と家族になりたい」という気持ちも、彼のそれまでの寄る辺なさを思って泣けた。寅子も優三がいると水を得た魚のようにぺらぺらと喋りだすのがおもしろい。夫婦としてはまだうまくかみあってないふたりだけどゆっくり時間をかけて心を許しあえる夫婦になってほしい〜!(都合により予告は記憶から消しました)
思えばこの朝ドラは女性にとって著しく不利な婚姻制度に主人公が異を唱えるところから始まった。そんな主人公、寅子がついに結婚する。独身女性は信用されないという世間の差別に屈するかたちではあったけれど、寅子にとっては夢を叶えてみせるという切実さがそれよりも優先された。「すべては手に入らない」足元に絡みつくような呪いの言葉を振り切って寅子は光の道をゆく。その影には諦めざるをえなかった仲間たち、そして社会に迎合しないよねがいて、そんな彼女たちを誰一人とりこぼすことがないと信頼できるドラマを毎朝見られることが本当にうれしい。
来週も楽しみです!と言いたいけれど、言いたいけれど……!日米開戦が回避されたパラレルに今から移行できませんか!?😭(必死)
第6週シナリオふりかえり
中山先輩のカットされたセリフから、夫さんはかなり中山先輩が大好きなんだな〜大好きな中山先輩がそんな人と出会ってくれてよかった…!とわたしも中山先輩の隣でしみじみ泣きました
円陣のシーンは見たかった…!と思うと同時に、試験に来ない梅子さんを気にして不安げに振り返るあのシーンの余韻がすばらしかったのでカットした気持ちもわかる!でも撮影済みなら円盤の特典映像に入れてもらえないでしょうか!?轟の暑苦しさに巻き込まれてうんざりしているよねさんを見たすぎる😂
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