
いつも行く本屋には新聞などの書評で取り上げられた本を紹介する棚があり、そこに並んでいた本書に目が止まった。
野ざらしで吹きさらしの肺である戦って勝つために生まれた
パラと開くと一番はじめのページにこの短歌があった。この本の著者である服部真里子さんの作品だ。これは服部さんがそのころつとめていた会社に女性社員が交代で男性社員のコップを洗うという女性差別的な制度があって、いくら廃止を訴えても問題を理解してもらえなかったという。そんな会社に向かう自分の横を「バーニラ・バニラ・バーニラ・求人!バーニラ・バニラ・高収入!」と叫ぶトラックが通り過ぎていく。
なんだこの地獄は。でも、まさにその瞬間でした。冒頭の歌ができたのは。
そんなエピソードにいきなり引き込まれてしまった。切実、そして不謹慎ながら面白い。
そして本書の内容はというと、服部さんが各地で開催してきた短歌講座をまとめたもので、実際の講座と同じく全五回、一日一章、五日間のレッスンという実践的なものらしい。
わたし自身もまた、ひさしぶりに二次創作短歌を書きたいなぁとちょうど思っていたところだった。なので本書で短歌の基本みたいなものが学べるならいいかもなと思って購入してみた。
この講座の目的は、人生の楽しみをひとつ増やすことです。
短歌がうまくなることじゃないんです。この講座において、短歌がうまくなることは、「人生の楽しみをひとつ増やす」という目的のための手段のひとつにすぎません。(中略)
だから、もし課題の中で、「楽しくないな」と思うものがあったら、飛ばしてください。できなかったらできないでいいんです。
こう書いてあるのもいいなと思った。短歌づくりなんてほんと、ただの楽しみでしかないもんね。ただの楽しみに時間を使うこと。なんて贅沢なんだろう。
そんなわけで一日目。
かんたん短歌のルールで短歌をつくろう
「かんたん短歌」とは歌人の枡野浩一さんが発明した、「簡単な言葉だけでつくられているのに、読むと思わず感嘆してしまうような短歌」だそう。え〜逆に絶対むずかしいやつ〜と思ったら、著者も「短歌が長い伝統の中で積み上げてきた本質を、一切のごまかしを拝してつきつめた、極端にストイックな短歌」だと思っているとのこと。なおさら無理では……と思ったけど、そのかんたん短歌のルールで短歌をつくれば、短歌の技術を身につけやすいという。
枡野さんによるかんたん短歌のルールと、それがなぜ短歌の技術向上につながるかという著者の説明ののち、それをアレンジした、この講座におけるルールが示される。
まとめましょう。今回の課題のルールは四つです。
・三十一音ぴったり(句またがりはOK)
・一字空け・句読点なし
・助詞を抜かない
・新かなづかい・口語
この四つのルールを守ったうえで、同じ内容の歌を五通りの言いまわしでつくり、その中で一番しっくりくる歌を選んで○をつけ、提出課題としてください。
というわけで挑んでみました。わたしはやっぱり自分のやりたい二次創作短歌。
テーマとして選んだのは、ちょうど見返したばかりの『虎に翼』の第一週に登場する寅子の女学校時代の担任の先生。寅子と直言の能天気親子が大学行くから推薦状書いてくださいって能天気に頼みに来たとき「まずお母様がお帰りになって話し合ったほうが……学を付けすぎるとお嫁の貰い手が……」と困りきっていた先生だ。
わたしがテーマにしたいと思ったのは、二人との面談が終わり、ひとり教室に佇む先生。それからしばらくして授業終わりに階段を降りていく寅子に、声をかけたそうにその背中を見つめながら、結局何も言えなかった先生。
そんな先生の無言の気持ちを歌にしてみたいと思った。
①夢語るあの子に何も言えなくてあの子はわたしかつてのわたし
②これだから女はと今日も言われたこんな地獄にあなたも来るの?
③がんばってとただそう言えたならよかったあなたの背中いつかのわたし
④軽やかに駆けるあなたのゆく道はいつかのわたしが転んだ道
⑤学のある女はだめとどの口が言うのだろうとくちびる噛んだ
いや〜やっぱり31字ぴったりってむずかしい。だけどそのルールの中であれこれ言葉やその順番を指折り数えながら頭の中で入れ替えたりする時間はとてもとても楽しい!
しかし5つ作って自分でひとつ選ぶことはむずかしい。どれもそれなりに気に入ってるし、どれも今ひとつな気もする。
描きたかったのは、この時代、結婚ではなく進学を選ぶことのしんどさを一番知ってる先生が、寅子の気持ちを応援したい、でも現実的にオススメはできない……という葛藤に悩む姿。職業婦人であることを蔑まれた経験なんていくらでもあるだろう。それでも働かねばいけない事情が(それこそばけばけのおサワのように)あったのかもしれないし、彼女なりの理想があって教師になったのかも知れない。それはわからない。それでも自分の選んだ道を迷いなく教え子に勧められる状況でないことは、無言のシーンで察せられる。
まず①、これは自分的にかなりストレートな短歌で、一番最初に形になったもの。目の前の寅子にかつての自分を見たんじゃないかな……という想像を乗せた歌。
②はいちばん二次創作短歌っぽいなと思ってる。「地獄」というとらつばにとって重要なワードが入るのもそうだし、ドラマの中で先生が「これだから女は」なんて言われたシーンはないんだけど、時代背景も含めるとあったんじゃないかという妄想を乗せた二次創作。捏造だけど「今日も言われた」というライブ感も気に入ってる。
③は①の変奏。ほんとはただ何も考えずに応援したいのに、そうできなかった自分への後悔がよりにじむ。
④はあまりうまくできなかったけど、「虎に翼」という物語の根底に流れるフェミニズムに一番近い短歌だと思っていて、自分の時はここまでしか行けなかった道を次世代の女の子はもっと先まで行ってくれるといいなという願いをもっとポジティブに乗せたかった。
⑤「あまり学をつけすぎても……お嫁の貰い手が」なんてそれこそ先生が言われた言葉なんじゃないか。それを教え子であり若い寅子に、よりにもよって自分が言う残酷さに自分が傷付いたんじゃないか。それを歌にしたかったのだけど、まだピンと来る出来ではない。
というわけで自分が選ぶ一首は一番二次創作っぽいという理由で②です!もっと時間をかければ④や⑤をブラッシュアップできる気がするけど(本を読んで5首出すまでほぼ一日)、まぁワンステップということで!

今回、この作品のこの人のこのシーンの気持ち!とかなり限定して考えたことで言葉にしやすかったように思う。今後も設定をしっかり考えよう。
また、自分が自分の短歌に対して思うのは、イメージの飛躍や予想外のワードチョイスが下手だなぁということ。形になるのはストレートな短歌ばかり。でも二次創作だとあんまり飛躍しても良くはない、二次創作とは書き手と読み手のイメージのすり合わせなので……という考えもありつつ。あくまで二次創作だと言い張れる範囲内でもっと飛躍できたらなぁと思う。やっぱりもっと人の短歌をたくさん読んだほうがいいんだろうな。
そんなわけでこれからも引き続き、本書読みながら短歌を作り、自分で自分の作品について考えてみたいと思う。
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