Audibleをはじめてみた。

hinata625141
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公開:2024/11/6

Audibleをはじめてみた。

健康のためにもう少し歩いたほうがいいんじゃないか、とずっと前から思ってた。思ってはいたけれど、仕事は完全在宅だし、まず家から出るのが億劫だ。子どもの送り迎えがほぼ不要になるとますます家から出ない。これは良くない、と思いつつ気づけば数年経ってる。でも無目的に歩くのも気が乗らない。どこか(本屋とかコーヒー屋とか)目指して歩けば結局お金がかかってしまう。できれば毎日、と思うとあまりお金はかけたくない。

ふと、Audibleを聞きながら歩くのはいいんじゃないか、と思った。Audibleは気になってたのだけど、そもそも通勤時間のない今の生活で聴く時間がないと思ってた。だけど一日少しずつでも歩く時間に聴けたら楽しいかもしれない。物語の続きが気になって歩くモチベーションになるかもしれないし。

そんなときたまたまこちらの記事を読んだ。

翻訳者の村井理子さんがゲラチェックにAudibleを使っているという話で、「音声は文字よりも情報量が多い」という言葉になるほどな〜と思う。わたしは自分が視覚優位な人間ではないかと思ってるけど、最近は本を読んでいても目が滑ってしまうことも多く、案外耳から聞くのもいいかもしれない。

そんなこんなでAudibleをはじめてみました。とりあえず3ヶ月99円だしね。

最初に選んだのは村上春樹の短編集『蛍・納屋を焼く・その他の短編』。

わたしは村上春樹の良い読者ではなく、『ノルウェイの森』『海辺のカフカ』『1Q84』、あとなにか短編集も読んだような気もするけどずいぶんまえのことで、もう殆ど忘れてしまった。ここ数年復刊が続いてるカーソン・マッカラーズが好きなので、どちらかというと翻訳家としての村上氏にお世話になってる。彼の訳文はとても読みやすい。

最初にこれを選んだのは、この短編集の松山ケンイチの朗読がとてもいい、というポストを何年か前に見かけたのが記憶に残ってたからだ。わたしは松山ケンイチ氏がとても好きなのでいつか聴いてみたいなと思ってた。

わたしは村上春樹に詳しくないし、村上春樹を巡る評論も読んでないし、ネット上にも星の数ほどあるだろう感想も考察も読んでないです。なので以下はほぼご新規としての感想です。


「蛍」

肝心なことは書かないのだなと思った。4時間もかけて「彼女」は何を話したのか。ぼんやりと予測はできるけどそれを「僕」と「彼女」以外の誰が知って何の意味があるのかとばかりに思い切りの良い省略が残す余白が文学的でよかった。『ノルウェイの森』の習作のような短編なのかな。

「納屋を焼く」

これも思わせぶりな周囲はたくさん書き込むのに「納屋を焼く」ことがなんなのかは書かない。「納屋を焼く」という言葉に「僕」も振り回されるし、その物語を囲む読者もまた二重に振り回される。あまり好きではないけど面白くはあった。イ・チャンドンが映画化した「バーニング」は視聴済み。この短編に格差社会への怒りを重ねていたのが韓国映画らしかった。

「踊る小人」

これは好き……!めちゃめちゃ面白かった。小人の登場や古い酒場の雰囲気、そして労働者小説であることもすごくカーソン・マッカラーズっぽい(村上氏はマッカラーズ大好きなので初期の作品が影響を受けてるのはおかしくないと思う)。権力に利用されてのちに断罪されるアーティストのようにも、大衆を操った権力者の象徴にも見える「ダンスの上手い小人」。人間中心主義的な社会、異端者を排除し続ける政治への皮肉に満ちた物語世界。それでいて物語の展開も次々と予想外の扉が開かれて最後までずっとびっくりしながら聴いてた。今日聴いた三作の中で一番好き。


短編3つ聴いて、おもしろいじゃん村上春樹!!!って思いました(みんな知ってる😂)

やっぱり若いときに読んだときと今では読書の経験値とかもぜんぜん違うから、今だからこそわかることもたくさんある。とにかく好き嫌いは別として面白い。途中でやめられなかった。あと耳で聴くと時間はかかるけどすごく集中できるし、ビジュアル的な想像をしやすい感じがした。もちろん松ケン氏の朗読も良かったです!好きな役者さんの声をずっとイヤホンで聞いてるというだけで一日の幸福度が上がる。いいなぁAudible。初日にして夢中です。そしてぐっと気温が下がった今日、聴きながら歩けたのもよかった。村上作品は冬のはじまりが似合うから。

@hinata625141
感想文置き場。たまに日記。