2日目の課題は
「自分の感情(うれしい、悲しいなど)を語らず、目に映ったものだけを書いた短歌をつくってみよう」
です。おぉ〜これもこれでやっぱりむずかししそう…。
①みんながよく使っている単語や表現を、安易に使わない
クリシェってやつですね。よく使われる表現は心に残りにくい、目が滑るから。たぶん小説だとある程度許容されるんだけど、短歌は文字数が極端に少ないのでありがちな表現は避けたいですよね。わかる。むずかしいけれども。
②「こんな感情にぴったりくる光景はないかな?」と探さない
光景と感情があまりにもシンクロしていると、急に嘘つぽくなってしまって、読む人の心に届きません。なぜなら、光景は決して自分の思った通りには動かないからです。自分の人生にどれほど劇的なことが起こったときも、世界って自分とは無関係に進んでいきますよね。自分の心と周りの世界の落差、光景と感情の齟齬にこそ、世界や人間の豊かさが表れます。なので、光景に自分の感情を象徴させないようにしてください。感情にぴったりくる光景を探しに行かないでください。
あぁ〜これは胸に刻んでおきたい。感情と光景を重ねると「上手い」感じもするじゃないですか。そういうひらめきに「おっ」と思いがちかもしれない、私が。
とくに〈自分の心と周りの世界の落差、光景と感情の齟齬にこそ、世界や人間の豊かさが表れます。〉ってすごく素敵なアドバイスだと思う。覚えておきたい。
じゃあどうしたらいいのかというと、感情にぴったりくる光景を探すのではなく、書きたいと思う光景を探したらいいとのこと。
あなたの目に飛び込んできて、「書きたい」と思った光景には、裏側にあなた自身が張り付いています。(中略)偶然目に入ったように思っても、実は何らかの自分の内面が反映されているのです。
これを読んで思い出したのは俵万智さんの歌。
ちょうど今、『あの人と短歌』という穂村弘さんの対談集を読んでいて、その中の俵万智さんとの対談の中で、
俵さんの『オレがマリオ』の、〈幼稚園の見学すれば父の日の父への手紙並ぶ教室〉という歌がありますが、この歌は単体では充分機能しないですよね。その前に〈貝殻をはずされてゆく寒さにて母子家庭とはむき身の言葉〉という歌があり、この家族が母子家庭だと読者に理解された上で読まれるからこそ意味を持つ。流れの中で、歌と歌が有機的に響き合うことで、連作としても魅力的になっている好例だと思います。
という穂村さんの言葉があるのだけど、わたしは〈幼稚園の〜〉だけでも読み手が母子家庭であることはピンとくると思った。なぜなら読み手が母子家庭じゃなかったとしたら、このなんでもない教室の様子をわざわざ歌にしようとは思わないはずだから。〈「書きたい」と思った光景には、裏側にあなた自身が張り付いています。〉というのはまさにこういうことなんじゃないかと思う。
ちなみに俵万智さんはこの「光景だけを書く短歌」の名手だと思う。私の本棚には『未来のサイズ』という歌集があるのだけど、ほんとうにどのページを開いてもあるのでは?というくらいに「光景だけを書く短歌」がある。感情は一言も語らずとも感情の見える切り口。
昼食のカレーうどんをすすりつつ「晩メシ何?」と聞く高校生
冷凍庫のハーゲンダッツ思い切り食べねばならぬ停電の夜
シャーペンをくるくる回す子の右手「短所」の欄のいまだ埋まらず
この『未来のサイズ』という歌集には、韓国のセウォル号事件について書かれた一連の短歌がある。短歌の天才が二十一字に込めた怒りの鮮烈さに、わたしは読むたびに泣いている。
子どもらを助けていたら沈むから下着姿で逃げる船長
あの世には持っていけない金のため未来を汚す未来を殺す
沈むまで三日あったらできたこと三年たってもできてないこと
感情は言葉にせずともこんなにも伝わるのだという、この上ない作品だとあらためて思った。
さて、「光景だけを書く短歌」の実作!
あらためて考えてみるとなかなかむずかしい。自分が過去に書いた二次創作短歌に何かないかと探してみたけど、思ったより少ない。なんやかんや感情を入れてしまってるんですよね。そのほうがたぶん楽だから。こんなふうに実景と感情を分けて短歌を読むのも初めてだったので、その観点で自分の作品を見るのは面白くはあった。
マフラーを取るのも待てず抱きしめた君の髪から潮の香りが
これは過去に書いた朝ドラ『おかえりモネ』の二次創作短歌を改良したもの。遠距離恋愛中の二人が、イメージとしては中間地点である仙台かどこかのホテルかどこかでひさしぶりに会った瞬間をイメージして書いた。自分ぽいストレートな歌だなと思う。「潮の香り」がちょっとクリシェか…?と思ったり。
「光景だけを書く短歌」、二次創作は逆にむずかしいのでは?と思ったのでオリジナルも考えてみた。
こぽこぽと詩人の言葉みつる本屋そとから見たら水槽みたい
先月参加した詩の朗読会についての短歌。こじんまりとした本屋の中で行われた朗読会だったのだけど、詩人の川口晴美さんの紡ぐ言葉とそれが生むイメージが目には見えないけど充満した空間で、その本屋は路面店だったのでガラス窓やガラス戸の向こうはふつうに通行人が行き来する日常があって、そのギャップの面白さが印象に残ってたので歌にしてみたかった。
雪かいて貼ったポスター雪に埋まった権利も埋まった二月の選挙
こちらはストレートな時事短歌です。選挙ポスター掲示板の設置を請け負うシルバーセンターのおじいちゃんたちが指示された設置場所に行ってみれば完全に雪に埋もれててまずは雪かきから……という様子をテレビで見て、ほんとに不条理だなと思った。設置したポスターもきっとすぐ雪に埋まる。災害級の大雪のなか、投票に行きたくてもいけない人がたくさんいるだろう。投票権を軽んじられて本当に腹立たしいね‼️の歌です。
さて最後は『虎に翼』の二次創作短歌。
とらちゃんの歌とわれらの笑いごえ 최향숙は海をわたるよ
ヒャンちゃんが朝鮮に帰る決断をして、五人で海に行った日の光景。「砂に書いた」とか「波で消えた」とか最初に思いついたけど、クリシェ!!!と心を鬼にして遠ざけた。「최향숙」(チェ・ヒャンスク)という文字が波に消されてしまうのが、言葉やアイデンティティを奪われたヒャンちゃんの現実に重ねやすいとは思ったけど、「波に消される」より「海をわたる」でポジティブなイメージを重ねたかった。少なくともあの海辺のひとときは幸せだったと思うから。
すりきれた本をなぞる指先が未練にふるえ息もふるえて
これは寅ちゃんがついに弁護士の道を諦めて泣きながら法律の本を行李にしまう、何度見ても泣いちゃうシーン。最初は「すりきれた本をなぞる指先が異議を唱えた『ここにいたい』と」で決定しようとしたけど、下の句が気持ち入っちゃってるな……と思って修正。
そんな感じの第二回でした。二十一字というしばりのうえにさらに光景だけを書くというしばりがあるの、もちろん大変だけど、今まで好きなように書いてきたからこそ、しばりがある方がいろんな発見があって楽しいなと思った。なにより光景だけで感情やニュアンスをにじませるの、とても面白いなと思う。これからも意識して光景だけの短歌、つくってみたい。

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