紡がれるフェミニズム

hinata625141
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公開:2024/6/14

山内マリコさんの新刊『マリリン・トールド・ミー』を読んだ。山内さんの小説読むのひさしぶり。表紙が素敵すぎてスルーできなかった。コラージュいいよね。岡上淑子さんの展覧会を何年か前に見て、めちゃめちゃ素敵だったので自分でもやってみたいなぁと思ったことがある。でも最近はあんまり雑誌も買わないしね〜

マリリン・モンローはほんとうにセックスシンボルだったのか?という再評価と、2020年代の日本の若者にとってのフェミニズムを接続する試み、おもしろい!!!

主人公はジェンダーのゼミをとっていて卒論のためにマリリンの人生や世間の反応を調べていくんだけど、実際わたしもマリリンなんてルックくらいしか知らないので、へ〜そうだったんだ〜!とひとつひとつ新鮮に驚いたし、ゼミの他の子や先生の発言もとても興味深くて頷けることが多かった。

一方、〈正しさ〉を身につけなきゃいけない、奨学金やばい、就職できない……と、ひとつひとつ詰んでいく現代の大学生像が息苦しそうで、でもきっとこれはリアルなんだろうなぁと思う。ずいぶんのんびりした大学生活を送ってしまった世代として申し訳なさが先に立つ。

こんな社会なのでラストはハッピー!とまではいかないんだけど、でも主人公だけじゃなく若者みんなにエールを送りたくなるような最後だったのがとてもよかった。

山内さんは生きづらさの正体、それについての解像度が高い作家さんだなと思う。もっと評価されてほしいなと思う一方、文壇的評価なんか無視して自由でいてほしい。とりあえずたくさん売れてほしいですね。売れるの大事。


これを読み終え、ふと思い出して『エトセトラvol.2』を引っ張り出してきた。山内マリコ・柚木麻子責任編集「We ♡ 田嶋陽子!」号だ。

この中で山内さんが衝撃を受けたと紹介されてたのが『フィルムの中の女 ヒロインはなぜ殺されるのか』という田島さんの映画批評本だった。これまだ読めてないんだけど、『マリリン〜』はこの本からインスパイアされたんじゃないかなと思う。復刊されてるので早く読まなきゃな。

『エトセトラ』も前に読んだはずだけどすぐ忘れてしまうので改めてまたぜんぶ読んだら、めっちゃめちゃ面白かった。田嶋陽子さんはほんとにすごい人だ。

わたしもそれこそ大学時代、大学のイベントか何かで田嶋陽子さんの講演会があってひまだったから見に行ったことがある。当時のわたしにとっては田嶋さんは〈テレビに出てる有名人〉であり〈おじさんたちにワーワー大声で文句を言ってる人〉というイメージだった。講演の内容はぜんっぜん覚えてないんだけど、実際にお話を聞いたらそれがすっごく面白くて、お話の内容もめちゃめちゃ頷けることばかりで、テレビのイメージと全然違うなぁ〜とびっくりしたことだけ覚えてる。

『エトセトラ』に話を戻すと、柚木麻子さんによる「田嶋陽子出演映像全レビュー」というコラムを読んで、えっ田嶋さん『スーパーの女』出てたっけ???とびっくりして、録画してある『スーパーの女』を見ることにした(しばらく前にCSで伊丹十三全作品放送祭がやってたので全部録画しておいたのだ)。

それも大学生のころなのだけどわたしはなぜか伊丹十三のエッセイにハマってて、もう手元にないので何にそんなにハマっていたのかあまり思い出せないのだけど(そんなのばっかり😂)、何年か前に漫画家の瀧波ゆかりさんが彼のエッセイを紹介したツイートがバズってたので、たぶん今読んでもそんなに違和感がないんだと思う。当時において権力のある男性なのにフェミニスト的思考を持っていたのはすごいことだなと思う。

伊丹映画は金ローとかで何度となく見たような気もするけど、ちゃんと見ようと思って見たことがなかった。だけど10年くらい前にそれも何きっかけか忘れちゃったんだけど、伊丹作品をぜんぶ見よう!と思ってレンタルで全部かどうかはわかんないけど主要な作品は見た。

それとき以来の『スーパーの女』。伊丹作品は今のところ配信がない。

田嶋陽子さんが出てるのは知らなかったというより忘れてた、もしくはあまり気に止まらなかったんだと思う。そのくらい、良い意味で田嶋さんが目立ってない。この映画はとにかく主張の強そうなおばちゃんがいっぱい出てくる、日本ではめずらしいおばちゃんど真ん中ムービーなのだ。

つぶれかけのスーパーを立て直すため、お客様のため、そしてなにより働いている自分たちの誇りのため。わからずやの上層部や気難しい職人相手を説得するのに宮本信子が使う手はねばり強い交渉、そして働き手と客の垣根も超えたおばちゃんたちとの連帯。今見てもほんとサイコー😭

伊丹映画は中年女性の出演者がとにかく多い。グイグイくるおばちゃんもいれば、気弱そうなおばちゃんもいて、全方位に目を配りながらど真ん中で交渉役を果たすおばちゃん代表・宮本信子もいる。ドラマや映画におけるマイノリティ表象、一番大事なのは数を出すことだよなと改めて思う。たくさんいるから「個」が見える。「個」が見えて初めて、「マイノリティ」じゃなく「人」になるんだと思う。セクマイもおばちゃんもどんどん出して。

そしてもし今リメイクするなら津川さん演じる専務もおばちゃんにしてほしいな〜。小林聡美さん(花子)と薬師丸ひろ子さん(専務)でどうでしょうか。間違いなくおばちゃんシスターフッドムービーの金字塔になります。ゲイ男性、トランス男性、シス男性が全部出てくるリメイク『スーパーの男』もぜったい名作になるよ!


ところでスーパーマーケット映画といえばおとなり韓国の『明日へ』という映画が、スーパーの非正規労働者問題をテーマにした当事者目線の物語でとっても良かったのだけど、なぜか日本の配信にあまりない…。わたしも一度配信で見たきりでまた見たいと思ったのだけど、今検索したらどこの配信に入ってない(頼みの綱のU-NEXTまでも!)。

労働者問題、とても切実なのでもっとそれをとりあげる映画もドラマも増えてほしいなと思う。この夏公開の『ラストマイル』は運送業界が舞台なのでそのあたりの言及もあるのではないかと期待してる!


いろいろとっちらかりつつも、「歴史」と「それを語る人」が大事なんだな〜と改めて思う日々。世代ごとに途切れがちなフェミニズムの歴史を文学で繋いでいこうとしてる山内マリコさんと柚木麻子さん、そしてもちろん田嶋陽子さんもあらためて推します♡

@hinata625141
感想文置き場。たまに日記。