ばけばけとばけばけな本の話(その9)

hinata625141
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公開:2025/11/30

第9週「スキップ、ト、ウグイス。」

とにかく全方位、かわいい〜〜の一週間でしたね!「スキップ、ト、ウグイス。」の週タイトルまでかわいい!紹介する本もかわいいよ!

黄色い葉っぱの木と赤い葉っぱの木が並んでるのを写した写真

(今週は書影もなかったのでなんとなく近所の紅葉を載せてみました)

恋のライバル!?と予告で煽られたおリヨさまがさっそく月曜日からご登場。「あなたはわたしのライヴァルなのかしら?」とトキに牽制したりヘブン先生に猛アタックしたりとお嬢様らしい我の強さを見せるおリヨさまだけど、トキにはあっさり心を開き「八つ当たりしたい」などとあっけらかんと話す様子がなんともチャーミング。

だけどおリヨさまは月照寺や城山稲荷など日本古来の文化に目を輝かせるヘブンには少し不満気。東京の女学校に通っていたというおリヨさまからは、西洋的なものへのあこがれと、日本古来のもの=松江そのものへの嫌悪がうっすらと感じられます。東京で文明開化の音を聞きハイカラな文化を楽しんだらそうなってしまうのもわかる……

おリヨさまは今の『ばけばけ』の世界のなかでは一番恵まれた立場の女性ですが、それでも好きなように生きるという選択肢はありません。おそらくおリヨさまにとってのヘブン先生は、松江の外へ飛び出し西洋文化に囲まれて生きるためのパスポートです。「おなごが生きていくには身を売るか男と一緒になるしかないんだけんね」第2週で遊女のなみが言ったこの言葉が何度でも思い出されます。なみ、トキ、リヨの三人の女性は生まれも境遇もぜんぜん違うけれど、ヘブン先生というカードを手に入れることで自分の置かれている苦境を打破しようとしたのは同じです。どうしたって男性を頼るしかない、当時の女性たちの生きづらさを何度でも想像させてくれる良質なドラマだなぁと思います。

それはそうとトキとヘブンの関係がはじまりそうではじまらない、ふたりとも無自覚だけどはじまってるのかも……?という描写の積み重ねににまにましちゃいますね。トキが飾った花を気に入って絵に描くヘブン、トキがいなくなったと思って血相変えて探し回るヘブン、トキのスキップと笑い声を聞きながらひとりでこっそり笑うヘブン……えっちょっと待って、こう書き連ねるともう完全にはじまってるな!?!?「キミと一緒に歩きたい」なんて別の女性に手紙を書きながらなのでヘブン先生的にまだ無自覚だとは思いますが……。

トキはトキでべつにリヨに対してジェラシー的なのは何も感じてなさそうなのに、ヘブンになにか声をかけられたりするとうれしそうだし、ラストシーンのスキップもヘブンの花の絵を見て心が弾んだからかな〜と思うとこちらも無自覚にはじまってる感じがしますね!

そしてトキヘブより先に恋のはじまってるおじじさま、かわいい〜!小日向さんのかわいさ、ずるすぎ〜!な八重垣神社の恋占いでした。いつか行きたい八重垣神社。

それから週を追うごとに錦織さん演じる吉沢亮さんコメディ上手すぎてジタバタ(?)してます。トキと錦織さんのボケツッコミ最高すぎませんか!?真面目にやってるだけなのに面白い、その塩梅が絶妙です!知事やヘブン先生相手に空回りしてるときの死んだ目も面白すぎ😂 錦織さんまだまだ退場しないで〜と祈ってます!

来週も楽しみです!!!


●ばけばけな本(9冊目)

小泉セツ『思い出の記』

おトキちゃんのモデルである小泉セツさんが小泉八雲の死後に八雲との思い出を頼まれて語ったものをまとめた一冊です。なんと青空文庫にあります!

ヘルンが日本に参りましたのは、明治二十三年の春でございました。

という一文から始まるこの回想録、ヘルンが亡くなるまでの夫婦の日々が語られるのですが、先週紹介したお手紙もそうなんですが、二人のやり取りがかわいすぎてめっちゃくちゃ和みます。明治の世にこんなラブラブ夫婦が本当に存在したんですか???

デートの記録かな?ってくらい二人で散歩するエピソードが多いです。ある日二人で散歩中に見つけた寺を気に入り、ここに住みたいというヘルンさん。

『あなた、坊さんでないですから、むつかしいですね』

『私坊さん、なんぼ、仕合せですね。坊さんになるさえもよきです』

『あなた、坊さんになる、面白い坊さんでしょう。眼の大きい、鼻の高い、よい坊さんです』

『同じ時、あなた比丘尼となりましょう。一雄小さい坊主です。如何に可愛いでしょう。毎日経読むと墓を弔いするで、よろこぶの生きるです』

『あなた、ほかの世、坊さんと生れて下さい』

『あゝ、私願うです』

自分が坊さんになるならあなたは尼になってくださいと……生まれ変わっても一緒だよってことですよねありがとうございます🙏

またヘルン先生は自分は行かないのにセツさんには評判の良い芝居に行ってきてその話を自分にしてくれとせがむのですが、

『しかし、あなたの帰り十時十一時となります。あなたの留守、この家私の家ではありません。如何につまらんです。しかし仕方がない。面白い話で我慢しましょう』と申しました。(中略)

(帰りが)少しおくれますと車が覆ったのであるまいか、途中で何か災難でもなかったかと心配したと申して居りました。

自分が行かせたのに寂しがったりハラハラしたり大騒ぎな愛妻家です😂

執筆中の物音で考えを邪魔されると怒るというのはドラマでもすでに描かれていますが生涯そうだったようで、それについてもセツさんは、

こんな時にはわたしはいつもあの美しいシャボン玉をこわさぬようにと思いました。そう思うから叱られても腹も立ちませんでした。

と愛おしそうに語っていて、「あの美しいシャボン玉をこわさぬように」という言葉選びも含めて素敵だな〜愛だな〜としみじみします。

ヘルンの好きな物をくりかえして、列べて申しますと、西、夕焼、夏、海、游泳、芭蕉、杉、淋しい墓地、虫、怪談、浦島、蓬莱などでございました。

夕陽が好きで、西向きの部屋が空きで、夫婦二人でのお散歩が大好きで、そんなヘルンさんを語るセツさんの言葉からあのOP「笑ったり転んだり」の歌詞が生まれたんだな、ほんとにあの二人のテーマソングそのものだなと、あの歌がますます好きになりました。

この回顧録をヒントにしたエピソードがこれからもたくさん出てきそうで、そのたびに読み返してにまにましようと思います!

ちなみにに青空文庫はアプリがありまして、スマホだとそちらから読むのが読みやすいです。小泉八雲の怪談もいくつか収録されてますので読んでみたい方はぜひ〜!


過去の週の感想は↓の「ばけばけ」タグに並んでます(最近ばけばけの感想しか書いてませんが…)

@hinata625141
感想文置き場。たまに日記。