『虎に翼』第15週ふりかえり

hinata625141
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公開:2024/7/14

第15週「女房は山の神百石の位?」

女房はきわめて大切なものであるというたとえ

寅子にとっての女房は花江。今週はそんな二人のぶつかり合いから始まる、寅子にとっても私にとっても苦しい一週間だった。


今週は全体的にチクチクと針で刺されるようなつらさがあったのだけど、わたしはとくに木曜の家族会議がしんどかった。どうしてそんなにしんどく感じてしまったのだろう。そのことについてずっと考えていた。

まず花江との、夫婦喧嘩のような喧嘩。経済的な依存関係にあるからこそ言えないことが積もっていくこと。やってもらっていることに慣れすぎてそれが透明化されてしまうこと。これって現代でもあるあるで、ケアワークは軽視されがちだ。実際に寅子は相談もせずに優未とふたりで新潟に行くと決めていて、今の優未とその生活を守ってるのは花江だってことが見えてない。

子どもの世話はとにかく手間、手をかけなきゃいけないことが多い。男性と同じようにフルタイムで、もしくはそれ以上に働いている寅子が、まだ小学生である優未の面倒を見れるのか。寅子の働き方を間近で見ている花江や直行の懸念は当然のことだった。

ただその一方で、テストの改ざんに気づかなかったこと、優未が寅子に対して「スンッ」としてしまってることについてまで寅子が責められるのは酷だと思った。それこそ「完璧な母」を求められているようで息が詰まる。そう感じるのは自分もまた、母親だからかもしれない。

優未が、夜遅くにならないと帰ってこないワーカホリックな母親より、いつも家にいて、おかえりと出迎えてくれておいしいごはんをつくってくれる叔母の花江のほうになつくのは道理だと思う。だけど、じゃあ寅子はどうしたらよかったんだろう。

「そんなふうに家族に目を向けられないくらいまで頑張ってくれなんて私頼んでない!」と花江は責めるように言ったけれど、そもそも女性が男性と同じように働けるとだれも思ってない社会の中で、男性ばかりの職場で、女性である寅子が責任のある立場で働くことのつらさを、花江はきっとわからない。寅子はそういうことを、せめて花江とは話していたら、弱音を吐いていたら、良かったのになと思う。

この時代において女性の身でありながら寅子が家族を、娘だけじゃなく兄弟親族まで一人で養っていたのは本当にすごいし、めちゃめちゃレアケースだと思う。それはもともと家が裕福で両親に理解があって大学にまで通わせてもらえる環境に「恵まれていた」から、ではあるのだけど、女性差別のひどい時代と社会のなかで負けずに(負けたこともあったけど)ふんばりつづけた、寅子の努力ゆえに切り開かれた道だった。

ちょっと気になって調べたのだけど、遺族年金の支給は1952年から。終戦から7年(ちょうど寅子が新潟に転勤になるまで)、女性にろくな働き口もないまま、戦争で男手を失った母子家庭は何の補償もないまま貧困にあえいだという。花江のケアワークの負担は大きかったとはいえ、花江自身が外で慣れない仕事をする必要もなく、子供たちはちゃんと学校に通えて、家では子供らしく笑っていられた。そんな家庭の土台を守ったのは寅子だったのだ。

だからこそ、「良い母親じゃなくてごめんなさい」と寅子が優未に謝るのがつらかった。職場では困った人たちのために、そして後進の女性たちのことまで考えて働きづめ、経済的には母子家庭ふたつを背負う寅子が、「良い母親」まで背負わなくちゃいけないのかと。

「おりこうさんでいてほしい」という呪いをかけてごめんねと寅子は謝るが、寅子だって「良い母親」という呪いにかかってる。「良い母になんてならなくていいと思う。自分が幸せでなきゃ誰も幸せになんてできないのよきっと。」梅子が花江に言ったこの言葉を、誰か寅子にも言ってあげてほしい。

『カーネーション』の糸子もワーカホリックなシングルマザーで、娘三人に教育も望むものも可能な限り与えはしたが、けっして「良い母親」ではなかった。三女の聡子がテニスの全国大会で優勝しながらも、自分を見てくれないのが「さみしい」からもうテニスは辞めると糸子に告げたしずかなシーンは忘れられない。娘から母親へ0点を突きつけたシーンだった。

今放送中の『あの子の子ども』というドラマにも対象的な二人の母親がいる。主人公の一人である川上福の母・晴美(石田ひかり)は専業主婦で、福の恋人である月島宝の母・直実(美村里江)はシングルマザーの介護士だ。ある日、宝は晴美の誘いで川上家で晩ごはんをいただくことになり、そのことは母親にも連絡済みだったが、急な残業でそれに気づかなかった直実はスーパーで惣菜を買って帰宅していた。「これ、母さんにって。うまいよ」と渡されたタッパーには晴美手作りの餃子が詰められていた。それを見た直実は買ってきた餃子のパックを手に「こっちもうまいよ」とひとりごちる。餃子は宝の好物だった。ささやかなこのシーンにも直実の気持ちを想像して勝手に胸がぎゅっと締め付けられる。

100点満点の「良い母親」なんていない。わかってる。わかってはいても、子どもにとって自分が「良い母親」じゃないことに罪悪感を覚えないわけじゃない。私自身もその気持ちをうっすらと抱えているからこそ、今週の家族会議は見ていてつらかったのだと思う。ヴァージニア・ウルフが殺さなければならないと言った「家庭の天使」(自分のやりたいことよりも他者の期待に応えようとしてしまうこと、その抑圧)とも重なる、「良い母親」であるべきだという抑圧。

……だけどそもそも「良い母親」ってなんだろう。花江が「良い母親」であるならば、ある程度ケアに時間をさける人じゃないと「良い母親」にはなれないんだろうか。それは違うはず。親業に向き不向きもあるだろう。たとえ寅子が仕事をやめたとしても、花江のようにはなれない気がする。

ただ一方で、優未が寅子の前では「スンッ」とするのに花江の前ではのびのびできるというのは、ケアワークの再評価でもあった。優未にとって寅子は誇らしい存在ではあるかもしれないが、心を許すのはそばにいて自分をこまやかにケアしてくれた花江なのだ。

かつて花江は自分のことを「戦わない女側」だと言った。寅子と花江はもと同級生で親友なのに、正反対の生き方を選んだことでときにぶつかり合う。「戦う女」も「戦わない女」もいていいし、「経済的に支える人」も「家族をケアする人」のどちらも必要なのに、そこに分断が生まれてしまう。その分断を産んでいるのは、長時間労働を前提としたケアワークの偏りであり、ケアは女性の役割と決めつける社会構造なのだということを、一つの家族、同性の親友同士の関係性に集約して見せた脚本は見事だった。

結局、寅子と優未の関係は修復されないまま物語は新潟編に突入する。きっとそんな簡単に解決することじゃない。わたしも引き続き考えてみたい。自分の心の中にあるうっすらとした「良い母親」のことを。

(わたしは志の低い母親なのでほんとうに「うっすら」です😂)


新潟行きの前に寅子とヒャンちゃんがちゃんと向き合って話ができたのはよかった。でも彼女の決断はあまりにつらい。娘が差別されないように出自を隠さなきゃいけないなんて。そういうことをさせてしまう社会。

崔香淑は捨てたの。娘のために。その覚悟で娘を産んだの。わたしが選んだの、ここで日本で生きていくことを。だから汐見香子でいなきゃ。

それでも、いつか梅子とよねに会いに行ってほしいな。小橋と稲垣だって香子ちゃんがヒャンちゃんだと知ったらきっと喜ぶし、秘密にしたいならその意志も守ってくれると思う。彼女のまわりに、一緒に笑いあえる人が増えてくれますように。

そしてよねとら〜!完全な雪解けまではいかなかったけど、いつのまにかよねは寅子を受け入れている。何度来るなと言われてもめげなかった寅子の粘り勝ちかな😂 「うっとうしいついでに言っちゃおうかな」と、寅子はよねに司法試験の再受験を勧める。

わたし確信してるのよ。弁護士になったよねさんににしか救えない人たちがたっくさんいるって。

これは本当にそう!なにより、よねさんのような人が弁護士になれること、そのこと自体がこの社会の光となる。次に会えるときにはさくっと弁護士になっててくれたらうれしいな。法廷に立つよねさんのかっこいい弁護士姿を早く見たいよ。

梅子さんはどうなんだろうなぁ。もう司法試験を受けるほどのモチベーションはないのかもしれないけど、なにがしらか法に関わる仕事をしてくれたらいいなと思ってる。調停員とかどうでしょう?もしくはよねが弁護士になったら、あの事務所のパラリーガルとしてバリバリ働くのもいいね!


さて来週はタイトルが「女やもめに花が咲く?」で、航一さん再登場なので何かが始まってしまうんでしょうか!?と期待。あと「ヒロイン水に落ちる」という朝ドラお約束がまさかの中年期にやってくるとは思いませんでした😂

キャストがガラッと変わる新潟編も楽しみです!


第14週シナリオふりかえり

  • 梅子さんの雑炊を食べた戦争孤児たちの「よねさんの雑炊、味しねえもんな」に笑った(轟も味しねぇなって思ってたけど言わなかったのかもな…やさしい😭)

  • 航一との出会い、シナリオでは長官の部屋の中だったのが放送では廊下になってた。あの廊下の距離感、えらい遠いところから見てるな…という違和感があったのが逆に航一の謎めいた感じに合ってて良かった

  • この当時の生理用ナプキン事情がシナリオにはあるのだけど放送ではカットされてる

  • 星長官が竹もとで序文を読み上げるシーンの入るタイミングが違う。わたしはここは放送のほうがいいなと思った。

  • 穂高教授の引退パーティのスピーチからの大喧嘩、ここがかなりシナリオから改変されていて、わたしは正直シナリオ通りのほうが良かったと感じた。壇上から謝られたら許すしかなくなる。そら怒るわ。と、すっと理解できる。朝ドラ受けやTLの雰囲気からしても寅子の怒りの理由があまり伝わってない感じがした。

  • 親権を持ちたがらない母親について、寅子が梅子に意見を聞きに行くシーンがまるっとカットされてたけどここは入れてほしかったなぁ…。「女だからって押し付けられることじゃない」って梅子さんが言うから重みがある。

  • 「花束拒絶事件」ってライアンに命名されてるの笑う😂

  • 桂場が皿を食うのはシナリオ通り😂


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