第25週「女の知恵は後へまわる?」
今週は先週から引き続き、尊属殺違憲裁判、少年法改正問題、桂場の推し進める「強い司法」問題が描かれた。またふたたびの女子部集結、それぞれの道が開けるなど、この物語が閉じる日に向かって胸熱なシーンも多い一週間だった。
まず少年法改正問題。
審議会が改正ありきで話を進めようとするのに待ったをかける寅子とライアン。まず新しい制度を作ってからというやり方は家裁の成り立ちと同じでは?と反論されるも、ライアンは「はて?」と返し、「家庭に光を、少年に愛を」のスローガンを改めて口にし、あのころの自分たちが突き進めたのはそれが「少年たちにできるベストだと信じていられたから」とにこやかに語りかけながら、暗に今この議論は少年たちファーストになり得るか?と相手に内省を求めた。ライアン先輩かっこいい〜!(大拍手)会議が終わって寅子と汐見を前にライアンは「タッキーに会いたいね」としみじみ語る。イマジナリータッキー、ライアンのところにも出てきてあげて……😭
だが一方で、家裁のありかたについては組織の内部からも疑問の声が上がる。大好きな円井わんさんが演じる調査官・音羽が、個人の裁量や努力で補ってきた現行システムに無理がある、と進言したのは現代でもおもに福祉まわりで起きていることと同じだ。お金がない人手がないで、志ある人のやりがい搾取でギリギリで回している。なぜ予算がないのか、人手がないのか、組織のシステムそのものへの不満は当然のことだった。
ただ寅子としてもこれまでのやり方が少年たちにとってのベストであるという信念は変わらない。実際、道男はしっかりと働きながら、梅子とともに補導少年の受け入れ先となってかつての自分のような少年たちを救っている。ではどうするべきなのか、という答えはまだ出ない。
司法に思想が入ること、さらにはそれを理由に政治が介入してくることにを警戒する桂場によって、朋一も勉強会の仲間も左遷された。あからさまなやり口に、さすがに黙っていられなくなった寅子が長官室の扉をノックする。
「裁判官は孤高の存在でなければならない。団結も連帯も政治家たちが裁判の公正さに難癖をつけるための格好の餌食になる」と一蹴しようとする桂場に寅子は「純度の低い正論は響きません」とかつて桂場に言われた言葉で応戦する。「政治家の顔色を見て未来ある若手裁判官を見せしめにして、石を穿つ雨だれにもせず切り捨てたということですよね」「あの日話した穂高イズムはどこにいったんですか」と責め立てる寅子に桂場は「出ていけ」と一喝する。なんだかんだで互いを信頼していた、穂高門下の兄妹のようだったふたりの決裂はあまりにつらい。
桂場は「孤高の存在でなければならない」と思いすぎるあまり、長官としても周囲の意見に左右されないよう、ライアンさえも遠ざけて自らを孤独に追い込んだ。だけど他者の意見に耳を貸さず、すべてを自分の価値基準で決定するということは、独裁と変わらず、公正からは一番遠い。
「お前の掲げてる司法の独立っていうのはずいぶんさみしくお粗末だな」
イマジナリータッキーの言葉は桂場の内面にある言葉でもある。自分でも間違えたことは嫌というほどわかってはいるのだ。
そしてそんな桂場に次に挑んだのは航一だった。尊属殺人の違憲裁判を最高裁にかけるべきだという意見書を出すも「時期尚早」と言われたことに反発する。
「法は法、道徳は道徳だと思いますが?」
これは昭和25年、尊属殺重罰規定を合憲とした最高裁判決に、違憲であると主張した穂高教授の反対意見からの引用だった。
「この度の判決は、道徳の名のもとに国民が皆平等であることを否定しているといわざるをえない。法で道徳を規定するなど許せば憲法14条は壊れてしまう。道徳は道徳。法は法である。今の尊属殺の規定は明らかな憲法違反である。」
航一も今回の違憲裁判の調査において当然この穂高の意見書を改めて読んだだろう。穂高門下生である桂場にとっては耳に痛い言葉だったはず。夫婦(のようなもの)揃って…と苛立ちもあっただろう。「机上の理想論」と切り返すも、その言葉こそかつて戦時中に総力戦研究所で出した結論を「机上演習」と突っぱねらどうしようもできなかったかつての自分を思い出させ、航一を激高させる。
「たとえどんな結果になろうとも判決文は残る! ただ何もせず人権蹂躙から目をそらすことの何が司法の独立ですか!?」
こんなに怒ったことないから体中の血が頭に登っちゃったのか、鼻血を出して倒れ込む航一。そこで思わず相手を心配して立ち上がってしまうのが桂場本来の善性で、かつて妊娠中に倒れそうになった寅子を支えたのも桂場であったことを思い出してじーんとしてしまう。
膝枕までしてあげてるの面白かったけど(笑)、そのせいで足がしびれて立てなくなった桂場にここぞとばかりに自分の言いたいことを聞かせる寅子もさすがの胆力!ここで聞いている桂場の表情の変化が見事で、最初こそ、ここ最近の人を寄せ付けない狂犬のような目で寅子を睨みつけているのに、だんだん表情が柔らかくなっていく。
「実は私一周回って心が折れる前の、いえ、法律を知った若い頃の本当の自分に戻ったようなんです」
この一言で、桂場も思い出したんじゃないかと思う。女性差別的な旧民法にはじめて出会い、はてはて言いながら頭を抱えていたお下げ髪の少女のことを。そして彼女が法律に出会った瞬間を目撃したころの自分のことも。そして穂高先生のことも。
「でもどの私も私。……つまり全部含めてずっとわたしなのか」
どの私も私。かつて梅子が花岡に言った「どれもあなたよ」という言葉が時を経て、花岡から寅子へ「前も今も全部、君だよ」と伝えられた。バトンのように渡されてきた言葉がこの最終盤に来て寅子の中でしっかりと腹落ちするのが胸熱だ。この言葉は桂場にも響いただろう。理想を追う青臭い自分も、若者を切り捨ててでも自分の「司法の独立」を守ろうとした自分も、自分なのだと。いつしか毒を抜かれた表情になっていたのが印象的だった。桂場は、一度は拒絶した航一の意見書を受け取った。
さてその尊属殺違憲裁判。
一審は勝訴、二審は敗訴で、今は最高裁が上告を受理するかどうかの判断待ちだ。本件について調査する航一が山田轟法律事務所を訪ねてくる。ここでよねが改めて事件の概要について航一に向かって語る。前回轟が寅子に向かって話したときは「夫婦同然の生活を〜」と表現されていたのが、今回のよねのセリフでははっきり「性処理」というきついワードを使ってたのも印象的だった。「彼女には頼れる人間も隠れる場所もなかった」と言ったあと、よねがマスターの写真をちらりと見たのに泣けてしまう。「私は救いようがない世の中を少しだけでもマシなものにしたい」と宣言するように言ったよねの言葉を、航一は無言ながらしっかりと受け取ったように見えた。
また美位子に対しても、「わたしはたった一度でもあの夜のことが耐えられなくなりそうなことがあった」と自分の過去にも触れながら、「お前の身に起きたことははらわたが煮えくり返るほどクソだ。クソが詰まってる。でもそれはおまえの父親がこの世界が法律がどうしようもなくクソなだけだ。おまえがかわいそうなわけでも不幸で弱いわけでも決してない」と言い含めるように語る。
この事件は弁護士として美位子のために、という気持ちはもちろんあれど、やっぱりよねにとってはどうしようもなく自分ごとなんだなと思う。子どもは親を選べない。クソみたいな親のもとに生まれてクソみたいな人生を送らなきゃいけない、それは「ありふれた悲劇」だった。なんとか逃げ出してサバイブできた自分の幸運をよねはいやというほど知っている。美位子はもうひとりの自分だった。
とらつばの物語をロングスパンで見たとき、終盤に尊属殺人違憲裁判を持ってくると決めてからよねというオリジナルキャラをつくったんだなと思うと、物語の軸のブレなさというのはこういうところにあるのだなと感心してしまう。視聴者にとって長く付き合ってきたよねへの共感が美位子への共感にオーバーラップされる。最終週は予告だけで泣けてしまった。最高裁での弁論、楽しみです!
今週そのほかでは、まずヒャンちゃんが外国人の被爆者救済のために働くことを決めたと、寅子に話すシーンがとても良かった。薫ちゃんも弁護士を目指すそうで、親子三人で最高の弁護士事務所だね…(泣)ほんとうにこの物語でヒャンちゃんに背負わされた役割は大きかったけど、最後の最後で本当の名前だけでなく、なりたい自分も取り戻せたことに泣けてしまう。
そして涼子様、司法試験突破おめでとう〜!司法修習を受けて弁護士になるつもりはないが、なれなかったのではなくならなかったのだと、これが「世の中への私なりの股間の蹴り上げ方」という言葉に、女子部時代を思い出して泣く。試験前に全員で集まって勉強してたシーンも過去を思い出してジーンとしてしまったし、合格後は涼子、よね、寅子だけだったけど、よねが終電を逃すほどに楽しい夜を過ごしたこと、ほんとうに最高だよ😭
そして来週へと続く美佐江問題。美佐江の母である並木佐江子から渡された美佐江の手帳に書かれた言葉が寅子の胸を刺す。特別だったわたしが東京ではただの女に過ぎなかったこと、子どもを生んでもなにも変わらなかったこと。「あの人を拒まなければなにか変わったの?」新潟でのあの日、美佐江の心の扉が開きそうだった瞬間にミスを犯してしまった寅子。美佐江を救うことができなかったリグレットを抱えたまま、寅子は美佐江の娘・美雪にどう向き合うのか。しっかりと見届けたいです。
24週シナリオふりかえり
寅子が長官室に笹竹のお団子持って様子伺いに行くシーンがあった
のどかと誠也の新婚旅行はアメリカの美術館めぐり(いいなぁ)
潤哲(ユンチョル)が来た日の食事シーン、みんなで朝鮮語で「チャルモッケッスムニダ(いただきます)」を言うシーンがある
あと今週は「米津玄師×虎に翼」スペシャル番組が素晴らしかったですね😭
女子部5人の対談もサイコーだったし、名シーン総集編もOPフルサイズも泣けました。そして米津玄師さん……、法律の前に実存があってそれが実存から離れていくようなら作り変えていく必要がある、それは社会や構造から弾き飛ばされた人たちのためって、このドラマが繰り返し繰り返し描いてることをわかりやすくすぱっと言語化されててさすがや……と感服しました……。
泣いても笑ってもあと一週間〜〜〜!!!
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