誰もが成田狂児に恋をする『カラオケ行こ!』

hinata625141
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まず和山やまさんの原作が大好きで、その映画化の脚本がこれまた大好きな野木亜紀子さん、しかも主演は綾野剛さんって最高の布陣じゃん!?とは思ったものの、中学生とヤクザって組み合わせ、実写で見るの不安…!という気持ちはあった。あったけど……余計な心配でした!!!!!

中学生とヤクザって権力勾配ありすぎて普通ならやばすぎるんだけど原作もそこはかなり気をつけてて、聡実くんのキャラクターと、狂児が聡実くんを歌の先生としてちゃんとリスペクトすることで二人の関係が成り立っていて、さらに映画では狂児を綾野剛さんが原作より柔らかく演じていて(ヤクザっぽい怖いシーンもあるんだけど)(その緩急が最高)その絶妙なフェアリーヤクザっぷりが実写を成立させてたと思います。

逆に聡実くんは、つい興味本位に狂児なんかに関わっちゃう幼さや、早く大人になりたい焦り、声変わりによってソプラノが歌えなくなってしまう悔しさ、そんないろんな感情がぐるっぐるに渦巻く中3感をリアル10代の役者さんが演じたことですごく説得力があって、キャラクターの解像度がグッと上がった気がしました。

ま〜それにしても綾野剛さん演じる狂児のかっこよさと色気よ…!原作にあるBL要素を映画の脚本ではごそっと抜いてあるんですけど、狂児が狂児すぎて、綾野剛が綾野剛すぎて、いくら恋愛要素を削っても削っても行間が生まれてしまうんですよ…!どうあがいてもこれは聡実くんの初恋の物語。それは間違いないです。

というか、原作にあるイチゴとか助手席とかわかりやすいワードは排除されてるけど、聡実くん視点で見れば「足りなかったのは愛」→「愛ってなんだろう」→「愛は与えるもの」からの狂児へ「元気をあげる」なので、むしろ筋道の通った愛、なんですよね。恋愛のみに限定しない、もう少しレンジの広い愛、なのかもしれないですけど。

そもそも、中学生と大人の「恋愛」はアウトだけど、中学生から大人への「憧れに似た恋」は全然ありうるし、そこを大人側が利用しなければいいだけの話で、そこは原作もきっちりしてるところですよね。

映画オリジナルのエピとしては、「映画を見る部」よかったですね。家族とか部活とか狂児とか、中学生といえど相手によって色んな仮面を被ってて、そんな中で映画部にいるときだけは聡実くんは自由に見えました。なんも考えずに思ったことを呟ける場。どんな子にもそんな場所があるといいなって思います。

あと屋上のシーンで聡実くんの悩みを聞いた狂児が「綺麗なものしかあかんかったら、この街ごと全滅や」と言うのがとてもよかったです。汚くてもいい、間違ってもいい、というメッセージを子供である聡実くんに贈るのが胸熱…!

でも一方で、その時二人が見下ろしていたミナミ銀座という名のごちゃごちゃした古い街はその後ほんとうに一掃され、大きなホテルが立ってしまう。ここは現実の日本社会の、文化を残そうとしない、資本主義一辺倒の都市計画への批判的な視線があったと思います。そういうところが野木先生。

オリキャラの女子中学生たちは野木先生から監督に「女の園の星」みたいに、というオーダーがあったようで、たしかにめちゃめちゃ和山ワールドぽかったです。フォローしまくりの副部長さん、ぜったい幸せになってほしい…!「女の園の星」も同じ座組で映像化してほしいなぁ…

あとはとにかく劇場でこんなに笑いが起きるのがめずらしいってくらいみんな笑ってました。笑わせるって泣かせるより難しいことですよね。原作の面白さあってこそですけど、実際映像で見るともっと面白いところとか、上手く膨らませたところもたくさんあって、ほんと幸福な映画化だったな〜と思います。

わたしは本作が今年の映画館始めで本当に良かったです!

あとこれは映画見た人みんな期待してると思いますが、聡実くん役の齋藤潤くんが18〜20歳くらいになる頃に「ファミレス行こ!」を絶対映画化してほしいです!綾野さんの背を抜いてるとなお良いと思います!!楽しみに待ってまーす!!!

ポスター

@hinata625141
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