エトセトラvol.11を買った。小川たまかさんによる特集は「ジェンダーと刑法のささやかや七年」。110年ぶりの大幅な改正となった2017年の性犯罪刑法改正、そして2023年の再改正、この7年を振り返る内容。ちなみに本書はエトセトラブックスさんという小さな出版社の雑誌だけどマイ本屋は取り扱いがあるのがうれしい。

パラパラと読んですでに二つのエッセイで『虎に翼』への言及があるのがうれしい。そうだよね、ここに書いてる人が興味ないわけないよね〜。
そのうちのひとつ、小川さんの「特集のはじめに」はこちらで全文公開されてます↓
目次はこちらから↓
目次を見て、わっ村田沙耶香さんの対談がある〜!とすっ飛んで行ったら、本来依頼されて書いた寄稿文が想定の3倍の長さになったらしく、そちらは新潮6月号に掲載してもらうことになって本誌では対談になったそう。それは新潮も読まないとな!と思ったらたまたま買ってて手元にありました😂 創刊120周年記念号でたくさん短編が載ってるのでいまお風呂本としてコツコツ読んでたんですよね。

エトセトラの対談も新潮のエッセイも『地球星人』がテーマになってる。なぜこの作品が書かれたのか、性暴力を描くということはどういうことか。
『地球星人』は、一つの性加害が基盤となっているわけではなくて、うまく言えないのですが、「フィクションで出会いたかった理想的な性加害」を存在させようとしてしまったのだと思います。出会いたかった、というのは喜びがあるというわけではなく、言語でそれが存在することで、液体だった痛みを結晶にして可視化できるような感じです。
(エトセトラvol.11 村田沙耶香×小川たまか「わたしと誰かの性被害を書くときに、小説にしかできないこと」)
だけど新潮6月号のエッセイ「実験室の中で」のなかで村田さんは、
繰り返すが、私は、自分にとって都合の良い小説を書くことを、小説への裏切りだと思っている。だけど、無意識とはいえ、この小説で、自分はそれをしたのだと、このエッセイを書くことで認識せざるをえなかった。
と葛藤を綴っている。そして海外の文学フェスティバルで『地球星人』を朗読したときのことをこう振り返る。
朗読を終えて顔を上げたときのことを一生忘れることはないだろう。最前列の年配の女性たちが苦しそうに泣いていた。小さな会場で、たくさんの女性が泣いていた。(中略)私は、自分が、個人的な理由で小説を利用し、浅はかにもたくさんの同じ痛みを内包した人たちの記憶を、小説の中のナイフで刺し貫いたのだとわかった。
ちょっと長いので引用できないけど、村田さんは小説を書くときのイメージとして、小説家となった別人格が無菌の実験室の中の水槽で連続する化学変化が起きるのを待っている。そこには人間である村田さんもいるのだが素材のひとつに過ぎず、実験室を支配しているのは水槽であり、その小説家の仕事は実験室に雑菌を入れないことと水槽の水をきれいに保つことなのだと。だけど『地球星人』を書いたときには雑菌が混じってしまった。そのことを村田さんは悔いている。
だから、もし、いつか未来に、同じように雑菌が水槽に入ったとき。私はきちんと、それを叩き壊そうと思う。もう二度と、人間としての自分を神聖な水槽に混入させないように。私の教会である実験室を汚さないように。もう小説を裏切らないように。
対談とエッセイと読み終えて『地球星人』を読み返した。なんというか、読み手にとってのリトマス紙のような作品だと思った。発売直後くらいに読んだときは、魔法少女とかポハピピンポボピア星人とかちょっと浮世離れした言語のイメージにより注意を引っ張られていたような気がするけど、今読むとほんとうに現実のニュースで毎日のように聞く身近な性犯罪、ジャンダーロールやロマンチック・ラブイデオロギーがごりごりに練り込まれていて読むのが苦しい。最初に読んだときも同調圧力(というワードでまとめていた様々な生きづらさ)は感じたはずだけど、今読むわたしのほうがそういう問題に対して解像度が上がってるので、より苦しいんだと思う。この小説の視点をより身近に感じてしまう。10年後はどうだろうか、20年後は?100年後は?
村田さんの新潮のエッセイはあまりに真摯で、それに対してなにも言える言葉はないし、なにもできないけれど、これからの作品ももちろん楽しみにしてるし、書いても書かなくてもずっと応援してますとファンレター書こうかな、なんてことを思う。村田さんのいう「雑菌」の入った『地球星人』だからこそ、刺さった人も、勇気づけられた人も、過去の傷が癒された人も、いると思うし、それでもよりよい表現を探し続ける村田さんを尊敬する。
ちょっとしんどいし性被害の描写もエグいのでだれにでもおすすめはできないけど、村田さんのこの新潮のエッセイ「実験室の中で」は読み逃せないものだと思う。おそらくはすべての表現者のひとたちにとっても。
そしてすっかり話がそれてしまったけど、エトセトラもほんとに読み応えあって最高ですのでぜひ〜