第14週「女房百日、馬二十日?」
どんなものも、はじめのうちは珍しがられるが、すぐに飽きられてしまうというたとえ。妻は百日、馬は二十日もすれば飽きてしまうとの意から。
自分が飽きられるとは思わないのかな。三日かもしれないよ…?
さて今週、すごくいいシーンが多くて、ほとんど毎日涙ぐんで見ていたな〜。「なるほど」星航一の登場、星長官の退場、尊属殺規定の合憲判断、「法曹界の歴史に残る」寅子のブチギレ、両親ともに真剣を拒否したミックスルーツの少年の問題、そして最後は桂場が皿を……😂
さて月曜日から早々に、後半大物キャストである岡田将生さん演じる星航一が登場〜!ルックも現代的だしお名前もかっこいい〜!星長官の息子の航一さん、思ってることをすぐ口には出さない思慮深いタイプなのか、口の立つ寅子とはまぁテンポがあわない。
でも悪い人ではないようで、ともに頼まれた星長官の名著『日常生活と民法』の改稿作業は穏やかに進み、寅子も仕事から離れて法と向き合う幸せな時間を共有する。
むしろ民法は現実の家庭生活を目標にしてその中で人々が互い尊重し合いながら協力していくような民主的な家庭を作り出そうとしているのであります。
という寅子の書いた文章に航一は「いいですね、ここ」とコメントする。現実の家庭生活と乖離した旧民法への違和感からこの世界に入った寅子らしい一文に目を留めてくれたことがなんだかうれしい。
改稿した本の表紙に星航一の名前と並んで自分の名前が入ることに寅子は驚く。二人の名前が並ぶことに、ちょっとその先の未来を想像してわたしは勝手にキュンとしていたのだけど、寅子は逆に夫の優三のことを思い出していた。法律の本を出したかった、僕が法律を学ぶ楽しさを知ったように誰かにも伝えられたら、と話していたことを。「代わりに夢を叶えたってことにしちゃおうかしら」と亡き夫を思って微笑む寅子を見つめた航一の「なるほど」が優しくてやっぱりキュンとしてしまった。
そして書き上げた序文を持ってふたりの待つ竹もとに現れた星長官。穏やかな平田満さんの声で読み上げられる序文の素晴らしさは全文引用したいくらい。法というものは生きている人間の幸福のためにあるものだと、その精神に胸を打たれた。 このとき働いている梅子さんはじめ他のお客さんたちが会話を止めて長官の言葉を聞き入ってたのがとてもよかったし、その拍手の中で照れたように笑う平田さんの表情が素晴らしくて本当に名シーンでした😭
また序文の中の「人が作ったものです。古くなるでしょう。間違いもあるでしょう。私はこの民法が早く国民になじみ、新しく正しいものに変わっていくことを望みます」という文章はその後の憲法解釈の話、そして穂高と寅子の話にまでつながっていく。
星長官が亡くなって数カ月後、新長官のもと、最高裁は尊属殺重罰規定を合憲と判断する。同じ殺人でも他人でなく親(を含む自分より年長の親族)を殺した場合、より罪が重くなることは憲法第14条の「法の下の平等」に反するのではないか?という裁判で、最高裁は合憲である、つまり法の下の平等に反していないという判決を出した。
いやいやいやいや、合理性ゼロか?????と現代の感覚ならばそう当然思ってしまうことも、家父長制の色濃い時代においてはこんな間違った判決が出されてしまった。
ここではとくに裁判の契機となった事件は新聞記事レベルで寅子が説明するだけで物語には深く絡まない。それでもこの判決のエピソードを敢えて入れたのはもしかしすると尊属殺人の違憲判決が出る日まで描くつもりなんだろうか…とちらっと思っていたら、その放送日(7/3)の午後、旧優生保護法に最高裁で違憲判決が出てびっくりしてしまった。もちろん違う法律に対する違憲判決だし、ドラマが現実になにか作用したわけではないけれど、
おかしいと声を上げた人の声はけして消えない。その声がいつか誰かの力になる日がきっと来る。
今朝聞いたばかりの寅子のセリフがまさに目の前で現実になったのだ。声を上げることは大事ってわかってはいるけれど、実現しなければ絵に描いた餅だな…と落胆することもある。だからこそこんな実現例が目の前に現れることは何よりも心強い。
尊属殺も合憲判断の20年後には違憲判決が出る。それは声を上げた人たち、そして今は負けるとわかっていても正しい方に立ち続けた穂高先生のような人たちが引き寄せた未来だった。
穂高は最高裁判決にこのような反対意見を書き記した。
この度の判決は、道徳の名のもとに国民が皆平等であることを否定しているといわざるをえない。法で道徳を規定するなど許せば憲法14条は壊れてしまう。
道徳は道徳。法は法である。今の尊属殺の規定は明らかな憲法違反である。
今週は、寅子竹もとに呼び出され→桂場ライアンがなにか頼み事→寅子引き受ける→なんやかんやあって最後また竹もとに戻る、という話の流れが一週間で二度繰り返された。一回目は星長官の改稿作業のこと。基本的に和やかに、そして感動的に終わった一回目と違い、大波乱の二回目は穂高判事の退任祝賀会であった。
「言いたいことがあれば言いなさい」
「続けて」
初めて会ったとき、穂高はそう言って寅子の言葉を遮ることなく最後まで聞いてくれた。言いたいことを言ってもいい。聞いてくれる人がいる。余計なこと言わないの、とばかり言われていた寅子にとってそれは世界が変わった瞬間だった。
まだおさげ髪のあどけない女学生ながら、言いたいことも聞きたいことも全部口にして自分なりに咀嚼して言語化もできる、そんな寅子に穂高はどんな未来を見ただろう。女性法曹の道を切り開こうとする穂高の前に現れた、頭の回転が速く弁の立つ若い女学生・寅子。二人の出会いは運命的だった。
穂高は、後世から見れば女子学生の教育に道を開いた素晴らしい人だ。尊属殺人の法廷でも合憲判決には反対意見を通した、後世から見ても「正しい」法曹人でもあった。
寅子に母として子を産むことを最優先にするよう言ったことも、雲野事務所に勝手に話を通したことも、家庭教師の口を見つけてきたのも全部、穂高なりに寅子をおもんばかったゆえの行為だったし、それは時代の限界だった。わかってる。それでも寅子には、先生にだけはそんなこと言われたくなかった、という気持ちが、信頼が、甘えが、穂高に対してあった。だからこそ深く傷ついた。わかってはいても。
それが穂高のスピーチの中で「大岩に落ちた雨だれの一滴」という言葉を聞いて怒りが再燃する。本当に報われなかった女子学生たちと最高裁判事まで勤め引退まで祝われる立場の自分を同じ言葉で形容するのか。「出がらしも何も、昔から私は自分の役目なんぞ果たしていなかったのかもしれない」という自嘲めいた言葉にも、寅子自身が「自分の役目」というものについても考えていたからこそ腹が立っただろう。あなたがそれを言うのかと。
女子学生に門戸を開き遠い理想を見つめながら、女子の教え子たちが誰一人仕事を続けられない現実に、権力勾配のある社会に、何ら手を打たなかった。寅子は一度リタイアしながらもここまでサバイブしてきたが、あのころの同級生のただ一人としてこのパーティの場にいない。恵まれて、運が良くて、やっと生き残れた自分に、これまでありがとうございましたと、愛想笑いで花束を渡せと言うのかと。
どうにもなりませんよ!
先生が女子部をつくり女性弁護士を誕生させた功績と同じように、女子部の我々に「報われなくても一滴の雨だれでいろ」と強いて、その結果、歴史にも記録にも残らない雨だれを無数に生み出したことも。だから私も先生に感謝はしますが許さない。
納得できない花束は渡さない!「世の中そういうものだ」と流されない!それでいじゃないですか!
惚れ惚れする啖呵だった。寅子の怒りは寅子のものだけど、その背後には無数の雨だれである女子学生たち、納得できない花束を渡すことを押し付けられてきた女たちの怒りが見えた。日本初の女性弁護士になった祝賀会での会見を思い出す。寅子はいつも、その場に立てなかった女たちのことを思うのだ。
もちろん寅子がここで拒否できたのは、相手が穂高だからだ。どれだけ言っても穂高は自分のことを悪く処したりはしないと信じてるし、心を隠して愛想笑いで別れるようなことはしたくないという強い愛情の裏返しでもあった。
それでも穂高は翌日またわざわざやってきて寅子との修復に挑んだ。年長者でここまでやってくれる人はなかなかいないと思う。だけど穂高にとって寅子はただの生徒でもただの後輩でもない。かつての運命の少女だったのだから。
自分の古さと過ちを認め、寅子を「既存の考えから飛び出して人々を救うことができる人間」であり「心から誇りに思う」と伝えに来てくれた。寅子もまた穂高への尊敬の念をあらためて伝えることができ、二人の間に穏やかな空気が流れた。そして寅子の世界を開いた穂高がついにこの物語から、穏やかに退場する。「気を抜くな、君もいつか古くなる。常に自分を疑い続け時代の先を歩み、立派な出がらしになってくれたまえ」というアドバイスを残して。
法も古くなる。人も古くなる。だけどそのことに悲観的になることない。法は新しくすればいいし、人は「出がらし」だからこそできることがある。アップデートし続けることの大事さ、そしてアップデートできないかもしれないけれどシニア世代への深い敬愛が感じられる週だった。星長官の「出がらしにだからこそできる役目や若い奴らに残せることがあるんじゃないかい?」は寅子と航一にきちんと伝わっているし、彼らがいつかそれを思い出す出がらし期まで見届けることができるといいなぁと思う。
また今週は二人の偉大な法曹人との別れの隙間を縫うように、日本人の父親からもフランス人の母親からも親権を拒否される栄二というミックスルーツの少年の処遇問題も描かれた。
ミックスルーツの存在もエンターテイメントの世界では都合よく消費され、都合よく透明化されてきた存在だと思う。最近ではそれこそ沖縄問題を描いた『フェンス』では主演のひとりがミックスの少女だったし、『夜明けのすべて』という映画でも何のエクスキューズもなくミックスの少年が登場するなど、やっと風向きは変わりつつあるのかなと感じてる。
栄二のエピソードは、実の親子でもうまくいかないことはあるのだという意味で先週の梅子のエピソードともつながるし、もっとさかのぼればよねも、そして涼子もそうで、この物語の中で実は繰り返し描かれている。
また妻と子を捨てて自由になりたい男もいれば、夫と子を捨てて自由になりたい女もいるのだと、当たり前のことなんだけどそれが描かれたことも小さな衝撃だった。戦前は有無を言わさず父親一択だったのに、手のひら返して子どもはやっぱり母親が引き取ったほうがいいよねというムードはなんなんだと思うけど、でも一方でやっぱり母親は子どもとは離れたくないものだという思い込みは少なからず自分にもあるよな〜と気付かされる。本当にこのドラマは視聴者の、そして社会の勝手な思い込みを暴いていく。
結果として栄二はかつて自分に優しくしてくれた父方の叔母に引き取られることになった。この当時、家族を戦争で失って引き取り手のない子供はたくさんいただろうから栄二はラッキーだったなと思う一方で、二親とも健康で、かつ父親は裕福なのに、双方から親権を拒否されるという精神的な心の傷を考えれば救いのある終わり方で良かったなと心から思った。「子どもを見守り育てることは私達大人全員の責任」という寅子の言葉にも頷く。子育ては家庭に押し込めず、広く社会でアシストしていくほうが、何よりも子どもにとっていい。そんな意識が広まればいいなと改めて思った。
寅子と穂高、栄二とその両親という、うまくいかない親子関係を描いた今週から引きづつき、来週は寅子と優未のディスコミュニケーション問題が露わになりそうで今からつらい。予告で完全に調子に乗っていた寅子にはエールを贈りにくいので、来週は花江ちゃんがんばれ〜!
あと今週は桂場の面白さについてももっと触れたかった!お酒は強くない、友達がいない、酔うと皿もかじるしスローモーションで横たわろうとするなど新情報が多すぎて桂場好きとして最高でした!穂高への愛にも胸を打たれたよ〜
司法の独立を守ること!二度と権力好きのジジイどもに好き勝手させないこと!法の秩序で守られた平等な社会を守る!
酔っぱらいがひどすぎてそれどころじゃなかったけど😂この宣言もかっこよかったです!
第13週シナリオふりかえり
ライアンと桂場が星長官の体調を気遣うシーン、関係性が見えてよかった
寅子と多岐川が忙しすぎて「分身できたら…」の話😂
あの梅子さんの高笑い、シナリオには(天を仰いで笑い)しか書いてない
竹もと再開から桂場は5日連続で店に通っている(新情報)
直人は花江ちゃんラブだった父親の記憶が弟よりも鮮明だから、どうしても自分が母親を守らなくちゃいけない、母親の幸せを考えなきゃいけないって思ってるんだろうな〜なんて道男とのあれこれを読んであらためて思った。子どもは子どもらしくいてほしいと願うけれど、どうしても大人にならざるをえないこともあるよね…
本日は都知事選でした。
何度落ち込んで腹が立ったって…私も声を上げる役目を果たし続けなきゃね。諦めるもんか、絶対に。
はい。
過去の週の感想は↓の「虎に翼ふりかえり」のタグで見られます。