ここ最近は風呂本を詩集にしているせいか、ふと詩が書きたくなって二次創作の詩を書いた。書いたけどしばらく手元に置いてちょこちょこ直すんだろうなと思う。二次創作は小説も短歌も書けたらわりとパッと手放してしまうのだけど詩はなかなかそうはいかない。推敲に終わりがない。自分で満足するレベルにまで達せないということかもしれないけれど。
ひさしぶりに創作しようと思ったのはこの対談からも触発されているかもしれない。
宇多田 この感覚――自分が体験した出来事と感情を、一度解体してから、再構築して作品にするっていうプロセスを、それをしない人にどうしたら説明できるだろうってずっとモヤモヤしていました。
解体してからの再構築って美術作品を見るときに意識するのだけど詩もまた言葉を使ったアートだから同じなんだよね。だけど言葉って身近なものだから、読んだらそのまま受け取りやすくて、しかも歌詞ってぱっと見わかりやすいものが多いから、わかった気になってしまう。わかってないのに。
宇多田 自分でも思いがけない答えが出てきたりして、でもそれがその歌で一番大事な部分になったりするんです。きっと最初から書こうとしていることなんか、つまらないんですよ。自分自身がハッとするようなものを書けないと、他の人に響くようなものは出てこない。
(中略)
小川 構想段階で思いつくような問いや答えって、だいたい他の誰かでも書けることなんですよね。その先へ進むためには、いろいろ調べて考えて、出し尽くした果てに出てくる想いが自分なりの答えになるのかなと思っています。
これもちょっとわかるな。書かないと出し尽くさないと見えない景色がある。創作だけじゃなく感想や日記でも、一度書き出してから予想外の着地をすることがあって、だけどそれこそが書きたかったことだとわかることがある。
宇多田 どんな作品でもアウトプットするときはまずノーフィルターでワッと出す。そのあとで、編集者の目線で見つめ直す。その役割を行き来しつづけられるっていうのが一番大切なことですね。
小川 そうですね、でないと独りよがりなものになってしまいますし。
宇多田 文章が上手いだけではいい小説とかいい歌詞って書けない。結局はそれを受け取る全人類に思いを馳せる、思いやりが作品に魔法をかけるんじゃないかな。
思いやりが作品に魔法をかける、いいフレーズだ〜
全体的に赤線を引きたくなるようなところがたくさんあるよい対談だった。言葉のプロフェッショナルの二人の対話は深い。歌詞に、小説に、そして言葉にじっくり向き合いたくなる。
歌詞といえば最近聞いたこの大好きなpodcastでも、
川瀬智子の作詞は松本隆の作詞の世界観に近いという話が出て、わたしは去年『パリピ孔明』というドラマにハマっていて劇中歌で出てきた『タイム・トラベル』という原田真二さんの昔の歌が大好きでよく聞いていたのだけど、その歌詞を書いていたのが松本隆さんだったな〜ということを思い出した。見たこともないファンタジックな世界が立ち上がる歌詞。
松本隆さんといえば中谷美紀×坂本龍一の『いばらの冠』と『水族館の夜』もとても好きだった。ヒット曲たくさん書いてらっしゃるから好きな歌詞きっと他にもたくさんあるんだろうと思う。
歌詞についてもう少し掘り下げてもいいかもしれないなーと思い立って、松本隆さんの『言葉の教室』という本を電子で購入。
ビートルズがなぜ世界を征服できたかというと、詞の世界に3人称を持ち込んだからだと思っています。
それまでの歌って、ほとんどがYou&Meでできていて、I(私)だけだった。「私はこう思う」という平面的な「私とあなた」の世界。ところが、ビートルズが描く世界には、「私とあなた」の他にもうひとりいた。ほら、「She Loves You」とかそうでしょう。するとそこに社会ができる。歌のなかに世界や時代が立体的に立ち上がってくる。そうやって歌はリアルになった。
最初の対談でも詩作における俯瞰の視点の話が出てくる。
小川 宇多田さんの曲は特にそうですよね。普段小説を書いている僕の視点から見ると、宇多田さんの歌詞の中で――たいていサビの部分であることが多いですが――誰かに熱中している状態と、その自分を俯瞰的に見てる状態とを行き来するような方法が使われています。僕は恋愛小説をまったく書けないんですけど、「そうか、こういうやり方だったら書けるのかもしれない」という発見がありました。
あと松本さんも宇多田さんも川端康成の『雪国』が好きみたいでとくにその冒頭部分を両者共に引用してるのが面白いなと思った。川端の文章のうまさは色褪せない。
ディティールを積み上げて答えまで書かないとか、そういう松本さんのテクニックも、いち読み手としてそういう作品が好きだな〜なんてことを思ったり、俯瞰もそうだけど、視点の高さや、少しだけリアルを混ぜることなどのお話も面白かったし、引用されている歌を聴きながら読むのが楽しい。
今聞いても「赤いスイートピー」は完璧すぎるし、「風をあつめても」の歌詞は何度読んでもその言葉のセンスに撃ち抜かれる。素敵。
歌詞についての本、もう少しなにか読んでみたいなーと思う。