ずっとこんな物語が見たかった『SHUT UP』

hinata625141
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ちょっと遅くなったけど『SHUT UP』最終回を見ました!

このドラマ、ノーマークでまったく知らなかったんです。去年の12月からやってたんですね。相互さんがこのドラマのこと呟いてらして、なんだろー海外ドラマかなーと気になって検索してみたらなんと仁村紗和ちゃんが主演!

仁村紗和ちゃんといえばわたしは『おちょやん』が初めましてだったんですが、まだそんな大きな役じゃなかったのですがすごく印象に残ってて、なにより主役を張った夜ドラ『あなたのブツが、ここに』がとても好きだったんです。

もう追いつけないかもしれないけど初回だけでも見てみよう。そう思って見た初回でこのドラマに完全に落ちてしまいました。

自由になりたい

自由になりたい

自由になりたい

わたしはいつか

そんなモノローグとともに、水平線の少し上にある太陽に重ねるように伸ばした手をアップで撮るファーストシーン。

自由になりたい

お金がないとか時間がないとか

女であるとか

わたしはその全部から

自由になりたい

たとえそれがどれだけ遠くにあるのだとしても

手を伸ばしても届かないのだとしても

このモノローグの後、望まぬ妊娠をした友人の中絶費用のためにパパ活に手を染めるヒロイン・由希の手をつかもうとする男性の手のアップ。それが一話のラストカット。

初回の構成としてあまりに美しく完璧。また、引いたアングルで美しさを、正面バストアップで切実さを表現する映像の組み立て方もまるで映画のようです。

性暴力をテーマにして完全に女性側に立つドラマなのに、それでも監督もメインの脚本家の方も男性なんだ…という失望はちょっとあったんですが、プロデューサー(本間かなみさん)とメイン脚本家(山西竜矢さん)の組み合わせが『今夜すきやきだよ』と同じと知って、なるほどちゃんとしてるはずだ〜と深く頷きました。

『今夜すきやきだよ』はタイプの違う女の子二人の快適な同居生活をベースに、この社会にあるジェンダーバイアスやさまざまな決め付け、フリーランスと生きることの難しさ、不平等な婚姻制度の問題などを物語に落とし込んだ素晴らしい作品なんですが、テレ東のドラマ版はちゃんと原作を理解したうえで、エピソードによっては原作をアップデートさせるような脚色が印象に残ってます。

そんなタッグのオリジナル作品が本作『SHUT UP』です。

性暴力や女性の貧困など社会派なテーマに復讐劇のツイストも加わり、そして最後は#MeTooに着地するという、ちょっと他では見たことのない、チャレンジングかつ啓蒙的な作劇でびっくりしました。そしてそれを誰でも見られる地上波で流した意味は大きいと思います。

ただ放送時期が年をまたぐタイミングだったせいか、あまり話題にならなかったのが残念。たくさんの人に見てほしいドラマでした。U-NEXTで配信してます!

主人公は大学生の由希。大学の古い寮に住みバイトを掛け持ちしてしている苦学生です。同じ寮に住む恵、しおり、紗奈も似た境遇で四人は仲良く助け合いながら生きています。ところがある日、恵の妊娠が発覚します。相手は名門大学のインカレサークルの会長である鈴木悠馬でしたが、彼は父親が自分かどうかわからないと鼻で笑って中絶費用負担を拒否します。初期の中絶手術が受けられるのはあと三日しかない。由希たちは三人で中絶費用20万円を稼ぐためパパ活を始めることに……というのが物語の導入です。

パパ活なんて危ないからダメだよー😭 誰か頼れる大人を探して相談してーーー😭😭😭 と、大人から見るとそう思っちゃうんだけど、彼女たちは自分たちでなんとかしなきゃって思い込んじゃうんですよね。でもまだ二十歳前後の子ってそんなものだと思うんです。たくさん失敗もするし、上手いリカバリ策を知ってるわけではない。知ってる情報にもムラがある。見た目は大人でも、まだまだつけ入る隙のある存在。つまり守られるべき存在なんですよね。なのに「自己責任」という嫌なワードが染みわたったこの社会で育った子どもたちは助けを求める声まで律してしまう。そして彼女たちは坂道を転げ落ちるように窮地に陥ってしまいます。

お金のない若い女の子を待ち受ける社会のトラップの多さに絶望してしまうのですが、この物語は絶望の先に小さな希望を見せてくれます。

女性警官の紹介で性暴力被害者のケアや性的同意について考える自助グループと繋がったことで、恵は自分の経験したことは性被害であったことを初めて知ります。「同意のない性行為はすべて性暴力です」とこのドラマはきっぱりと言い切ります。

「絶対に許しちゃいけないことってあると思う」と悠馬の恋人の彩が、「もう見なかったふりはしたくない」と悠馬の幼馴染の伊月が、覚悟を持って由希たちサイドに付きます。単純に「裕福な学生」と「貧乏な学生」で線を引かなかっただけでなく、悠馬を中心とした「裕福な学生」側にもそれぞれのキャラクターに奥行きが見えました。

もちろん物語の中心は女性たちの連帯なのですが、そこから男性を排除しなかったのがこのドラマのとても良いところだと思います。伊月だけでなく、由希と仲の良い陽太という同級生もまた、最初から最後まで由希に寄り添う友人として描かれました。

女性を消費する、貶めることを楽しむカルチャーは結局男性側の意識が変わらないと解決しない問題です。髪についたゴミを取るために触れるのにも同意を取る陽太のような人が増えてくれたらな社会は変わるんだろうな、と思います。

ちなみにこのドラマのタイトルでもある「黙れ」という言葉を放ったのは陽太でした。もちろん相手は由希ではありません。由希を貶める人間たちに対してです。「傷つけられた人が直接戦わなきゃいけないわけじゃない」というセリフにも泣けました。

役者さんもみんなよかったのですが、やっぱり主演の仁村紗和ちゃんは本当に最高でした。大切なものを守る意志の強さと、それでも不安に揺れる若さのどちらもリアリティがあって得難いキャラクターになってたと思います。ますます大好き。

そして悠馬を演じた一ノ瀬颯さん、いちはなとかにも出てたし上昇気流に乗った若手俳優さんだろうにこんな完全なる悪役引き受けてくれてありがとう〜😭 君は日本のベン・ウィショーだ…!フェミニズム作品に出演する男性俳優さんは推します!

そして自助グループの代表として性的同意と性被害について正しいメッセージを伝えてくれる高梨さんを演じた野呂佳代さんも良かった〜。アイドル時代は存じ上げないのですが、『ブラッシュアップライフ』に続いて思い入れのあるドラマに出てくれて嬉しいです!そんな高梨さんの最後のセリフ、「性的同意、とても大切な人権の話です」はすべての人の脳に直接刻みたいですね!

このドラマ、もしかして日本における#Metoo をメインテーマにした最初のドラマなのでは…?と思ったけど、どうでしょう?(知らないだけかも)

でも初めてじゃなかったとしても、立場の弱い人、若くて貧しい女性、そんな人たちが声を上げ、それが身近な世界を変えていく、そんな物語が地上波ドラマとして制作されたことが本当に嬉しいです。

告発には意味があると伝える、被害者を勇気づける、こんな物語が見たかった。

制作に関わったすべての人達に感謝します。

彼女たちが自由でいられる社会を目指したいですね。

@hinata625141
感想文置き場。たまに日記。