人に感想本を出させるようなドラマにはなんかある〜『君の花になる』を見ました

hinata625141
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公開:2024/6/26

今さらながら“きみはな“こと『君の花になる』というドラマを見た。

きっかけとなったのは先日の文学フリマだった。フラフラ回ってた中で目についたブース〈ますく堂なまけもの叢書〉さんに文学やドラマをテーマに座談会やレビューをまとめた冊子が過去のバックナンバーも含め並んでて、けっこうわたしの好きな作品(瀬戸内寂聴の『余白の春』や津原泰水の『ヒッキーヒッキーシェイク』)がテーマになってたのであれもこれも気になる〜と目移りしてたところ、目についたのが黄色い表紙の『きみはな本』だった(ページの最後↓にリンク貼らせてもらってます!)。

『虎に翼』の吉田恵里香さん脚本のドラマなんですよ〜すごい面白くて本作っちゃいました〜という店主さんのトークをふんふんと聞きながら、タイトルだけ聞いてもぜんぜん覚えがなかったものの、吉田さん脚本なら見てみたいな、まぁ配信とかあるだろうし見てから読もっかなーと思って、すでに手に取っていた数冊といっしょにきみはな本も買った。

文フリいっぱい買っちゃうのでしばらくそのことを忘れてたのだけど、先日ふと思い出して『君の花になる』を検索したら、あぁこれかー!と思い出した。わたしもドラマオタクのはしくれなので毎クール始まる前には全ドラマ情報をチェックしてるのだ。実際そんなに見てないけど😂

正直『君の花になる』はチェック時にはぜんっぜん興味なくて、というのも、わたし自身あんまりアイドルにハマらない人で、かつ簡単なあらすじ読むかんじ、寮母さん(といっても若い本田翼ちゃん)と売れないボーイズグループの話って……年の差イケパラみたいな感じ?という印象だったので、自分の中で引っかかるところが全然なかったのだ。

でもまあとりあえずネトフリにあるから見るか〜!と思って見始めたのだけどさっそく一話で脱落しそうに……。というのも8LOOMの中心である左神弾(高橋文哉)くんのキャラがツンデレ?これはツンデレなのか?ツンデレってもう古くない??とにかくあす花(本田翼)に対しての物言いが尊大で、まあ複雑な感情があるにしても「あんた」とか「うるせえよ」とか、反抗期?中学生か!?としか思えなくて……わたし、えらそうな男が大変苦手なので……イケメン無罪ではないので……というかツンデレって許されるの漫画の中だけで3次元でやるとただの失礼クソ野郎なのでは???

と、初回からちょっと引いてしまったのだけど、しばらく日をおいて見た2話が意外にも良かった。(あらためてもう一度見たけど初回のツンはちょっとやり過ぎだったと思う😂)

新曲で配信一位を取れなきゃ解散!という社長命令を受け、がんばろうと心入れ替える8LOOMのメンバーたち。だけどリーダーとして曲作りからトレーニングまですべてを引き受ける弾の厳しさにメンバーはギスギスし、弾は弾で曲が作れない。

あす花はかつて夢だった教師の仕事を、つらくてやめてしまった過去があった。頼まれるがまま、たくさんの仕事を引き受けすぎて心に余裕がなくなって病んでしまったのだ。だからこそかつての教え子でもある弾には同じ轍を踏んでほしくなかった。がんばってなきゃ不安で、誰かの期待を裏切るのが怖い、そんな弾の気持ちが誰よりもわかっていたから。

全部背負ってひとりで抱え込んでちゃんとできるわけないじゃん。

人に弱い面を見せることは怖いことだけど、もっとまわりを頼ったり弱音を吐いたりしなきゃ。

人のことを頼りにできない人を誰も頼りにできないよ。

あす花はそう言って肩の荷を下ろすよう、弾をやさしく諭す。それをこっそり聞いていたメンバーたちが飛び出してきて、振り付けやトレーニングプラン、事務所との交渉、メンバーのメンタルケアなど、それぞれに得意な仕事を立候補して引き受けていく。そして最後に残った宝にはリーダーを任せてはどうかとあす花が提案する。

リーダー役まで他の子に渡すのか!と正直びっくりしたんだけど、弾はいわゆる一番目立つタイプで、現実のアイドルグループを見ても、そういう子はリーダーではないよな…と納得できる。リーダーは全体を見ることができる、かつメンバーをケアができる人の方がふさわしい。

重荷を分け合う、というエピソードはとても現代的であるとともに、吉田脚本のイズムを感じる。傷ついた人たちの再生の物語であるというのもいい。

『虎に翼』でも女子部のみんなで弱音を吐きあったように、妊娠中の寅子が一人で抱え込みすぎて糸が切れるようにすべてをやめてしまったように。完璧な人間なんていない。だからみんなで支え合うのだ。ときには弱音も吐きながら。


このドラマ、いわゆるドラマ的お約束をガンガン外しにくる。

まずCHAYNEYという同じ事務所でめちゃ売れてるボーイズグループがいるのだけど、8LOOMに対してめちゃめちゃやさしい。こういうの、格下だからやさしくて8LOOMが売れてきたらすごい冷たい目で見てくるんでしょ?と思うでしょ?……最後までめっちゃやさしいんです😭 めっちゃいい子たち😭(実在のボーイズグループが演じてくれているので悪くは描けなかったのなもしれないけど😂)

またCHAYNEYを育てたとして社内でも恐れられてるマネージャー・香坂すみれさん(内田有紀)、途中から8LOOMのマネージャーに就任し「私のやり方に従ってもらいます」といきなり高圧的な感じだし、あす花に対しても「寮母は不要です」とやな感じなのだけど、その回のうちにまあいろいろあって「私のやり方が間違ってた」とあっさりと認めるんですよね。その後は8LOOMに合うやり方を模索しながら彼らをバックアップしていくし、あす花とも良い信頼関係を築いていく。

すみれさんだけじゃなく社長(夏木マリ)も、一位取れなきゃ解散!とかベタなことをいいつつも、彼らの自己決定をとても大事にしてくれる。あす花もまた、弾にほんのりときめきながらも、そういう関係になるわけにはいかないと強く自戒してる。

とらつばの「あなたはまだ子供です」と直明にきっぱり言う寅子、「今まで一人でよく頑張ってきましたね」と道男を抱きしめたはるを思い出す。

吉田さんのドラマは、大人がちゃんと大人なんですよね。ドラマあるあるなわかりやすい敵が作られない。8LOOMの彼らにとって壁と感じる人たちはみんな大人で、惑いながら何かを掴もうとしている若者たちをちゃんと見守ってる。そのことにグッときてしまう。


また、印象的だったのは、初ライブの前夜にリーダーの宝が足を怪我しちゃうというトラブルがおきたエピソード。自分抜きでやるしかないと宝は言うけど、みんな一緒じゃないと意味ないからとみんなで一晩で振り付けをやり直し、本番ではメンバー全員ステージで横並びに椅子に座って上半身のみで踊りながら歌ってライブを成功させる。そのことにすごく感動してしまった。だれも置き去りにしない、一緒にできる方法を模索するっていうのが、すごくやさしいドラマだなぁと思って。

誰でもいい時ばかりじゃない

というのは8LOOMのデビュー曲「Come Again」の歌詞にもあるけど、いつもみんな絶好調ってわけじゃないということは『虎に翼』でも描かれた。緊張するとお腹を下す優三さんには、諦めなくていいと直言が寄り添い続けた。生理が重い寅子にはよねが生理痛に聞くツボを教えてあげた。

ハンデのある人に寄り添うこと、共生すること。吉田脚本のまっとうさに心洗われる。

また、リーダーとして自信喪失してた宝にみんながたくさんの褒め言葉や感謝をノートに書いて伝えていたシーンもすごくよかった。このドラマの登場人物たちはすごく気持ちを素直に伝える。好意も感謝も、いくらあってもいいポジティブな言葉たちを大事にしてる。気持ちを言葉にしてちゃんと伝えるというのも心のケアだなと思う。


そしてやっぱり吉田脚本だなぁと思うのはセクシャリティの問題。

8LOOMの7人で恋バナをするシーンがあるのだけど(男の子たちが女の品定めでない、「初デートはいつ?」みたいなかわいい恋バナをするというシーンもまずめずらしいと思う)、巧というメンバーが「初デートは男の子だった」となんでもないように言う。彼がバイセクシャルであることはメンバーは既知のことのようだった。一方リーダーの宝は「恋愛したことない、したいと思ったこともない」と話し、周囲も「へえそうなんだ。恋愛って無理にするもんじゃないよね」と当たり前のように受ける。

このシーンを見てあらためて思ったのは、カムアウトの問題って100%受け手の問題なんだなってこと。このシーンはあまりに理想的に見えるかもしれないけど、他人のセクシャリティを聞いたときにただ「そうなんだ」って、こういうふうに受け止めたらいいんだってひとりでも多くの人に伝わるといいなと思った。

8LOOMのもう一人のマネージャーであるケンジ(宮野真守)も同性愛者でみんなに彼氏のトシ(梶裕貴)をノリノリで紹介したりする。

そして、なる→弾も恋愛感情だったんだろうなぁと思う。好きな人の恋をずっと見守って、つらかったね…😭 思えばなるは初回からずっと弾を見ていた。誰よりも早く、もしかしたら本人よりも早く、弾の恋に気付いてた。弾への強い気持ちは、自分が弾にとって何よりも大事な8LOOMの一員であるということによって報われていたんだと思う。だからこそ許せなかった。弾にとって8LOOMより大事なものができることが。はっきり自覚はしてなかったかもしれないけど、これはやっぱり恋だったんじゃないかと思う。

私は、透明化されている人たちを描き続けたい。 オリジナルの作品や理解あるスタッフとの作品ではそれを心掛けています(理解ある、はて?ではありますがこれ以外の形容がないです)。 それが特別なことと思われる世界が悲しく残念ですし、描き方には注意を払うものの、私は現実にあるものを書いているだけです。褒められたい訳でも説教したい訳でもないです。

透明化されいる人たちを描くこと、きみはなでもちゃんと実現なさってるなぁと思ってうれしかった。


最初に見たときは、あんまり合わないかなぁと思った(実際合わないところもあった)んだけど、吉田脚本らしさに着目して見ると、らしいな、すごくいいな、と思えるエピソードがたくさんあったし、なにより副読本として「きみはな本」があったのがよかった。人に感想本を出させるようなドラマにはやっぱなんかあるんですよ!

今はYouTubeで公式が出してる動画を見まくってます😂 実際に8LOOMを売り出すつもりだったからということだろうけど、オーディションから衣装合わせからカメラ入れまくって残しててくれてるのほんとありがたい〜🙏

顔合わせの動画では二人のプロデューサーと脚本家(吉田さん)が同席してるんだけど、三人とも女性なんだな〜!というのがうれしかった。だからかな、女性が消費されないし、男の子たちもマッチョイズムから遠ざけられていた。それが理想化されすぎてるとかお花畑とか言われればそうなんだけど、こうあってほしい、少し先の未来を見せるのもフィクションの役割なんだと、吉田さんの作品を見ていると感じること。

ちょうど今、漫画家のヤマシタトモコさんのインタビュー集を読んでいるのだけど、そのなかにこんな言葉があった。

こうだったらいいよねと建前を言っていくことも大事なのかなとも思って。

あぁそうだ。わたしの好きな人、好きな作品ってこれがあるなって思った。建前とか、善意とか、正義感とかを馬鹿にしない。吉田さんの脚本もそうだなと思う。

きみはなは、オリジナル作品とあってかなり吉田さんらしさの詰まった作品だった。今さらながら見てよかった。アイドルもの興味ないわ〜なんて言ってたのに8LOOMにもすっかり夢中です😂

そもそもオンエアから2年も経ってるし、あんまり周囲に見てた人もいないので語る相手がいないのが残念だけど、きみはな本を読み返してうんうん頷こうと思います。もし語りたい人いたら声かけてください〜

きみはなはネトフリにあります!

あとYouTubeのTBS公式チャンネルに「君の花になるまでの365日」っていうシリーズ動画が山ほどあるんですけど、この動画↓にわかりやすくまとまってるので、ドラマの予習にぜひ🌸

わたしが見るきっかけになった「きみはな本」こちら↓で立ち読みできます!めちゃめちゃ面白いです!BOOTHでも買えるみたいです。

「きみはな本」のおかげでめちゃめちゃ楽しめました!ありがとうございました〜🌸

@hinata625141
感想文置き場。たまに日記。