祇園祭に行ってきた話

ひわだ
·
公開:2025/7/27

京都在住のフォロワーから誘われて、2泊3日で祇園祭に行ってきた。

祇園祭にわか人間にしてはかなり満喫したので、この記憶が消える前に書き残しておく。備忘録として書き始めたらあまりにも長くなったので、適宜諦めてください。

・1ヶ月くらい前

かねてからフォロワーM氏よりお誘いをいただいており、仕事の都合でスケジュールを決めなければならなくなったタイミングで恐る恐る打診。この時点では祇園祭のことを「京都のでっかい祭」程度にしか認識しておらず、ネット検索で出てきた日程の中で「メインっぽいイベントが行われる期間」ということで7/15〜17で行くことにした。

最終的にこのスケジュールは完全なミスとまではいかないが、やや悔いを残す形になる。

・7月頭

そろそろ旅行の日取りも近付いてきたし、予習しとくか……と祇園祭について書かれた本を入手。ドンピシャで祇園祭の祭礼に深く関わっている団体の方が書かれた本を見つけたので急いで読む。

この本が本当に良かった。

祇園祭の成り立ちと変遷、全体の流れとそこに流れる祇園で暮らす人々の信仰がとてもわかりやすくまとまっており、そこに著者本人の体験や記憶も混ざって読み物としても研究書としても楽しい。祭礼・地域信仰の「祇園祭」を各方面から知ることができ旅行への期待がグングン高まった。

ちなみにここで「ミリしら状態でスケジュールを組んだから神輿渡御が見られない」という事実に気付いてややショックを受けるなどした。

・7月15日

深夜バスで早朝に祇園到着。身支度の場所がないことに気づき前夜に慌ててレンタルスペースを押さえたがきれいなお部屋でゆっくり準備などができて助かった。こういうの最近増えてるのかな。道中、奉賛札や粽を掲げているお店や民家を発見し「本で読んだやつだ!!」とめちゃくちゃテンションが上がった。やっぱり予習って大事。

誘ってくれたM氏、京都生まれ京都育ちのフォロワーN氏と合流しておしゃれなカフェで朝ごはんをいただく。

コーヒーとパンと目玉焼きとソーセージとベーコン、あとサラダ

今やってるゲームの話やこれから出るドラマCDの話などをしつつそぞろ歩きをしているうちにあっという間に時間が過ぎる。特に意味はないがせっかく京都に来たんだし……というだけでニンテンドーストアにも行った。

夕方、まだ明るいうちから山鉾見物を始める。あちこちでお囃子が鳴り響き、一部の鉾はおみくじや鉾の拝観(拝観料を払うとお囃子をやっている上層に入って内側からの眺めや、それぞれの鉾の懸装品などを見ることができる)で列ができていてすでに人が多い。

せっかくなので我々も函谷鉾の拝観にお邪魔したが、提灯の内側、高いところから見る四条通も豪華絢爛な懸装品(重要文化財のオンパレード)の数々も初めて見る景色すぎて「は〜」とか「わ〜」みたいな声しか出ない。こういうときのために予習したはずなのに……

山鉾上層から四条通を望む

たぶん地上2階くらいの高さ。中央の車線にまだ車が走っているのがお分かりいただけるだろうか。拝観の一般人がひっきりなしに入ってきていてもお囃子はお構いなしに続く。鉦の音ってめちゃくちゃお祭り風情をかき立ててテンション上がるよね。

M氏とN氏イチオシのお店で晩御飯を食べ(「何食べても美味しい」と言われたが本当に何を食べても美味しかった。また行きたいがお店の場所も名前もメモり損ねたので次回も連れて行ってもらおうと思う)、いよいよ宵々山の祇園に繰り出す。祭りの時間だ!!!!!!!!

日が沈み、18時を過ぎると四条通を中心に山鉾が建っているエリアなどが歩行者天国で混雑の極みになる。一部の道は一方通行で、目的の場所は行くために複数回曲がったり道を変えたりする必要があり、「方違だ!!!」と大はしゃぎしていた。

提灯に灯りがついた保昌山

露店にあまり興味はないけど祭りの夜は歩きたい、ということで夜の山鉾ツアーを開始。提灯の灯りってなんであんなに「良い」んでしょうね。

正直、直前の詰め込み予習で全ての山鉾を把握することはさすがに不可能(そもそも山鉾は祇園祭の祭礼の中核ではないため予習用の本ではそこまで詳細に書かれていなかった)で、「提灯きれ〜い」で終わるかと危惧したがちゃんと立て看板で来歴や自慢の懸装品のことを教えてくれる親切設計。そして看板の情報もさることながら、山鉾そのものの個性がどれもバチボコに際立っておりキャラ立ちがすごい。

印象に残っているものをメモ的に列挙します。失礼極まりない私の「面白さ」のメモなので山鉾の名前は書きませんが、ある程度特徴とかは書いてしまうためわかる人はおおらかな心でご笑覧いただければ。

  • 山A  提灯が明る過ぎる。もはや眩しい。圧倒的な「陽」の気で厄を吹き飛ばす力強さを感じた。(山鉾は町内の厄を集めて回る役割なのに!)この山だけ真木が杉で、真木に使っているものと同じ木で作ったベンチを一番山が美しく見える位置に置いているのも自己プロデュースぢからが強くて⭕️。

  • 山B  ちょっと弱めな光が提灯の中でゆらゆら揺れていてものすごく風情がある。Aと通りを挟んだ反対側に位置していたので侘び寂びを感じた(?)。後から調べたら近隣の再エネ使用店舗からバッテリーで電源を借りて灯したSDGs提灯だったらしい。

  • 山C  消灯が早過ぎる(周りが新しめの集合住宅だからかも)。お祭りタイムは23時まででどの山鉾もそのくらいまでは灯りをつけてお囃子もやったりしているのに22時には完全消灯。なんと前後に広げている(前に貼った画像みたいにどの山鉾も提灯を壁のように掲げている)提灯は片付けまで済んでいた。

  • 鉾A  拝観者や囃子方が鉾に入るための通路が思いっきり普通のマンションのベランダから伸びている。ふつうのベランダなのにさも「最初からこうでしたが?」みたいな顔で通路が接続されているのでやっぱり祇園って、祭りが生活に溶け込んでいる場所ってすごい。マンションのその部屋は山鉾用のお部屋になっているのだろうか……とめちゃくちゃ気になったがここの拝観はしなかったので審議のほどは不明。

この日の夜でほとんどの山鉾を見て回ったが、どれも山鉾自体の個性だけでなく町方のみなさんや物販のラインナップがバラエティに富んでいて本当に楽しかった。なお露店ではきゅうりを1本だけ買いました。

実は宵々山・宵山では地域のお家やお店が自慢の品を外から見える位置に置いて「みんな見て!」をしており、山鉾ツアーをする中でそちらもいくつか拝見できた。思わず「拝見」と言ってしまうレベルのきれいなタペストリーとか、山鉾のミニチュアとか、きらきらの屏風とかが飾られている奥の座敷では普通にお家の人が宴会をしているのが見える。「外向きの祭り」と「内向きの祭り」が混在しているのだとしみじみ思う。思いっきり「外向き」に振り切ってガイドさんみたいなことをしているお家の方もいて、それはそれで面白い。覗き込んでしまうような美術品たちが普通に家にあるあたり、京都だなあって感じだ(ド偏見)。

歩行者天国の車両規制=宵山タイムの終わりが近づく23時前に四条通を歩いていたら、お巡りさんの「歩道に戻ってー!!」の声の向こうから元気溌剌なお囃子が聞こえてきて、通に並ぶ山鉾たちからやや距離があったためどの鉾がこんな時間に……と思ったら函谷鉾だった。もう宵々山も終わろうとしているのにまるで意に介さずお囃子が鳴っている。実はいくつかの鉾を眺めているうちに函谷鉾の粽は他に比べるとやや値が張るということに気が付いたのだが、その分の気合を見せていただいたような心持ち……。

あとで調べたら、どうやら消灯のタイミングで「提灯落とし」というパーティータイムがあるらしい。気になる人はYouTubeに動画があるので見てください。私は笑い転げました。

・7月16日

日中はこげぬ(CoCシナリオ『辜月のN』)の聖地巡礼をしよう!と決めていたのでM氏に言われるがまま地下鉄・バスの一日乗車券を買い、M氏に先導され移動。たぶんこれ1人じゃ絶対無理だったな。

朝ごはんはN氏のおすすめ卵かけご飯のお店に行く。

こぼれる鰹節、味噌汁、卵と小鉢

卵かけご飯は第二形態で、メインは鰹節だった。目の前のイカつい鰹節削り機が轟音を立ててふわふわの削り節を生み出し、それがほかほかのご飯に溢れるほど(本当に溢れて盆に落ちている)載せられている。削りたての鰹節が本当に美味しくて、口に入れた瞬間最高の香りと風味、わずかな食感を残して消えてしまう。ちょっと湿ったわたあめみたいな食感。語彙がないため全く美味しさの伝わらない比喩しか出てこない。ふわふわの鰹節をなんとかかき分けて卵を落とすと本当に美味しい。京都の人はこんなものを食べているのか……。

そんなこんなで京都の街をあちこちぐるっと回りました。なお聖地巡礼としてどこをどう回ってどう頭を抱えたのかについてはネタバレになるため省略します。気になる人はこげぬをやろう!

ほどよく曇ってて良いですね、などと話していたらどんどん雲行きが怪しくなり、あっと思った時にはすでに土砂降り。土砂降りっていうか……鬼雨、驟雨と呼ぶのが相応しいレベルの……あっという間にズボンは水浸しになり、慌てて京都大学の学生休憩エリアに紛れ込んで事なきを得た。まさかこんなことで京大のお世話になるなんて……

京大を出て(語弊)、東大路通を南下し八坂神社へ。宵宮神賑奉納を見る予定だったので八坂神社はさておきちょっとうろつくか……と思ったらまた豪雨に見舞われたので漢字ミュージアムへ避難した。

ここには祇園祭みゅーじあむなるものが併設されており、様々なお土産や山鉾にまつわる展示が見られる。規模は小さいので大したボリュームはないが、山鉾の基本的な作りを踏襲した実物大の模型?複製?を見ることができる。「山鉾の概念だ……」とちょっと興奮した。デフォルメした山鉾が本当に可愛かったのでデザインされているマステを2種類も買ってしまった。

併設されているカフェでパスタなどを食べつつ様子を見ていたが一向に天候が落ち着く様子はなく、仕方ないので天気予報上の雨が止む時間まで一時待避をすることに。宵宮神賑奉納が始まるくらいの時間にまた八坂神社近辺へ繰り出した。

宵宮神賑奉納については予習の本の最後の方に載っていた。祭礼としての祇園祭と、地域のお祭り騒ぎとしての祇園祭が乖離する中で発生したものらしい。祭礼というよりはお祭り寄りだけど、地域の伝統芸能や素戔嗚繋がり(今更ですが、八坂神社の主祭神は素戔嗚です)で石見神楽をやったりするそうだ。絶対に見たい。何せ石見神楽は舞手のドキュメンタリーを見たのに神楽自体は何かのイベントでちらっと見ただけだったので。というわけでM氏にわがままを言って予定に組み込んでもらった。ありがとうM氏……何もかもお世話になりました……ℒ𝒪𝒱ℰ ℱℴ𝓇ℯ𝓋ℯ𝓇……

雨が止んだ隙を狙って、蟷螂山のかまきりおみくじに参加。大人気ゆえにまあまあな列ができていたが、前日からどうしても気になっていたので意地で並んだ。からくり仕掛けのかまきりがゆっくり回りながらおみくじの番号が書かれたボールを差し出してくれる。実際にどんなものかは検索してみてください。

おみくじはなんと運勢によってカマキリのテンションが違うという芸の細かさ!グッズもみんなかわいくてだいぶ売り切れていました。

なんやかんやで時間を潰しているうちに宵宮神賑奉納の開始時間である18時を過ぎてしまっていたが、まあええやろと八坂神社へ向かう。

道中、四条大橋を過ぎたあたりで謎の銅鑼行進に遭遇したが、いまだにあれが何だったのかわからない。M氏も「わからん」を連発していた。

斎竹を伴って行進する銅鑼

検索しても何もわからない……「祇園 銅鑼」とかで検索すると普通にどら焼きのおすすめが山ほど出てくる。ご存知の方、情報お待ちしております。

途中、ご神水の振る舞いがあり何事かと思ったら、本来なら16日の午前中に八坂神社の井戸から汲んだご神水を使ってお茶を立てる献茶祭ごあるはずだったのだが豪雨で中止になったため「もったいないやろ!」ということで宵宮神賑奉納でフリーご神水になったということだった。法被を着たおじちゃんたちが喫茶店でよく見るポットから紙コップにジャブジャブ注いで配っていた。そんなことあるんだ……

ご神水をいただき、その後ろで行われていたライブペインティングなどを眺めながら八坂神社へ到着する。

境内は露店とそこに群がる人々でごった返しており、古式ゆかしい「神社のお祭り」という雰囲気がてんこ盛りだった。楽し〜!!といっても露店は主目的ではないので肉串を齧るM氏を眺めていました。現金をうっかり持ってき忘れただけとも言う。

石見神楽、終わっちゃったかな〜と思いながら露店ひしめく境内を通り抜けると、本殿と舞殿の間あたりに明らかに異質な人だかりができていた。間違いなくあれが石見神楽の奉納場所だと近寄って行ったものの、スイートスポットはとっくに埋まっており、蒸し暑い中さらに人間が発する熱気にまみれて音楽や雰囲気を感じながら、動画や写真を撮るため頑張っておられる皆さんの画面を見て楽しませていただいた。

石見神楽は素戔嗚が八岐大蛇を倒して草薙剣を得る一連のエピソードを神楽にしたもの。長い龍がぐるぐるとぐろを巻いたり、その状態で立ち上がったりしている画がたぶん有名だと思う。全編を見るのが初めてだった私が1番驚いたのは、エピソードの導入部分にあたる「八岐大蛇が村の娘を毎年贄として食っていた」のくだりもしっかり神楽になっていたこと……というか、マジでモンスターパニック系のホラー映画みたいな演出でそれが演じられていたことだった。大蛇の口から娘さんの腕がだらりと下がっている画、知らずに見たらトラウマになりそう。その後も大蛇の泥酔ダンスタイムあり剣舞あり爆竹ありの大騒ぎで、エンターテイメントとしての完成度が高すぎて圧倒された。すごい……これは確かに万博でもやる価値がある……

石見神楽に圧倒された後、振り返ると舞殿にはすでに神様がお遷りになった後の神輿が三基鎮座していた。八坂神社では15日の夜に行われる宵宮祭(撮影禁止)で本殿からそれぞれの神輿へ神様がご移動され、17日の神輿渡御まで舞殿で奉安される。神輿渡御が見られないのは本当に悔しいが、でも荘厳で美しい神輿は見られたので良しとする……。この舞殿に奉安される神輿、たしか最初に「宵宮神賑奉納に行きたいです!」とM氏にお願いした時は覚えていたはずなのだが午前中の豪雨で押し流されたのか八坂神社に到着した時は完全に忘れており、光り輝く舞殿(神輿)を見てようやく「そうだったじゃん!」と慌てて見に行った。不敬。

神輿の拝観と八坂神社へのお参りを終えたところで時刻は21時前。この日の我々には夜、もう一つミッションがあった。

前日15日の宵々山であまりにも早く消灯した山Cの本当の消灯タイムを確認することである。

実は15日、23時過ぎに通りがかった時点で消灯が済んでおり、他の山鉾たちはまだ大半が煌々と灯りをつけていたことから「もしかしてすごく早く消灯した……?」という疑惑が浮上しただけだった。となれば22時までに問題の山へ到着し、真偽を確かめなければならない。

というわけでやや急いで移動……しようとした。八坂神社から問題の山までは徒歩30分かからないくらい。まっすぐ行けば十分に間に合うはずだ。はずだった。ここからは祇園祭とはほとんど関係がないただの蛇足であるため、飽きてきたら翌日の部分まで飛んでいただいて結構です。

まず四条通を戻る途中、道端で弓弦とタンバリンを鳴らし始める学生たちを見かけ、何かと思ったらおもむろにダンスバトルが始まった。祭りテンションの学生ってダンスバトルするんだ……。

バトルを観戦したい気持ちを抑えて進むと、進行方向から何故かお囃子が聞こえてきた。人も増えてくる。どころか規制線のような縄で行手を阻まれる。見えてきたのは提灯台車を伴って進んでくる囃子方の一団……棒を持っているのが見える……綾傘鉾の囃子方だ!?!?!?

山鉾巡行の前夜、囃子方がいる山鉾はそれぞれ適当なタイミングで御旅所(神社の出張所みたいなもの)で翌日無事に巡行が執り行われることを祈ってお囃子を奉納する日和神楽というものが行われる。存在を知ってはいたがネットには23時と書いてあったためまさか鉢合わせするとは思ってもみなかった。本当は16時くらいから23時までの任意の時間で行われるらしい。

思わず動画を回してしまったあと、通りの向こうを見ると今度は月鉾の囃子方一団が待機しているのが見えた。「このままだと永遠にここから離れられない!!」と慌てて人混みをかき分けて離脱した。綾傘鉾の棒振り囃子は一回見てみたかったので結果オーライということで。

早足で歩いていたら横をお巡りさんの集団が駆け抜けていき、「足速いねえ〜」などと言いながら進んでいると酔客同士の喧嘩に遭遇。仲裁しているお巡りさんたちを見てさっきの駆け足はこれだったのか……酔っ払いの喧嘩って本当にあるんだ……と慄く。「俺べつに悪くねえよ!」と叫ぶ酔客を後目に先を急ぐ。

宵々山・宵山の2日間、祇園の夜は完全に街一帯がお祭り一色になる。どこからともなく路上に発生する露店だけでなく、いたるところに点在する飲食店も店先に机を出してそれぞれに自慢の食べ物を売っていたりする。何ならお花屋さんとかもよくわからん光り物を売っていた。ケンカ遭遇から数十メートル歩いたところの焼肉屋の店先にも出店じみたものが出ており、そのコンロだか焼き台だかからもうもうと煙が上がっていた。ちょっとしたボヤのような様相を呈していたが、どうやらただの不完全燃焼らしい。周りの人達も普通に歩いている。これ平気なの?平気?そっかあ……じゃあいいかあ……我々は全身煙まみれで焼肉屋帰りみたいになりましたけど……(間違ってはいない)

あらゆるオブジェクトにイベントフラグが設定されているのか、焼肉屋の煙を浴びた直後に道端で所在なさげに転がっている千円札と目が合ってしまった。普段の私であれば無視するかサイレントに自分の財布へしまうか(犯罪です)の二択だが、隣のM氏にいいとこを見せたいという欲と神事の中にいるという微かな緊張感が「警察に届ける」という選択肢を発生させた。ところがさっきあんなに集団でいたはずのお巡りさんがいざ探すとちっとも見つからない。5分ほど彷徨ってようやく見つけたお巡りさんからは「取っといt……すぐそこに警察署あるからそこに持ってってください」と無情な一言……今取っといたらええねんって言いかけたか!?!?!?!

従順に、来た道を少し戻って警察署へと辿り着く。露店が立ち並ぶ祭り空間を剥き身の現金を持って歩くのは単純に恐怖。ついばっちいものを触るような持ち方になってしまう。警察署で「どの辺で拾いましたか?」と言われながらこの2日間でお世話になり倒した祇園山鉾MAPがなめらかに出てきた時はちょっと笑ってしまった。ちなみに警察署へ何らかの金品を届けると、「持ち主が現れた時の謝礼(正しくは就労金と言うらしい)」や「持ち主が現れなかった場合の所有権の取得」などをどうするか聞かれるが、当然全てを放棄するため(というかこれらの権利を主張する場合、書類を書く必要がある)、疲れ果てた脳でM氏と2人「いいです」と「いらないです」を連呼しながら逃げるように警察署を後にした。まるでやましいことがあるみたいだ。誤解です。

この時点で何時何分だったのか定かではない。時計を見る気力もなかった。「急い……急いでるんだよ!!一生懸命!!」と誰にでもなく(強いて言えば山鉾に)言い訳をしながら目的地までの道を急ぐ。急ぐ我々を嘲笑うように、道の向こう(進行方向)が明るく、賑やかになった。あの明るさは知っている。この2日間で山ほど見た、提灯の灯りだ。ご機嫌な楽器の音も聞こえる。これも知っている。お囃子の音だ。

日和神楽へ向かう真っ最中の、岩戸山の囃子方一団がこちらに向かってきていた。

「嘘でしょ!?」とマジで声に出た。最後の最後で追加イベントを発生さすな。こちとら急いでいるんだぞ。さすがにすれ違うのも脇道に逸れるのも間に合わず、煌びやかな一団を立ち止まって半ば呆然と見送った。お囃子の音が遠ざかっていく。日和神楽って本当に23時までの任意のタイミングでそれぞれの囃子方が移動していくんだなあ……。

15日の部分でも書いたが、山鉾が建っているエリアは交通規制が敷かれているため方違をしないと目的の山へは辿り着けない。ひとつぶん余分に角を曲がり、あとはこの交差点とそこに屯する人間を掻い潜るだけ……!!見える、山がそこにあるのが見えるぞ!!

電気は消えていた。

道は完全に暗くなっており、左右の道や周辺の商店から漏れる灯りでぼんやりと地面や周りの建物がわかる程度でしかない。「まさか間に合わなかったのか」という思いと「そりゃ間に合わないよな」という思いが交互に去来する。山の後ろ側から回り込んだため、時計を見ながら前に回る。その瞬間、おそらくは最後まで灯されていただろう名前の描かれた大提灯がふっつりと暗くなった。時刻は22:03。3分遅刻しただけでこの有様である。なお最初の山鉾リストで書いたように、前後に掲げてあったはずの提灯まで綺麗に畳まれていた。22時消灯を目指してやや早めに片付けを始めたものと思われる。そこから確認できるように動いていた……はずだったのに……。

いつの間にか山鉾を憑依させていたM氏の「待っとったのに帰って来んからぁ〜」という声を聞きながら敗北感と共に帰宅。この1時間の情報量が多過ぎて脳が限界なのでさっさと寝よう……と思ったのだが、ヨレヨレで寝支度を終えた23:40。

外からお囃子の音が聞こえた。

宵山タイム(お囃子を鳴らして良いとされている時間)は23時までのはずだ。それをとっくに過ぎた今、いったいどこの山鉾がお囃子を鳴らしているのか。よくよく聞いていると音はだんだん近づいてくる。移動しながらお囃子を鳴らすタイミングは16日時点では一つしかない。日和神楽だ。ということはつまり……帰りがけに遭遇した岩戸山の囃子方である可能性が高い。それにしたってあまりにも堂々とした音色で、「騒音? 何の話ですか? 我々は祇園の華たるお囃子ですが……」的な意思を感じた(疲れた脳による幻覚)。

1日に摂取して良い情報量の上限を超えたため昏倒。ただし翌日は朝から山鉾巡行を見にいきたかったので目覚ましはしっかり設定した。

・7月17日

7時に起床。よく起きられたなあと自分を褒めながら帰り支度をする。荷物は移動予定の駅近くのロッカーにブチ込み、最低限の荷物だけで移動を開始。

17日の山鉾巡行は9時開始で、多くの人が「山鉾巡行」でイメージするであろう山鉾がお囃子や曳手の掛け声をともなって賑やかに通りを巡るターンの前に「くじ改め」と「注連縄切り」が行われる。7月頭にくじによって決められた順番(一部の山鉾は除外)が正しいかを確認する作業と、長刀鉾の稚児が稚児舞を奉納したあと、通りに渡された注連縄を切ることで神域との結界を解放する行事だ。詰め込み予習で読んだ時に、祇園祭の祭礼でここだけは参加できるとわかって絶対に見に行きたかった。何せ現存する祇園唯一の稚児舞と、それによる結界の解放だ。オタクだったら見たいに決まっている。

ちなみに土砂降りだった。

16日午前中ほどの常軌を逸した降り方ではないが、傘があっても歩いていたらまあまあ濡れる、くらいの雨。だが行くしかない。私だって祭礼としての祇園祭にいっちょかみしたいもん!!!

くじ改めと注連縄切りは距離で言うと200メートルほど離れている。全体の進行としてもくじ改め→注連縄切りなので、同時に両方を見ることはできない。くじ改めを見てから注連縄切りを見るような動きはそもそも往来の混雑がMAXであるため不可能だ。悩んだ結果、注連縄切りに狙いを絞って行くことにした。

祇園祭の混雑自体は予習前からうっすら知っていたので、雨が降っていようがが来る人は来るだろうとやや早めの8時半くらいに目的の四条麩屋町の交差点に到着した……が、すでにまあまあな人が待機している。大半の人は傘を差していい感じのポジションを探っているが、一部カッパと椅子を持ち込んだガチの者たちがいた。隙間を狙ってじわじわと道路側のうまいこと撮影ができそうな位置に漸近していく。すでに傘はほとんど意味を成していない。

雨の斎竹と大和証券ビル

9時前になってくると、四条通の歩道屋根部分に立てられた斎竹(15日の早朝に立てられる)の傍に人が立ち、ゆっくりと注連縄が張られていく。ほどなくして遠くの方からお囃子の音が聞こえる……ような気がするのだが、自分と周囲の傘に雨が当たる音と交通整理の叫び声がデカ過ぎて何もわからない。結局長刀鉾がしっかり視認できるようになってようやくお囃子も聞こえ始めた。

近づいてくる長刀鉾、一目見ようと集まる人間、最低限の往来を確保するため交通整理に必死の警備の方、一向に弱まる気配のない雨。このあたりで傘を諦めた。もう半分くらい濡れてるから全濡れになっても大した違いはないし、邪魔だし、カメラを遮るし、邪魔だし。ええいままよと畳んだ傘を腕にぶら下げて一生懸命写真と動画を撮った。うまいこと人(傘)の窪み部分に陣取れたので稚児舞も注連縄を切る瞬間もしっかり見られた(撮れた)ので満足。

注連縄切りが無事終了し、ゆっくりと進み始める長刀鉾。このままこの位置で他の山鉾たちを待機してもいいが、いかんせん人が多過ぎて身動きするのも一苦労。ずぶ濡れだし。ということで周りの移動が始まる前に無理くり移動した。歩いているのか流れに押されているのかわからない状態で知らんおばちゃんに「傘畳めば!?」と怒鳴られながら移動。私も場所さえあれば畳みたかったです。まあ仮に傘を畳めたとしても全身濡れてたので私の周囲にいた人は満遍なく湿っただろうと思いますが……。

なんとなく人が多くなく、かつ沿道で山鉾が綺麗に撮れそうな場所を探しながら四条通を八坂神社の方向へ辿っていく。歩いているうちに四条河原町のほうまでたどり着いてしまい、辻回し狙いの人々で混雑する交差点にビビってちょっと引き返した。

雨のため、どの山鉾(主に山)も御神体や重要な懸装品にはビニールがかけられていたのであんまりよく見えなかったのが残念。でも雨の中進む山鉾と山鉾町の皆さんは本当に美しかったし格好良かった。見に行って良かった。

雨のGUCCIと蟷螂山

陣取った場所がたまたまGUCCIのド正面だったため、撮った写真が全て煌びやかな雰囲気を纏ってしまったのがちょっと愉快でした。

さすがに体が冷えてきたのと、帰りのスケジュール(途中で別の場所に寄る予定があった)を考えると全ての山鉾を見届けることはできず、月鉾の姿まで確認して四条通を離脱。

雨の白楽天山と、月鉾

雨の激しさがお分かりいただけるだろうか。

体が冷えてきたとはいえ夏なので別に気温が低いわけでもなく、全身満遍なく濡れているので私の体感ではそこまで不快なわけでもなかった。が、この状態で電車に乗るのは迷惑行為にも程があるため、ロッカーに預けた荷物を回収し、唯一まともに着られる状態で残っていた寝巻き用のワンピースに着替えた(前日までの日中に着ていた服は全て汗でおしまいになっていた)。

ありがとう祇園祭、ありがとうN氏、ありがとうM氏、ありがとう京都の町……と「楽しい」を反芻しながら新幹線で帰路に着いた。以上をもって今回の祇園旅行を完了とします。

・おわりに

祇園祭、めちゃくちゃ楽しかったです。お祭り以外の部分も本当に楽しかった。これはひとえにアテンドしてくださったフォロワーおふたりの気配り・尽力によるもので、1人で計画して1人で行っていたら絶対にここまで満喫はできなかったと思う。

一応、小学校の頃住んでいた地域にもまあまあな規模の祭りがあり、山車を曳いたり友達がお囃子を練習したりしていたので「地域に根差した大きい祭り」というものの漠然としたイメージはあった。ただ、祇園祭は比べ物にならない規模と熱量だった。安易なイメージで同視していたことを深くお詫びする。これが日本三大祭りに数えられる祭りの力……と滞在中何度思ったかわからない。祇園祭って本当にすごい。

それはそれとして予習の結果得た知識が若干宙に浮いてしまった感があるので、またいつか行きたいです。今度は後祭の時期がいいな。

@hinawa
エンタメ性が低く誤解を生みやすい自覚はあるものの、そこをブラッシュアップする気力がない文章たち