知らない世界

hitokoto
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さっきまで同じ時間を過ごしていた人たちが、別れたあとそれぞれ違う景色を見ていると思うと、なんだか不思議な気持ちになる。

飲み会で左に座ったあの人は、仕事は程々に、趣味の時間を大切にしたいと言った。

右に座ったあの人は、上司が厳しいことを言うけれど、可愛いところもあると言って、これから麻雀をしに行くと言った。

帰り道隣を歩いたあの人は、何事にも立ち向かう強い人だと思いながらも、結局本心がわからず、隣りにいるのに距離を感じた。

帰りの電車で途中まで一緒になったあの人は、息子と娘を愛する親として、私の知らないところで豊かな暮らしを送っていると知った。

もう、同じ場所にいない、別々の景色を見る人たち。私が今見上げた星空を、隣で見ている人はいない。誰もいない駅のホームの静けさを、一緒に感じてくれる人もいない。

もしかしたら、麻雀の休憩でタバコを吸いながら同じ空を見ているかもしれない。家に帰ったあと、ふと夜空を見上げた人がいたかもしれない。でも、それは私の知らない世界。

「さっきまで」の時間をもう少し過去まで伸ばしてみれば、5年前一緒だったあいつの話もできる。10年前一緒だったあの人の話もできる。

きっと誰でも、空を見上げることはあるだろう。私が誰かを思い出すように、あいつも、あの人も、誰かを思い出していればいい。たとえそれば、私じゃなくても。

@hitokoto
旅をする日々