百英雄伝というRPGが先日発売されました。
今から4年ほど前、90年代を代表するRPG・幻想水滸伝シリーズのスタッフが再集結し、「自分達が作りたいゲームを自由に思うがまま作ってみよう」「ユーザーの心に響くようなJRPGを作ろう」というコンセプトのもと、クラウドファンディングによって生まれたのがこの作品です。実質幻想水滸伝の精神的続編として、世間に大々的に発表されました。
私は当時この知らせに大変驚き、同時にとても胸が躍りました。続編はもはや絶望的と思われていた幻水シリーズのスタッフさんが立ち上がって下さった事。そして何より、当時大好きだった幻水の系譜を受け継ぐ作品がこの令和の時代に再び生まれようとしている事。それが本当に、たまらなく嬉しかった。
気がつくと私はkickstarterのアカウントを作り、クラウドファンディングにバッカーとして参加していました。私にとっては初めてのクラファン体験です。
懐かしくも新鮮な雰囲気を持った『百英雄伝』という作品の誕生に立ち合えるかもしれない。幻水をプレイしていた頃のように、またゲームを純粋に心から楽しめる日が来るかもしれない。そんな喜びと興奮に比べたら、kickstarter内の慣れない英語やアナウンスに四苦八苦した事などさして問題ではありませんでした。
最終的に百英雄伝のゲーム制作プロジェクトは世界中のファンから支持され、目標を大幅に上回る出資金を集め大成功のまま幕を閉じました。日本のみならず世界各国のユーザーから大いなる期待を寄せられ、この作品は開発される事となったのです。私にとってこれは、まさしく希望そのものでした。
それ以降私は、この作品の完成をずっと心待ちにするようになりました。少しずつ明らかになっていくキャラクターや世界観等全ての情報に目を通し、期待に胸を膨らませる日々が続きます。
ぬるぬると動く丁寧なドット絵キャラ達、人と人の争いや葛藤を描いた戦争というテーマ、登場人物の多さ故の群像劇。ゲーム画面のそこかしこから感じられる幻水らしさ。セルフオマージュとも呼べるそれを見た時、私は「やっぱりこの作品に出資して良かった」と心底思いました。そして1日でも早くこの作品をプレイしたいと。
なので度重なる発売延期の知らせにもどかしさを感じた事もありますが、これだけこだわって作っているのだから仕方ないよね、と特に不満は感じていませんでした。それどころか、良いものを納得いくまでじっくり制作して頂きたいとすら思うばかりで。そのためならいくらでも待ちますよと大船に乗った気持ちで、どっしり構えておりました。
ただその反面、月日が経つにつれ公式への不安や心配が少しずつ増していったのも事実です。事務手続等の重要な報告はいつも後手後手な点、英文を翻訳機にかけただけのような回りくどく分かりにくい日本語、不明点を問い合わせてもなかなか届かない返信、公式Xアカウントの妙な身内ノリ。今思えば、火種はいくらでもありました。それに気がつかなかった訳ではないんです。実際、前日譚であるRisingのDLコード配布の時も、公式の対応に多くのバッカーから不満が寄せられていましたし。
それでも自分は百英雄伝が良い作品になると信じていました。それなら今は公式のこういった対応にも目を瞑ろう、グッと飲み込もう。そう思ってずっと作品の発売を黙々と待ち続けました。プレイした後ならこんな事もいずれきっと笑い話になるだろうから、とやけに楽観的にすら捉えていて。
相変わらず説明不足なゲームソフト配送の詳細や送料の内訳、いつ届くか分からないゲームソフト以外のリワード(返礼品)、バグ修正や配送遅延等が原因で多くのバッカーが叶わなかったであろう72時間アーリーアクセス特典。その他様々な要因が重なり、自分の中にも少しずつイライラやモヤモヤが溜まっていきました。
そんな中、ようやくプレイを開始した我々を待ち受けていたものは、尋常ではないレベルで発生するバグやフリーズ、エラー落ち等不具合の数々。それに加え私のプレイしているSwitch版ではロード時間も非常に長く、戦闘の合間にいちいち長い読み込みが挟まるのでかなりストレスが溜まる仕様です。
ストーリーや雰囲気が90年代を彷彿とさせるJRPGなのは大歓迎だが、システム周りも昔ながらなんて聞いてない。いや、90年代でもここまで不具合が多いゲームはなかった。正直これは酷い。落ち着いてゲームが出来る環境ではない。
手続きや配送時の対応だけでなく、肝心のゲームそのものの出来も決して野放しに誉められるものではありませんでした。制作時に開発陣が掲げていた最高のゲーム体験とは一体何だったのか。
そして私にとって致命的になったのは、ゲーム発売から数日後に開発元・Rabbit&Bear Studiosが公式HPにて発表した「バッカーの皆さまへ」という声明です。そこにはにわかには信じがたい内容がずらりと明記されておりました。それを見た時、私の中にほんのわずか残っていた公式サイドへの信頼は完全に消え失せ、一転不信感へと変わりました。この作品を本当に心から楽しみにしていたのに、人間が失望するのはこうも簡単なものなのかと。
その声明を読んだ感想を一言で言うなら「何故それを今更言うの?」です。前述の送料やリワードの件に加え、パッケージ版に同梱予定だったリバーシブルジャケットは現物ではなく後日デジタル配布、公式自ら「これを実装するよ!」と言ったゲーム内要素は大部分が廃止or変更。諸事情で変更、実装出来ないのは致し方ないにしても、それを発売後に言うのは流石にないだろう。それを楽しみにしていたユーザーも多数いるだろうに。これは裏切りと言われても仕方ないと思います。重要な事は全て後手後手、後出しなんだから。
公式にここまでお粗末な対応をされると、流石に擁護する気がなくなってきます。正直怒りを通り越して呆れるし、悲しい。1番やってはならない不誠実な対応だと思います。
開発元とそれをサポートする配送元等でスムーズに連携が取れていないと思われる記述もあり、明確な情報を得るまでに時間がかかるそうなので、バッカーが気になっている事はほとんどうやむやにされた感じです。この調子だとリワードを受け取れるのはいつになるやら。あまり期待せず待とう。
今思うのは、私はこの百英雄伝という作品に過度に期待し過ぎていたという事です。この作品に幻想水滸伝のスタッフが携わっていなければ、幻水の面影が微塵もなければ、ここまで憤りや失望を感じる事もなかった。今になってとてつもないショックが来たなあとつくづく感じています。幻水シリーズが大好きな故の反動、という感じでしょうか。
色々書いてきましたが、私はこのゲームのクラファンに参加した事自体は全く後悔しておりません。どんな形であれ百英雄伝という作品が世に生み出された事は本当に喜ばしい、光栄な事だと思っています。発売直前に主要スタッフの方の訃報という無念で悲しい出来事もありましたが、それを乗り越えて何とか発売まで漕ぎつけて下さった事には感謝しかありません。
今のところシステム周りの不便さや不具合ばかりが世間に大きく広がってしまい、その結果本作の評価がガタ落ちしてしまっている印象を受けます。その事実が個人的にはとても残念です。
しかし実際プレイしてみると悪いところだけではないですし、堅実なシナリオや好感の持てるキャラが多いなど良い点も沢山あります。ミニゲームも楽しい。まだクリアした訳ではないのですが、今のところゲーム内容に関しては満足しています。システム面にだけ目を瞑れば良いRPG作品なので、本当にもったいないなと思う次第です。ただ、ストーリーをじっくり楽しむためには、まずは土台に快適でストレスのないゲーム環境が必要なんだというのをしみじみ実感する今日この頃。ゲーム開発って本当に大変なんだろうなあ。
先に書いたようにこの作品の関係者への不信感や不満はあるにはあるのですが、このゲーム作品自体はどうしても嫌いにはなれず、複雑な心境を抱いております。生み出された世界観や大勢のキャラクター、良曲揃いのBGM、キャスト陣の演技、どれも私には魅力的に映ったからです。これらを差し置いて「百英雄伝はクソゲー」と評価するのはちょっと違う気がしていて。
なので良いところもあるんだよと出来れば肯定的な意見も上げていきたいのですが、なにぶんシステム環境が酷過ぎるせいでそれも憚られるというジレンマ。本当にもどかしい。
ネット上には公式を擁護する声非難する声様々ありますが、私にはその全てを否定する事は出来ません。どちらの気持ちもとても良く分かるから。それぞれ言い分は違えど百英雄伝を楽しみにしていた、幻水シリーズが大好きな方々ばかりなのだと思います。私もその1人です。
ただ、公式は神とばかりに崇め奉るのもなんか違うなあと思うし、公式に向かってあからさまに心ない言葉を投げかけるのも本意ではなく。何よりSNSのような不特定多数の場で心情を吐露する勇気もない。なので私はこのしずかなインターネットというサービスをお借りして、今のやるせない心境をありのまま吐き出してみる事にしました。ボトルメールのように何処かのどなたかに届いてくれたら嬉しいな、という気持ちで。そして更に欲を言うなら、私と同じような思いを抱いていらっしゃる方と、この気持ちを共有出来れば幸いです。
とりあえず私はクリアを目指してしばらく頑張るつもりですが、開発の方にはまずゲームを快適にプレイ出来るようにして頂きたいです。この作品の良さを語るには、まずはそれが必須だと思っています。これを書いている現在、Switch版の最新修正パッチは2週間ぐらい来ていないのでとても不安。いつ頃にパッチが適用されるか、今はどのような進捗なのか等の報告はせめて欲しいところです。
今はまだ無理かもしれませんが、いつかはこの百英雄伝という作品を「良いゲームだ」と言って下さる方、肯定的に受け入れて下さる方が増えたら私も嬉しいです。そして良い意味で後世に語り継がれるものになるように願うばかりです。
ps.ところで幻想水滸伝1・2リマスターの続報はまだですか? このままなかった事にされそうで不安でしょうがない。それだけは勘弁してくれよ。
更に追記:Switch版のパッチ、6月上旬に配信が決まったそうですね。今度の修正でどこまで快適になるか気になるところです。
またしても追記:上記のパッチを当ててみたけどやっぱりフリーズが酷いしエラー落ちも頻繁に起こるので、完全に落ち着くまでプレイは止めました。あまりにも対応がアレ過ぎて、申し訳ないけど百英雄伝への熱は冷めてしまってる…。
更に更に追記:幻水1・2リマスターの発売日、ようやく決定しましたね! めでたい。今はどこで予約しようか熟考中です。