カメラを買った理由はいくつかある。これはその中でも本筋から外れているものになるのだが、大学の友達と私の3人で撮影旅行(日帰り)に行こうという話になり、ほか二人がカメラを趣味にしているだけあって良いカメラをこさえているので、私も彼らに間に合わせるように購入した経緯がある。これはその記録である。
有給を取った金曜日の朝。集合は7時半に新横浜駅。そこから新幹線で静岡県三島に行く。普段は平日でも朝8時などに起床するのだが、今日は朝4時半という遠足当日の小学生のように早くに目が覚めてしまった。この日は特段冷え込んでいて、部屋の中はいつも以上に冷たさが突き刺さった。
とにかくカメラ片手にコンパクトな身なりでぶらっと街を散策するという目的があったので、今年に入って買ったTEATORAのデバイスコート(デュアルポイント)という、とてもよいコート(たぶん今まで買った衣服の中で一番高い)にすべてを詰め込んで、リュックを持たずに家を出た。このコートはでかいポケットがついていることが特徴的で、なんとiPadも入る。行きの電車でまだ読めていなかった『ハイパーインフレーション』の最終巻をKindleで読んで泣きそうになる(まだ読み終わってはない)。
新横浜駅で駅弁を買おうと思ったが、値段に怯んでしまって、結局サンドウィッチを買うだけに留めた。久々に新幹線に乗るので、テンションが上っている。
この日は曇だった。そのせいでとても寒い。暖冬とか言っていた昨日と打って変わって、昨日の-10℃の気温が顔面に突き刺さる。
三島は意外と近い。新幹線で一時間足らずで到着する。撮影旅行というだけあって、終始カメラの話をしていた。自分はカメラが好きでSIGMA fpを買ったわけではなかったから、ふむふむといった顔をしながら、話を聞いていた。
三島に到着してからは散策しながら柿田川公園を目指す。
「青少年を健やかに育てよう」という標語から年上のお姉さんの気配を感じる(のは私だけだろうか)。
個人で所有されている飛び出し坊や。飛び出しても問題なさそうな位置にいる。
「川におちないように気をつけてね」この世の標識はすべて年上のお姉さんに優しく言ってもらいたい。
これは真面目な写真。水辺の散歩道と呼ばれる、川の上を歩ける小道。
本物なのに、明らかに偽物っぽい門構えのサイゼリヤ。
湧き水が湧く場所では湧き水ではない水にいちいち湧き水ではありませんという必要があるし、コインを投入してもよさそうな雰囲気を醸し出している神聖な場所にはいちいちコイン投入は禁止ですと宣言する必要がある。うちに立てかけていても成立するので、うちにもこの立て看板が欲しいかもしれない。
店先で栽培されているわさび。ピクミンにしか見えない。
三島から熱海に向かうために、三島駅に向かった。その駅でなぜか自分の大学の非常勤講師の先生とよく似た顔の人がおり、もしかしてと思ったが、ちょっと自信がなかったので、友達にも聞いてみた。(今回の旅行の友達は全員同じ大学の学科の人なのだ)。友達の一人が言われてみればそうかも、と言い、もうひとりは覚えてない笑と言っていて、声をかける確信に至らなかったのだが、ただ個人的にはあまりにも似ていたので、普段はしないのだが、声をかけてみることにした。
「すみません、人違いなら申し訳ないのですが、〇〇さんですか?」
はい、そうですよ、と聞こえたときには、冷え込んでいた体がグッと熱くなるのを感じた。「実は〇〇大学〇〇学科の卒業生で、先生の授業を受けていてもしかしてと思って声をかけました…!」
ちょっとした奇跡かもしれない。たまたま面識のある大学の先生がそこにいて、たまたま全員面識のある大学の友達と遠出して、たまたまその時間の三島駅という辺境の地でたまたま居合わせて、そして私がたまたま声をかける勇気を持っていた。
私が一人だったら三島には来てないし、見かけたとしても声もかけなかっただろう。ただ、このときこの状況だったら面白いと思ったから、声をかけてみた。思い出に残ると思った。これは私にとってシャッターを切るのと同じことだったのだ。
電車が来るまで5分ほどあったので、その間、少しおしゃべりをした。そして電車で別れ、熱海に向かった。
これはアジのたたき丼。美味しい。
壁に埋め込まれた横断歩道歩行者ボタンくん。
あたみ桜という早咲きの品種の桜。まだ2月初旬なのにこの咲きようである。
水が薄く流れている壁面に、散った桜がモザイクタイルのように張り付いている。
SIGMA fpを買ったけど、おもしろ看板ばかり撮っていたところを見ると、スマホでもよいのではないかという気持ちがわかないでもない。
ただ、そういったスナップショットをfpで撮るからこその味わい深さと、fpの色味と、21:9のシネマスコープが楽しいので、これはこれで良い使い方だと思っている。
帰りは熱海で温泉に寄りつつ、ロマンスカーでゆったりという予定で、実際にはそうなったが、10秒遅れていたらロマンスカーに乗り遅れていたので、気が気ではなかった。(そんなギリギリだとはつゆ知らず、直前までのんきにセブンのアイスコーヒーを注いでいたので、あぶなかった)
もっともロマンスカーに乗れてしまえば最高である。カメラ片手に散策するのは楽しいなと物思いにふけりながら、全面にひらけた窓ガラス越しにアイスコーヒーをすするのである。
今回の写真はすべてSIGMA fpで撮影。