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読書感想 反ミーム部門は存在しない qntm(クォンタム)

hokuyu
·
公開:2026/10/30

 インターネット発の一大怪異記録と言えば、好きな人は知りすぎるくらい知っているSCPファウンデーションです。これはそちらのWikiで連載されていた記録の超絶大幅改変小説です。

 異常な存在を収容する秘密機関。そこにある『反ミーム部門』。反ミームとはつまり、ミームに反する概念、記憶や記録をされない力を持っている何かのことです。それと戦う人たちの話です。そもそも何なのか記録されず、抹消されていくものとどうやって戦うのか?

 以下、ネタバレを含みます。


 面白かったです!

百人以上が──その大半はどうやら博士号持ちだった──この怪物の顎に飲みこまれ、わずかに抵抗したのち、多少の差はあれど従容として死んでいったのだ

 主人公マリー・クインは、なぜか妙に人員が少ない反ミーム部門の部門長として、認識できない概念と対峙するわけですが、この『無い概念と対峙する』という題材自体が珍しく、結構な人数の読者が既視感なく読めるのではないかと思います。私は新鮮に読みました。

 新人エージェントを交えた説明が入るので、だいたいの感覚は序盤で掴めると思いますが、それでも常に新鮮です。叙述トリックが一番近い言葉かもしれません。ホラー描写は怖めだと思うんですが、本という媒体上急に巨大な音が鳴るとかはないので、苦手でも読めると思います。異形の描写より高価なバイオリンがぶっ壊れる描写の方が怖くて、自分の弱点を知りました。なんか、怖いよりもったいないが勝ってしまった瞬間というか⋯⋯

 大きな見どころは撤退戦、敗北、世界滅亡からの巻き返しです。夫であるアダム・クインへの物語の引き継ぎ、計画的な奇跡、愛の実在と存在の概念化とか、いい終末世界の描き方でした。

この宇宙は広大で恐怖に満ち、想像もできないほど危険だから、あなたには守られる資格がある。安心して健やかに生きる資格が。もしそうでなかったら恐るべき怪物たちに支配され、恐怖に囚われ、本来のあなたでいられなくなってしまうから。自由とは恐怖からの解放を意味する。

 背を向け忘れ去ることで得られる日常、という視点に、異質な超巨大恐怖を通して向き合ったという印象です。悲劇を忘れない、とか現実を直視する、とかではなく。安寧と自由、文明と平穏。人々の営み。

 途中途中で挟まるSCP(作中ではアンノウンに言い換え)が伏線となっているのも読み物としてよかったです。U‐2256の顛末が好きです。