読書感想 名探偵のはらわた 白井智之

hokuyu
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公開:2026/3/31

 名探偵、浦野灸の助手、原田亘は、中華料理屋で恋人のみよ子の父親がヤクザであることを告白されていた。一方その頃、地獄からかつての歴史的殺人鬼が蘇り、現代日本で再び同じ殺人を起こそうとしつつあったのだった。

 以下、ネタバレを含みます。(トリックはネタバレしませんが誰が死ぬとかの話があります)


 面白かったです。白井智之作品は「名探偵のいけにえ」と「東京結合人間」を読んでおりまして、いけにえの方が現実寄り、結合人間の方がぶっちぎりの虚構世界観だったんですが、名探偵のはらわたはちょうど中間くらいです。

 『蘇った人鬼は生前の殺人を再現する』という確定事項がギミックとしてよく生きていて、探偵の推理がギラギラと冴え渡って輝くいいお話になっています。四編で終わるのがもったいない。

 前提として地獄がある世界観なので(あるものはある)、殺人犯に対して逮捕 or 殺害の葛藤が存在しません。地獄に送り返す一択。よってまとまりがいいです。

 いえ、私はその辺の葛藤がある話も好きなんですが、そのような性格の理想的探偵であるところの浦野は、立てたフラグをきれいに回収して最初の話で死んじゃうので仕方ないです。元々存在しないわけじゃなく、素晴らしい探偵がいた事実を残して欠け落ちて、地獄送り返しバトルが始まるのがよい、という感覚です。

 代わりに入ってくる古城倫道が、死後の世界からでも現世の様子を見ることはできるというアンサーをくれるので、師弟関係としても親切です。古城がはちゃめちゃな天才、原田くんが暴力を直視したうえでの人道の人なので、バランスが取れていて気持ちがいいですね。

 そうそう、古城倫道と並べて、金田一耕助とか由利麟太郎の実在する探偵(もちろん実在します。事件内容は横溝正史の創作ですが)の名前が出てくるため、古城倫道も実在することが思い出せてよかったです。うっかり架空の探偵かと思ってしまいました。

 割と解決がゴリ押し、怒涛の異常殺人ロジックとストレート暴力なので、その辺は好きな人は好き、となる感じでしょうか。あとこれは関係ないところですが、日本語で書かれた小説は微妙なニュアンスを失わずに男の娘(おとこのこ)が表現できるところが隠れた長所ですね。私はこういう部分にAIを持ってしても突破できない翻訳の壁があるというか、他言語を学ぶ面白さがあると考えています。