読書感想 侵蝕列車 サラ・ブルックス

hokuyu
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公開:2026/3/28

 1899年、北京からシベリアへ。広大な北の大地を横断する鉄道、その窓の外にはいつからか、『荒れ地』と呼ばれる、異形が跋扈する異界が広がっていた。

 列車で生まれ列車で育った子ウェイウェイ、鉄道会社にもたらされた父の死の真相を追うマリヤ、そして荒れ地調査という起死回生の一手で名誉の挽回を渇望するヘンリー・グレイ博士の三人の視点を主として、列車そのものが運命のレールをひた走り異界の物語の中を突き進むSF小説。

 以下、ネタバレを含みます。


 荒れ地は傍目に見るとエルデンリングみたいな光景で、もうこの時点でワクワクするのですが、人々は褪せ人ではなく乗務員と乗客なので絶対に外に出てはなりませんし、外のモノを中に入れてはいけません。危険すぎるので絶対に駄目です。

 絶対に駄目ということは、外に出るし中に入られるということです。ワクワクしますね。

 ただパニックホラーにはならないのがいいところ。荒れ地からやってきた少女の姿をした異形、エレナは、ウェイウェイと触れ合います。三人の視点人物それぞれに特有の冒険、恋、渇望などがあるわけですが、特にウェイウェイとエレナの葛藤と執着の果てに見つける関係性が中心となっているのが好きな部分でした。

 エレナの異形描写は素晴らしいです。不気味さと美しさがバッチリ共存しつつ、人外の生っぽい変形、虫を絡めるセンスの良さ、あると嬉しい異能力が溢れんばかりに存在しています。映像で見たいので早くNetflixでドラマ化した方がいいと思います。

 ともあれ、最終的にウェイウェイとエレナに紐づく列車と大地の超大規模関係性に着地するので私は絶賛するしかございません。他にもマリヤとスズキのロマンス、グレイの見つけたエデンなど、並行し交差する物語が収束してクライマックスになだれ込むため読後感が爽快です。

 好きな登場人物はエレナ。人間の真似をしていた女の子が、意志を持つ生き物に変化することを成長などという枠にあてはめていいものか。自分が何なのかもうわからない、が前向きな言葉になる見事な転換が見ものです。

 あとアレクセイもがんばってるなあと思いました。こういうできる範囲で頑張る一般人寄りの人を好きになりがち。列車長や乗客の人々、主役以外の周辺人物に至るまで魅力的でよかったですね。われらはガラスを通して真実を見る。