読書感想 あなたを陰謀論者にする言葉 雨宮純

hokuyu
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公開:2025/11/19

 タイトル通りというか、理論というよりも網羅的な紹介の本です。

 ヒッピーからのメインストリームへの復帰、カウンターカルチャーの変容、ニューエイジ、ニューソート、自己啓発ブームの源流となった宗教思想、ボドゲ界隈で禁止されているマルチ商法のボドゲ、カイロプラティック、神智学……

 ……とにかく書ききれませんので、その辺りは目次などを見ていただくとして、興味深かった部分は以下の通りです。

・水銀やヒ素の投与、瀉血などが医学が未熟な時代に信じられたホメオパシーが、1820年にインドに持ち込まれ、イギリス医学への反発から普及し、1970年代にアーユルヴェーダとともに西洋に輸出された、という流れ(そんなに前だったんだ、という驚きと、効果よりも主流の医療への反発心で人気を集める現象への納得)

・西洋人のアジアへの憧れから形作られたオリエンタリズムが、日本に逆輸入されると国粋に繋がるということ(政治的にさまざまな傾向を持つ人が、同様にスピリチュアル思想に傾倒するのはなぜか、という問いに与えられた答え)

・まったく元の科学とかけ離れた使い方をされている量子力学(ただでさえ難しいのに余計ややこしくして検索汚染しないでほしい)

 オカルト好きとして虚しい気持ちになったのは以下のくだりです。

「00年代前半に流行した 9・ 11陰謀論やアポロ月面着陸虚構説は、 90年代の「宇宙人解剖フィルム」に象徴される「何かが『あった』」というオカルトから、「何かが『噓だった』」という陰謀論への移行を思わせます。」

—『あなたを陰謀論者にする言葉 Forest2545新書』雨宮純著

https://a.co/iY5ub4Q

 虚しい。実在性へのアプローチが大きく異なるという部分が、都市伝説と陰謀論の違いということがよくわかりました。つまらない方向に進んでしまったのが虚しいです。完全フィクションのオカルトになら、面白いものがまだまだ山ほどあるのが救いです。

 あとはとりとめのない感想文です。

 前提として私は、陰謀論と呼ばれているものを信じているからといって、その人個人の人間性に問題があると考えてはいません。この世は全員誰しもが幻想を共有して社会を作っていると考えているため、たとえ極端に『ないもの』の方向性に振れていたとしても、極端な現実主義者と同様に人間的であると考えているからです。

 とはいえフェイク画像や動画が非常に作りやすくなり、それすら付随していないテキストですら、嘘でも加害的でも何でも大声で言えば言ったもの勝ちの社会とあれば、あんまり放置するわけにもいきますまい。自分だけでも引っかからないように、ざっくりした知識という名の保険をかけておこうと思いました。

 私は懐疑主義のロマンチストという精神性を意図的に選択しています。タロットカードが好きなわりにその結果は手の込んだサイコロ以上に考えてないとかそんな感じです。

 しかし、その選択を保てないほど精神不安定になる状況が、この先訪れるかもしれません。人間の脳は自分ではどうしようもないときもあるので、知識もおまじない程度の効果しか発揮できない可能性もあります。

 それでも、その時に自分を絡め取ろうとする理論が何から来ているのか根っこで知っていれば、共感性、あるいは何らかの快楽物質によって攻撃性に加担することなく、孤独に耽溺する贅沢を味わえるかもしれません。単純に他人の金儲けに加担したくないというのもありますが……(レイジベイトは儲かる)

 陰謀論ですが、稀に「本物」が存在するため頭から否定することはできない、と著者もMKウルトラ計画やトンキン湾事件といった例を挙げながら述べており、私も同様に考えています。ともあれ、事実であれなんであれ、人間の性悪な部分はもちろん、性善な部分も時として加害性を持つことは変わりません。

 人の心は科学だけでは癒やされないから根拠のないものは必要なのですが、その根拠のないものが何を救い、何を害するかは、SNSアカウントを作って大混乱する前に考えられたらいいんじゃないかな、と思いました。