若き日の名探偵、シャーロック・ホームズ。彼は、病で亡くなった母の墓参りのために故郷のコルドナ島を訪れた。しかしそこで謎の画家から、母の死には別の真相があると教えられて……?

という導入から始まるオープンワールド推理アドベンチャー。これが私に刺さって大層面白かったです。
以下、ネタバレを含みます。
オープンワールドですので、島を自由に走り回ることができます。意外とアクション要素のないゲームでオープンワールドってレアなんですよね。いえ、正確には戦闘があるのですが、そんなに難しくないし、どうしても嫌なら完全にスキップできます。


そしてサブクエストが凝っています。行く先々で事件が起こったり、警察の代わりに殺人事件を解決したり、シャーロック・ホームズとしてやりたいこともだいたいできます。大学にも入っていない時期の物語ということで、ジュブナイルみもあります。なにより、相棒のジョンとの掛け合いが楽しいです。
そのジョンですが、ジョンはジョンでもジョン・ワトソン博士ではありません。シャーロックと幼少時代よりずっと共にあり続けた、イマジナリーフレンドのジョンです。

シャーロックの欠落した感情を補うが如く存在する、明るくて活発なジョン。励まし、支え、時には良心となってくれるジョン。
なぜイマジナリーフレンドがいるのかというとシャーロックの精神が不安定だからです。この不安定さの根っこにあるシャーロックのトラウマが母の死と密接に関わっており、メインストーリーのテーマとなっています。
評価が分かれている部分は、シャーロック・ホームズが事件をばばーんと解決!という話ではないからかもしれません。このメインストーリー、そしてメインストーリーとつながる4つの事件、すべてにジレンマが含まれています。面白いんですけどね。象(動物)が関わってきたり、まるで関係なさそうな絵画泥棒と難民キャンプでの殺人が同時に起こったり。
話を聞き、証拠をよく見れば事件の真相がわかる構造なんですが、明確な解答が得られなかったり、何かを助けるために何かを諦める必要があったりします。ですので爽快感を求めると肩透かしを喰らいます。あと真相と異なる解答、たとえば冤罪をふっかけてもそれが『真実』になって話が進んでしまいます。
(補足しておくと、サブクエスト、特に警察関係のものはスタンダードな推理ものが楽しめます。吸血鬼事件とか秘密の決闘クラブとか)
真相と異なる解答でもそれが真実になる……というシステムがエンディングにまで適用されるのが筋が通っている。『本当のことではないけど、でも嘘のほうが優しい』という描き方について、一番好きです。私が選んだのは、自分の主義的に、残念ながら(?)真相なんですが……
以下はエンディングの一つより引用、好きなセリフ。
「人に優しさを示すのはエゴか偽善だとも言う。でもそれは自分自身への共感や創造性、そして愛情なんだよ」
道徳的曖昧さと、真実を暴くことの意味。テーマがそのあたりに集約されています。私はそういう話が好きだということです。
一つ文句を言うとすれば、ヴァーナー(画家)がシャーロックの人生を壊すことで救いに来た男がお前だとは認めないぞ私は、というところです。オリキャラめ⋯⋯。
とにかく、個人的にとても好きなゲーム、心に残るゲームだったということです。ずっとこのゲームのこと覚えてると思います。

あと、細かい部分ですが、私がだいぶ前に企画展に観に行った絵が飾ってあって嬉しくなりました。ずっと存在し続けている絵画なんだなあ。こういうのいいですよね。

これは事件と全然関係ないことを喋る証言者の話を聞いているふりをして犬の絵を描くシャーロック・ホームズ。