そこにいるのはただの前髪(2024/6/3)

homachimaru
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公開:2024/6/3

今回の『虎に翼』で、司法省に勤めることになった寅子が、大学時代に因縁のあった小橋と再会しただけでなく、彼に付いて働くことになってしまった。それにしても、小橋は裁判官となった現在も、学生時代と変わらず前髪の一部を綺麗にくるんとはねさせた特徴的な髪型をしている。今回、小橋の前髪のはねた部分がしばしばアップで映されていたのは、もしかしたら寅子の小橋に対する態度が視点として現れていたのかもしれない。こいつとまともに取り合っても、失礼なことを言われてこちらが不愉快な思いをするだけである。これはただのはねた前髪なのだと思うことで、その不快感を少しでも逸らし和らげようとする、人間関係あるあるだと思った。ただ、この演出は好みがとても分かれそうだし、ここだけの話、反省会に身を置いている方々を活気づかせる格好のネタになっているのではないかという懸念もある。かく言う私でさえも、さすがに「つづく」の文字を前髪の先に乗せるのは、ちょっとやりすぎだと感じた。

あまり深く関わりたくない人といえば、苦手な相手と程々に上手くやっていくコツとして、その人の言葉や態度を真正面から受け止めない、でもあからさまに避けるのではなく、物理的にも心理的にも視界からそっと除外すると良いというような話を以前何かで読んだ。まさに、今回の『虎に翼』で、小橋の顔ではなくはねた前髪のみにクローズアップするようなものである。実際、少し苦手な人に対してそれを実践してみたこともあるが、確かに、明らかにいじめやハラスメントだという程では無いけれど、無意識に失礼なことを言う人やちょっと言葉がきつい人に対しては多少効果があったような気がする。効果と言っても相手が劇的に変わるということでは無く、私がそういった言葉に対してまともに取り合わないことで、相手も自分の言ったことが空振りや滑ったような感覚になり、次第にちょっかいを出すこと自体がつまらなくなってくるのか、失言や暴言を言われる回数が減っていったように思う。そんな距離を置くような態度を取らず、もう少し心を開いて懐に飛び込めば新たな人間関係が築けるのかもしれないと考えた時期もあったけれど、いやいやいや、一方的に言われっ放しでストレスを感じてしまうような人に対して胸襟を開くなど、どだい無理な話だ。