2024年8月2日(金) 『砂の器』

homachimaru
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公開:2024/8/3

1974年の映画『砂の器』についての紹介漫画をBlueskyのタイムラインで見かけて、私が初めてこの映画を観た時のことをふと思い出した。

『砂の器』を初めて観たのは、ビデオやDVDではなく映画館でだった。もちろん1974年の公開時ではなく、確かデジタルリマスター版の短期間の上映だったと思うが、随分前の事でもあり、細かい経緯は忘れてしまった。ただ、名作とはいえ私が観た当時でさえ随分前の作品だったので、それほど観に来る人はいないだろうと思っていたのに、結構な人が、特にご年配の方が多く来られていて、空いている席を探すのが大変だったことは覚えている。

当時は原作小説を読んでいなかったので、この映画が初めての『砂の器』だった。映画の『砂の器』と言えばまず思い浮かぶのはこれと言っても過言では無い場面、父と子が黙々としかし命がけで日本中の様々な風景と「宿命」の曲を背景に放浪する姿は、ただそれだけなのにずっと目が離せなかった。それ以外の場面では、丹波哲郎さん演じる今西刑事の事件に対する熱意と執念が強く印象に残っている。

後日、松本清張の原作小説を読み、映画とはまるで雰囲気が違っていて、読みながらひどく戸惑いを覚えた。舞台となった年代も、小説と映画とでは約10年の差異がある。そのことにより、トリックについても映画では多少改変されている。そして何と言っても和賀英良である。小説では端的に言うと冷血漢で、まさに血も涙も無く、他人とは自身の目的を達するためにただ利用するもので、父親に対してはもちろん周囲の人に対して温かい感情も持ち合わせていないように見えた。これはこれで衝撃を受けた。

映画のラストには、ハンセン病は今では治療法もあり回復し社会復帰も可能であるが、それを阻むのは非科学的な偏見と差別だといった内容の文が流される。しかし、らい予防法が廃止になったのは、映画公開から20年以上経った1996年(平成8年)のことである。