金峯山寺を出た後、すぐに奈良市内まで帰ろうかとも思ったが、もう少し滞在できそうだったので、ガイドブックの観光ルートを見て、金峯山寺の次に紹介されていた吉水神社に行くことにした。金峯山寺と同じく役行者が創建した元は修験道の僧坊である。過去には、源頼朝に追われた源義経と静御前が一行とともに潜伏していた、後醍醐天皇による南朝の皇居となった、豊臣秀吉が吉野で花見の宴を催した時の本陣となったといった歴史の縁も深い神社だ。
境内には「一目千本」という、桜の季節には中千本と上千本の山桜を一望できる場所がある。私が行ったのは秋だったので当然桜は咲いておらず、とは言え紅葉のシーズンにも少し早かった。目の前の山を前に、想像力を総動員して満開の桜が咲いている光景を思い浮かべた。
更に奥まで行きたかったが、元々思い付きで吉野まで来たのもあり、今回はここで引き返すことにした。次の機会にはきちんと計画を立てて訪れよう、奥千本にある西行庵にも行ってみたいと思った。
まだ比較的日は高かったので、帰りはロープウェイには乗らず、吉野駅まで歩いて降りた。再び金峯山寺仁王門を通り抜けた時、振り返って携帯電話のカメラで写真を撮った。ロープウェイの吉野山駅を過ぎ、さらに歩いていると、途中、柿の無人販売所があった。「柿食えば」という句が思い浮かんだが、それは法隆寺だと心の中で一人ツッコんだ。その法隆寺にはこの翌々日に行った。
吉野駅に到着した。駅のすぐ側にお土産やお弁当などの売店が並んでいるので、そこで帰りの列車内で食べようとお弁当を購入した。そのため、帰りの電車は特急に乗ることにした。座席で一息つきながら、予定外だったけれど、行って良かったと満ち足りた気持ちで次第に暮れゆく車窓の風景を眺めていた。
(終わり)
今年の秋の金峯山寺秘仏ご本尊御開帳のお知らせ