昨晩、寝る前に窓の外を見ると、月が文字通り煌々と照っていた。昨日の満月はピンクムーンと言うらしい。月といえば『光る君へ』では、月が登場人物たちの来し方行く末の暗示として印象的に描かれることがよくある。これから先、道長が栄華を極める時、そして極めた後には、どのような月が浮かぶのだろう。
青空文庫で、与謝野晶子訳『源氏物語』「若菜上」の、女三の宮が光源氏の元へ降嫁するあたりまでを読んだ。「若菜」では、四十代の光源氏の絶頂期とそこに翳りが差し始める人生のターニングポイントの時期が描かれる。若い頃は生きるエネルギーにあふれていて、当時は自分ごととしては実感の薄かったであろう人生の終わりが身近となり、しばしば会話に出家の話題が出てくる。そして、何と言っても、光源氏が、全てにおいて秀でた人物であることは変わりなく、年相応に重きを置かれてはいるものの、以前ほどには光源氏が物語世界の中心にいるという感じでは無くなっている。
漫画や小説家の連載で、話が進むにつれ、登場人物たちばかりではなく作者もともに成長することで、表現やストーリーに一層深みが増すことがあるように、『源氏物語』で光源氏が年を重ねてゆくにつれて、紫式部自身も思っていた以上に表現力や構成力が更に磨かれていったのではないか。「若菜上」を読んでいると、「夕顔」の時とは違う、紫式部自身の経てきた人生の深みのようなものにぐいぐい引き付けられる。