実は、『虎に翼』が新潟編になってからの最初の週はほんの少し中弛み感を覚えていた。詳しく言えば、東京から地方に変わっただけで、家族の問題について寅子が奔走する話の繰り返しなのだろうかと思っていた。しかし、回が進むにつれて、同じように見えてまるで違うことが分かってきた。今度は家族の絆や地域の繋がりだけではなく、たとえ様々な事情で一人であったとしても、あえて一人を選んだとしても、強制的に縛り付けられることのない拠り所、それも人に限らず複数持つことで、その一つが無くなったとしても他の拠り所によって自分を支えることができる。そのことを、優未を始めとした登場人物たちの行動や言葉を通して強く感じられた。この対極に今あるのがおそらく美佐江なのだろう。「あなたは私の特別」とブレスレットを渡すことで、相手に自分に取っての拠り所は彼女しか無いと縛り付けて支配する。こちらは今後どういう結末に至るのだろうか。
『虎に翼』では、世の中のあらゆる差別や人権侵害について、取りこぼす事なく拾い上げ、そこはなあなあで大団円にしないという決意や信念が軸になっているように思う。差別と言えば、空襲により足が不自由になり車椅子が必要になった玉の思いや涼子が母親から言われた子供がいないと寂しいという言葉、朝鮮人に対する差別や偏見、そこから約30年前の関東大震災時に起きた凄惨な事件に対するいまだに変わらない見方など、戦後に新しい憲法が公布されて誰もが法の下で平等であると謳われてはいるけれど、そのことによって真に平等になるどころか、かえってその差別が透明化されている現実を突きつけられて愕然とした。