来るという名前の犬と、来んという名前の犬といて、来るは呼べばすぐ来るから馬鹿にされていたらしい。
二匹は祖父母の家で、私が生まれる前に飼われていた番犬だった。来るは役には立たなかっただろう。
私は大人になって一人暮らしを始めたときに猫を飼った。犬の話をしておいて申し訳ないが、私は猫派だ。
その猫にみけという名前をつけて可愛がっていたが、「みけ」と呼んでも声が届いてないみたいに無視されるから、その時なんとなく「来る」と呼んだら反応してくれるようになった。
猫の来るは14年生きて、私はその後ペットを飼わなかった。
歳月が経ち、私も死んで、私の目の前には犬と猫がいた。両方来るだと私にはわかった。名前を呼べば両方来て、私は二匹を抱きしめた。
「来ん……」とちょっと言ってみたが、来んはやっぱりどこからも現れなかった。