安西水丸『1フランの月』(小学館)を読む。2014年に急逝した水丸さんの没後十年を期して編まれた遺稿集。表題の「1フランの月」は、1990年に刊行された長篇小説『手のひらのトークン』の続編だった。小説の舞台は1960年代だが、水丸さんはこの続編をいつ書いたのだろう。
アメリカでの生活をチャラにして、ヨーロッパを転々とする若者の心情を、歯切れのいい、短いセンテンスの積み重ねて描いていく。シンプルな線と鮮やかな色が目を引く水丸さんのイラストのよう。けれども物語の背後には、どこか暗い「影」がある。『手のひらのトークン』が、「戦争」を引きずる人間たちを活写していたみたいに。
未完だけども、十分に読み応えのある佳品だった。