村上春樹『デヴィッド・ストーン・マーティンの素晴らしい世界』(文藝春秋)を読む。
恥ずかしながらデヴィッド・ストーン・マーティン(DSM)というひとのことはまったく知らなかった。ジャズミュージシャンかと思っていたのだが、1940年代から50年代にかけて多くのジャズレコードのアルバムジャケットを手がけたデザイナー/イラストレーターらしい。
村上によるとその画風は〈おそらくはベン・シャーンの影響が強い〉そうで、〈カラスの羽を使って作られた丸ペン〉を用いた線に〈あっさりと単色が添えられる〉というもの。この本には村上のコレクションするDSMジャケットがカラーで紹介されているが、たしかにシンプルな線画が目を引く。そこに大胆に色彩を添えつつも、全体のデザインは緻密に計算されているように見える。
DSMのイラストは、和田誠や安西水丸のシンプルなイラストを思い起こさせる。和田も安西もベン・シャーンに影響を受けたとされる。DSMからの影響もあったのかもしれない。
また、DSMのイラストには、とても「意味深な何か」が象徴的に描かれているものがある。「裸電球」だったり「顔のない男」だったりするそれらは、村上作品でもおなじみのモチーフでもあって、なるほど、村上自身もDSMから多大な影響を受けているのかもしれない、と思わせる。なかなかに興味深い一冊だった。