朝いちでトシコさんから電話。ちょうどトイレに入っていたときだったのであたふたする。もしかして老人Xに不測の事態でも起きたのか。あわてて折り返す。
「ちょっと待ってね」とトシコさん。待ってると老人Xが出た。開口一番「試験には落ちまーした」。こちらも思わず「そーでーすかっ」。こころもち大きな声で。元気そうでなにより。
試験というのは某国家資格試験のことで、昨年末、あったのだ。目的を定めて勉強すること自体は悪くない。というか、ぜんぜんよい。素晴らしい。しかしさすがに受験まではしないだろう。今の老人Xの状態では、試験会場までたどり着けまい。トシコさんも自分も、そう高をくくっていたわけである。
しかし老人Xは本気だった。
あわてたのはこちらである。さてどうするか。ここまできて無下に諦めさせるのも、どうかと思う。ならばとことんまで付き合おうではないか。
かくして試験当日、我々は老人Xに付き添っていくことにした。老人Xは「ひとりで行く」と言い張っていたが、さすがにそれはやめてくれと説得した。転倒して線路に落ちでもしたら、えらいことだからだ。
せめてタクシーで行こうとすすめるも拒否される(なぜだ?)。そんなわけで、みんなでバス、電車、地下鉄を乗り継ぎ乗り継ぎ。老人Xは、両手に杖を突きながら。
二時間かけて、なんとか会場まで無事にたどり着くことができた。妙な達成感があった。老人Xを試験会場に残し、我々はちょっと豪華なランチを食べた。おいしかった。