「紅葉賀」の帖を読む。
光君が「青海波」を舞うシーンが雅で良い。冒頭に舞踏の場面というと映画『ゴッド・ファーザー』などを思い出す。物語全体のスケール感を出すには、ダンスと音楽というのは絶好の題材。巧い。ほんとうに紫式部の才能すごいなと感嘆するばかり。創作の定石をちゃんと踏んでいる。
舞の情景に重ねつつ、藤壺、弘徽殿女御、葵の上などなど女性たちの心情を絡ませていく手腕も見事。それぞれの歌の掛け合いなんかも、今さらながらに、独特のリズムをもって読み手を引き込む。村上春樹も常々、文章にはリズムが大切と言ってるけど、このリズム感が物語のけん引力になってるのかも。
女性たちの思いはけっこうネガティブなものが多くて、(光君が原因とはいえ)ちょっと「重い」。そこに頭中将を出してきて、コミカルな典侍とのエピソードを持ってくるところなんかも憎い。物語の「軽重」のバランスをうまく取ってるなあと思う。