『源氏物語』「夕顔」の帖を読む。面白かった。短編小説としての完成度の高さに驚かされた。不穏な舞台設定、物の怪、謎の女性(&運命の女)、「雨夜の品定め」の伏線回収。女性たちとのそれぞれの別れを余韻を残すかたちで描き、物の怪の正体という「謎」をほのめかして終わる。現代でも通じるようなエンタメ要素がきっちり入っている。なるほど、「帚木」「空蝉」を加えて「帚木三帖」と呼ばれる理由も納得。1000年前にこれだけ緻密な物語を考えたというのは、ただただすごい。
ところで「雨夜の品定め」を読み、漱石の『吾輩は猫である』の苦沙弥先生たちの問答のシーンに似てるなと思った。明治の文豪たちは『源氏物語』からどんな影響を受けていたのかしらん? そう考えていたところへ、島内景二『文豪の古典力 漱石・鴎外は源氏を読んだか』(文春新書)という本を見つける。
これによると、漱石はもとより鴎外の「舞姫」や「雁」なんかも「夕顔」の設定や構成を借りていると考えられるのだそう。少々、著者の牽強付会な感もあるものの、当時の文豪たちが原典を読み、深く理解し、それを何らかの形で自作に反映させたということはあり得そう。