お気に入りの木がありました。
自転車で1時間ぐらい。風をおいこして、汗をながして、のぼったり、おりたりしたら、みえてきます。
その木はおおきな公園の真ん中にたっています。まわりにはベンチ。あまり人はいません。
太い幹と、おおきな葉っぱ。木のすきまからみる空は、いつも青いのでした。
特になにもしません。私はただ木のねもとにすわって、あれやこれやはなすのです。ほんの少し耳をすませば、近くのサッカーコートで試合をする少年たちの声と、ボールがネットにうちつけられる音がきこえてきます。それ以外はずっと虫の声。まるまるとふとったバッタがのんきにとんでいきます。
永遠でもあるし一瞬でもある時間が、一人と一本の間をながれます。はなすこともなくなって、からからの脳をほったらかして空をみます。サッカーコートのほうではシュートがきまったようです。ひときわおおきな歓声がきこえてきました。わたしは目をとじます。
この木にあいにくるのはいつも、道がわからなくなったときです。未来は空のようには青くなくて、いつも雲がくれするので、翻弄されてしまうのです。
くだらない愚痴が根っこから木にすいあげられていきます。目にみえないけれど、色をあたえるとしたらきっと黒になるもの。胸の底におしこんでおしこんで、ためてきたものが全部全部きえていくまで根っこにはなしかけます。それでもやっぱり、いつも葉っぱは青々としていて、幹は太く立派なものでした。
☁︎☀︎
いつのまにか、ねむっていました。なんの夢をみたのか、おぼえていませんが、ひどくなつかしいひとにあっていたような気がします。
空はすっかり夕暮れています。家にかえれば、きっと母がおいしいごはんをつくってくれています。父はきっと、あたらしいモノマネをみせたくてうずうずしているでしょう。
さぁ、かえりましょう。
私は木にさよならをします。次はいつになるでしょうか。またそのときはおねがいね、と幹をなでました。風でおおきな葉がゆれて、手をふったようにみえました。少し口角をゆるめながらそれをみて、帰路へとあるきだしました。