地球外生命体の〈来訪〉により生じた〈ゾーン〉で発見されるオーパーツめいたものに魅せられた、「ストーカー」と呼ばれる人々の話。ゾーンという人知を超えた置き土産を残していった何者かによるコンタクトものとして描いたうえで、それを取り巻く人間たちの方をメインに物語は終始する。ゾーンに対する憧れ、享楽、恐怖、営みなどがないまぜになったストーカーたちのまわりに漂う愚直でアウトローな雰囲気がとても良い。
もしかすると〈来訪〉や〈ゾーン〉は現実世界の何らかの事象とか、舞台となっている場所と重ねたメタファーとしても読めるのかもしれないけれど、そこまで考察する知識は全く持ち合わせていないので割愛。雰囲気と設定で十分面白かった。
ゾーンで見つかる超常遺物という設定だけでいうと『メイドインアビス』とか『HUNTER×HUNTER』にも似た要素を感じてワクワクした。とはいえ、来訪者の目的を含めてそれらが何なのかについては作中で明確に説明されることはないし、人類の理解を超えた存在としてただ物語の中に据え置かれている。この贅沢な設定の使い方がいい。
で、やっぱり自分はこの「あまりにも何も知らない人類」という結果が突きつけられるコンタクトものがとても好きだ。『ソラリス』、「鏖戦」、『法治の獣』とか。こういう作品をこれからも摂取していきたい。距離が離れていればいるほどいいよね。
それが最も表れているのが、ヌーナンとワレンチン博士の〈来訪〉論議のシーン。ここで登場する「宇宙人ピクニック説」は、来訪者にとってはコンタクト、もしくは干渉ですらないかもしれないという方向から知的生命の次元が人類と絶望的に隔たっていることをめちゃくちゃ直感的に思い知らせてくる。ゾーンまたはその周辺で、ストーカーたちの身に起きる破滅的な出来事が描かれたあとなので尚更だ。科学者と技術者の思考の違いや、そのワレンチン博士の考察が正しいかどうか誰にもわからないという不確実性なんかも面白さに拍車をかけていると思う。
レドリックが、〈黄金の玉〉に向かって走馬灯のように出来事や人物を次々とフラッシュバックさせていく勢いのある終わり方はしっかり集大成していて、小説の締めくくりとしてとても好き。『ストーカー』という物語の中で、「願いを叶えるという恩恵」が概念的に人間が認識できうるものの限界(最高位)としての象徴であるという見方をすれば、それをラストに持ってくるのはとても綺麗だし、そのリターンをもたらす遺物はもしかするとただのピクニックのゴミかもしれないということになり、物語の向こうに開かれていく(あるいは閉じられていく)世界を感じさせる終わり方だとも思う。