「いつか行ってみたいな」と思っていた惑星が爆発したというニュースを目にしたとき、わたしは驚きのあまり、しばらくその場に立ち尽くしてしまった。
惑星間移動の技術が確立してから、半ば夢物語と揶揄されていた星間飛行は現実的な移動手段のひとつになった。
理論上は可能でも、移動に何光年もかかることから現実的ではないと言われていた星間飛行の分野を著しく発展させたのは《LOOP》と呼ばれるワームホールの発見だった。常人には視認できないひものようなもので、こちらの惑星と移動先の惑星を繋いでいる。宇宙事業が未開拓の時代に起動エレベーターという言葉があったが、《LOOP》は形式に捉われない直通エレベーターのようなものだった。
わたしはニュース記事をつぶさに読み進めながら、大爆発に至る経緯を目で追っていく。
どうやら付近の天体に小惑星が衝突したことで、玉突き事故のように惑星の磁場が乱れたらしい。その後、通常どおりの公転軌道から逸れてしまったこの惑星は、同じように引力の均衡から解き放たれた天体と衝突。有志以来の爆発に耐えられず、惑星はほどなく自壊した。
文字で見れば、こんなにも呆気ない。
事件を受けて、件の惑星に繋がる《LOOP》は封鎖措置を取られていた。惑星の座標と軌道情報をベースに組成される《LOOP》の基本構造は、行き先を見失った場合、惑星をロストした座標を最終地点と捉えて排出先がそこに固定されてしまう。今、爆発してしまった惑星行きの《LOOP》に乗り込んでしまうと、搭乗者は何もない宇宙空間に放り出されることになる。
片道切符となってしまったそのワームホールは、今後の宇宙研究に新たな進展があれば、別の惑星へと繋がるワームホールに再利用される。それまでは国営の研究機関による厳重な監視下に置かれ、決して誰も通さない不可侵の弁になる。
わたしはニュース記事から目を逸らして、ふと頭上を見上げた。茜色の空を目にすると、この惑星にも大気中にオゾンがあるのだと実感する。空の端からは物言わぬ海辺のような宵闇が近づいてきて、大海原を瞬く星々の姿を窺うことができた。
どうしてもっと早くに行かなかったのだろう──そんな後悔の念が、ふっとわたしの頭をもたげた。
そこにあることが当たり前になりすぎて、いつまでもあり続けるものだと勝手に思い込んでいたのかもしれない。惑星の寿命は突然訪れるものだと、古くから授業で習っていたはずなのに。
あるいは、とわたしはさらに考える。そこにあるだけで満足している自分がいたのかもしれない。いつでも行けるという事実を自分本位に翻して、いつ行っても構わないものに変えてしまっていた。
往々にして、人生にはこういうことがある。
取り返しのつかない終わり。すぐに動いていれば見れたかもしれないもの。すぐに動いていれば手に入ったかもしれないもの。そういったものが、道端に落ちている枯葉のように幾つも存在している。
何度も同じような後悔しているはずなのにいつまでも成長がないように感じるのは、単に学ばないからというだけではないだろう。
デジタルデバイスをタッチして惑星パスを開く。映写ディスプレイに表示されたのは、これまでに訪れた惑星の名前と風景写真だった。
どちらにせよ、すべては手に入らない。もしこの惑星を訪れていたとしても、わたしはおそらく、別の惑星が爆発したときに同じようなことを悔やんでいたはずだ。その姿勢は変わらない。どうしようもないことに、わたしは失ったものにとても敏感で、そのくせ手に入れたものには鈍感な性分で生きている。
今回の惑星爆発による当惑星への影響はない旨を報じたところで、一転して朗らかな内容を知らせる新しいニュースに画面が切り替わる。
わたしは以前、惑星渡航者向けのカタログで読んだ資料のことを思い出していた。
あの惑星はとりわけ綺麗だったと聞く。ここと同じように大気があり、海があり、生物が生息していける環境の整った豊かな惑星だった。高度な知的生命体の存在も確認されていたらしいが、それらが今回の天体衝突にどこまでの策をこうじていたのかまでは報じられていなかった。衝突を防げなかったということは、おそらく避けようのない類の突発的な事故だったのだろう。
それで終わり。
わたしたちにとって惑星事故の認識はその程度のものでしかなかった。当事者意識に欠けると後ろ指を刺されることもない。当然だ。だって実際に当事者ではないのだから。
それでも、そんな自分のことを心底情けなく思う気持ちはある。後悔は祈りの前触れだ。知識も手段も持ち合わせていないわたしには、事故に巻き込まれたであろう生命たちの冥福を祈るほかない。
だからわたしは、今日も静かに祈る。
世の中に存在するすべての事柄で、取り返しのつかない終わりが訪れませんように。
すべては手に入らない。そんなことは承知の上で、すっかり何もかもを、ほんとうにこの世のすべてをわたしが見尽くしてしまうまでは、どうか誰ひとり早まらないでくれと。
茜色の空が暮れる。その光景が世界の終わりと重なって、わたしはそっと深い暗闇から目を逸らした。