配電盤と発明品の夢

結城浩
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公開:2025/3/15

ビルの中にいる。時間は夜だ。すでにそのビルの営業時間は終わっており、人は少ない。本来なら外に出なければいけない時間らしい。

私は何か用事があって、作業員用のエレベーターに乗っている。しかし、このエレベーターにこの時間に乗ってはいけないのだと、乗ってから気がつく。以前も同じことがあったが、閉じ込められてしまう危険性があるからだ。そのことを思い出して扉を開けようとするが、もうその時間は過ぎていて、エレベーターは勝手に動き出し、地下の警備室に降りていく。そこでは警備員がいて、外に出るための手続きをしてくれるのだ。

警備室に行くと、警備員さんはちょうどトイレに行こうとしているようだったが、「はいはい、わかりましたよ」と、わけ知り顔で私に鍵を渡してくれる。

ちょうどそこにヨーロッパから来ている若者たちがいて、私に彼らが作った発明品を見せてくれるという。私は用事があるのだけれどな、と思いつつ、彼らについていく。

彼らはこのビルの配電盤に私を連れて行き、ケーブルを指さす。どうやらそのケーブルを使って、自分たちの発明品を見せてくれるらしい。「それをやったら、このビルの電気が切れるのではないか」と心配になるが、若者は特に気にしていない。

4本の太いケーブルが出ているうちの真ん中2本を、若者がいきなり引き抜くと、あちこちで電気が切れる。しかし若者は、その太いケーブルをまた元に戻す。だが、電気はつながらない。彼らは私に得意げな顔をしてみせる。

どうやら、そのケーブル自体が彼らの発明品らしい。ケーブルが一旦引き抜かれると、自動的に金属部分がカバーされ、感電したりショートしたりしないように工夫されている。特殊なケーブルのようだ。

なるほど、これはよくできている、と思ったところで目が覚めた。

 * * *

全体的に、「これは以前も来たことがある」「これはいつも起きていること」という印象があり、特に怖いとかつらいという感覚はない。

すべていつものことなのだけれど、若者が見せてくれた発明品の話題は初めてだったので、「夢を見ているのだな」と、私自身が「一体何が起きるのだろう」という軽い興味を持って見ていた。

感情的な起伏はほとんどなく、日常的で穏やかな印象だった。

この文章を書いているうちに、今やっている執筆作業の状況と、なんとなく呼応している部分があるなと感じている。淡々と進める日常作業の中に、意外な発見があるという状態のこと。

@hyuki
本を書く生活が30年くらい続いています。最近は『数学ガール』関連の本をずっと書いていますが、2024年3月に群論の本が出ました。毎週火曜日にメールマガジン、金曜日にWeb連載を配信しています。感想レターは「読みました」だけでも、とてもうれしいので、お気軽にお送りください。他のSNSへは私のホームページからたどれます。www.hyuki.com 〔ゆうき・ひろし〕