「では今夜、褥を共に」
この本丸で誉の褒美といえばそういうものだった。
「倶利伽羅はんはどない思います?」
「なにがだ」
大倶利伽羅は面倒くさそうに明石国行の問いかけへと応じた。明石に再度質問する気がないのを見ると言葉を継ぐ。
「己が持っている武器を最大限活用しているだけだ、良いも悪いもない」
審神者から褒美を賜るだけでも気力は上がる、それが審神者自身の身体を使ったものならなおのこと。
「そりゃまあそうですけど」
ふう、とため息をついた明石だって褒美として審神者を抱いたことがある。良い悪い以前に言い訳などできない。これ以上ここにいては無用な問答が続くと思ったのか、大倶利伽羅は広間を出ていった。男士の多くは出陣ないし遠征に出ており、今この場には明石一振り。またため息をついた明石はごろんと横になった。
その晩、審神者が夜伽を終えて私室に戻ろうとすると戸の前に明石がいた。月明かりのみの中で佇む男士は美しくも恐ろしい。
「こういうの、もうやめた方がよろしいんやないですか」
明石はそう言い、審神者はふ、と笑った。曰く、意外と独占欲が強いのね、淡泊なのかと思っていたわ、と。審神者はそのまま部屋へ入り、戸は閉まった。
翌日の出陣部隊には明石が組み込まれた。嫌そうな顔をしているが根は勤勉な男士である。出陣先は異去。審神者からの褒美のためか、設立からそれほど経っていないこの本丸でも挑める状況にあった。
戦果は上々、明石が中傷で他五振りは無傷だった。明石は真剣必殺で敵を仕留めたらしい。誉は明石だということになった。
手入れ部屋で明石と審神者はふたりきりで対峙した。褒美はいつも通りで良いか訊いた審神者に明石はあきまへん、とだけ答えた。審神者は戸惑った。確かに明石の気力は下がっていないが、こうすれば男士たちは喜んでくれたので。黙り込んでしまった審神者に明石が継ぐ。
「そういうんはあきまへん、もっと、主はんご自身を大事にしてください」
審神者がそっと明石の頬に触れる。
「あいったたたた、なんですの」
私のことが嫌いですか、と審神者は訊いた。
「大事な主はんですよ、せやから主はんも大事に扱うてください」
そう、と応えると審神者は執務室へと戻った。
その日から褒美として審神者を抱く男士はいなくなった。そうしても男士たちの士気は下がることなく、本丸は安定して強い戦績を誇った。
そんな日々が続く中で審神者は恋をした。演練で出会った他本丸の審神者だ。ざわめく男士たち。一声を上げたのは明石だった。
「あのお人やったら主はんを幸せにできると思います」
皆揺れていたのだ。全ての男士が明石に賛同した。果たして恋は実り、審神者は結婚することとなった。
審神者同士の結婚はどちらかが退役することとなる。審神者は相手の城への輿入れが決まった。つまり所持する男士たちの顕現を解き、自らの城を明け渡さなければならない。政府に頼み、知らないところで男士たちを資材にすることもできるが、この審神者は自分の手で男士たちを刀解することを選んだ。
一振り、一振り、とお礼の言葉を伝えながら審神者は刀解してゆく。残りが十振りほどになったところで明石の番が来た。審神者は言葉に詰まった。何も言わない審神者に明石はふうわりと笑い、おおきに、楽しかったですわ、とだけ言い残して資材へと変わった。
最後に残った始まりの一振りである蜂須賀虎徹は報告も兼ねて政府本部へと向かう。審神者だった女はその後、夫である審神者と子をもうけ、幸せに暮らしたそうだ。
おしまい