「チョコレートが苦手で食べられない」と公言している。
けれどこれは正確ではない。実際、どちらかと言えば苦手で、例えばクリーム状のチョコレートは口に入れただけで吐き戻しそうになるくらいだったりはするのだけれど、ごくまれに一口二口だけチョコレートを食べたくなる。説明が面倒なので「苦手で食べられない」ということにしている。
さて、先日リンツが推し活ポーチの販売を始めた。ぬいぐるみが入るサイズのカラーバリエーション豊富な筒状ポーチを500円で、というやつだ。チョコも買わずポーチだけ求める人が殺到したらしく、即品切れ、今度はリンドール24粒と一緒に2個まで、という購入条件になったようだ。
ポーチが品切れしている間に、いろんな情報が飛び交っていた。
リンツはもともとお高いチョコレート。リンドールというチョコは量り売りで1個から買える。その1個は100円ちょっとくらい。味と包み紙の色がいろいろあるので楽しいよ。などとともに、リンドールをめぐる家庭内暴動の話なども。
一方、私のリンツのイメージと言えばやはり江國香織先生である。たぶんエッセイで、リンツのチョコレートがお気に入りだと読んだことがある。だからきっと美味しいチョコレートなんだろうなと思っていた。もう読まなくなって久しいが、江國作品は一時期、身に染み込ませるように繰り返し読んでいたのだ。
そういうわけで、仕事帰りに天神地下街のリンツに寄った。ショップがあることは以前から把握していたが、足を踏み入れたことはなかったのだ。
店内はおしゃれな女性でごった返していた。再販されたポーチ目当ての人も多かったようだけれど、普通に「いつも通りのこととして」リンドールを数個だけ量り売り用の袋に詰めている方もいた。ぐるりと店内を見渡して、その量り売り用の無料の袋を手に取り、ドキドキしながらカラフルな包み紙のチョコレートを見ていった。
本当にカラフルで、チョコレートが大好きだったらたまらん幸せな場所では、と思ったりした。そんなにたくさんは食べられないし、お財布もいつもどちらかといえば寂しいタイプなので、3個だけ買うつもりにしていた。1個は夫へのお土産で、自分用に2個だ。
悩みに悩んで、夫用にナッツの、自分用にブルーベリークリームとビターチョコを買った。お会計は500円でおつりがきた。
梅雨の晴れ間とはいえ暑い日だった。返ってきた私はリンドールを袋ごと冷蔵庫に入れた。翌朝にでも美味しく頂こうという算段だった。
起きてお茶を飲もうと冷蔵庫を開けると昨日入れたはずのリンドールの包みがなかった。「え?」と思い、テーブルを見るとすべて食べられていた。夫に。
「うそお!」
思わず声を上げてしまった。その声に夫が目を覚ます。曰く、その包みそのものが「自分(夫)用の1個」だと思ったのだそうだ。ひどく落胆した私は、とりあえずいつも通りいぬの散歩に行って、朝ごはんを準備した。
朝ごはんを食べてしまえば気持ちもだいぶ落ち着くものだ。夫に訊いてみた。
「チョコレート、どれが美味しかった?」
返ってきた答えはこうである。
「ぜんぶ!!!」
……とりあえず今日の仕事帰りにもう一度、リンツのお店に行く予定だ。