○相沢沙呼「午前零時のサンドリヨン」
前に読んだ「雨の降る日は〜」がとても登場人物に魅力のある小説だったのに、これは逆に私にはその部分が全く響いて来なかった。同じ作家さんでこんなに極端なことがあるのだな。
○阿部暁子「パラ・スター Side百花」「パラ・スター Side宝良」
車いすテニスをテーマに技術者側/選手側から書いたお仕事小説/スポーツ小説。2部構成なのにジャンルごと変わってしまうのが面白い。百花編は少女小説感が強いなと思いながら読んでいたところ、宝良編でぐっと物語の強さが増していて、そこから顧みると百花編もやはり強い話だったのかという気分になる。選手としての好不調の原因を安易にメンタル面の問題にせず、技術面・機材面にフォーカスして描いていたのが好印象だった。
○リチャード・オスマン「木曜殺人クラブ」
素人探偵ものは良くあるジャンルだけれども、事件の舞台が高齢者住宅で、探偵たちが高齢者グループという設定が良い。老人だからこそ出来ること・出来ないことが面白い。しばしば咬ませ犬にされがちな警察側をそんなに無能扱いしないのも好感。ただ、シリーズものということだけれども、1作目の事件でメイン登場人物のパーソナルな部分に深入りしてしまっているので、2作目以降の事件がただの老人探偵サークル小説というだけの軽いものになってしまっているのではないかと、気掛かり。……でも、それはそれで英国ミステリらしくていいのかな。
○新川帆立「元彼の遺言状」
スルーしてきた話題作に手を出してみようという試み、今月はこちら。主人公のキャラクターがあまりに現実感のない“キャラクター”すぎて不安になりながら読み始めたら、するするサクサク進んで面白かった。遺言状の条件に合致する存在を作ってしまえばいいという、道のりを逆走するような設定はなるほど上手いアイデアだと思う。派手に展開する部分よりも、地方のささやかな街弁護士の存在が一番印象的。謎解きが駆け足で詰め込みすぎのきらいはあったけれども、総じて読みやすかった。
○呉勝浩「Q」
個人的な好みの問題として。ファム・ファタール/オム・ファタールといった、“触れるもの全てを狂わす魔性の存在”みたいなフィクションに年々魅力を感じなくなっている気がする。じゃあなんでこの本を手にしたんだと問われると、「スワン」「爆弾」からの期待感かな……。うーん、今回は好みではなかった。また次作に期待。コロナ禍の非常事態宣言の只中に静まり返る街を歩きながら、近いうちにこれがエンタテイメントの創作として描かれる日が来るのだろうなと考えたことを思い出す。ただそれはあの時の混乱を実体験として持つものが読むから伝わるのであって、このさき年月が経って、あの静寂を知らない世代がそういったフィクションに触れたときに、それはエンタテイメントとしての魅力を持っているのか、どうか。そして、もっと歳を重ねたら私もまた魔性の君にも興味を持ったりするのかもしれないのかなと考えたけれども、それではヴェニスに死すになっちゃうな
今月は(最近は?)“登場人物”というよりも“登場キャラクター”と表記したくなるような、いかにもフィクション然とした設定の話が多かった気がする。私は別に小説にリアリティばかりを求めているわけではないけれども、続くとどうにも地に足が着いていない感覚が否めない。