Yuichiro & Friends -Singing! Talking! Not Dancing!-

イチコ
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2010年代の中盤に、クリエミュージカルコレクションというコンサートをやっていた。“ファッションショーのように次々に歌を纏っていく華やかなショー”というコンセプトで、演出は山田和也さん。出演者は山口祐一郎さんを中心に入れ替わり立ち替わりで、各回10人くらいだったかな。チラシもドレスアップした写真で、ランウェイのように登場しながら、かなりの曲数を歌い継いでいく形式だった。

それが、コロナ禍の山口さんのトークショーを経て、少人数のゲストを迎えての歌とトークのコンサートになった……という認識でいいのかな。演出も同じ山田さんだしね。

今回はクリコレ時代のレギュラーだった今拓哉さんがご出演ということで、2019年の「シャボン玉〜」以来となる久しぶりのシアタークリエへ行ってきた。今さんにお会いするのも4年ぶりということで、少し緊張。

内容は、“歌って!語って!”というエクスクラメーションマークの勢いは感じず、“歌とお喋りと”といった風情の、随分とのんびりとした雰囲気の会だった。手前に一人がけソファが5つ。上手側の奥にバンドメンバー、下手側は階段とバルコニーのセットで、赤レンガの壁面に公演を通しての出演者のモノクロ写真。これは山口さんだけがお若い時の写真を使われていて、トークのネタにしていた。

ステージは山口さんの“母校の小学校の校歌”からスタート。そりゃ、なんだか聴いたことがない曲だなって思うわけだわ。確かに唱歌っぽい歌詞だなと思ったけれども、ちょっとおふざけが過ぎませんか山田さん。コロナ禍のトークショーと前回の「My Story, My Song」は未見だったので、この初手でステージの方向性を把握。こういうショー。そういうショー。よし、理解。

ゲストは今さん、保坂知寿さん、平野綾ちゃん、平方元基くん。年長者3人が劇団四季出身ということで、トークでは若手に「劇団時代のお話聞かせてくださいよ〜」と振られていた。

まずは歌の話。

山口さん。ソロではJAZZを軽やかに歌われたりもして(校歌もJAZZアレンジだった)、帝劇を揺らすようなパワフルな歌唱を知る身としては随分と穏やかになられたなと思ってしまうけど、楽しそうに歌われているのは嬉しくなるね。なんだか一緒にニコニコしてしまう。と思っていたら一幕ラストでTdVを演られて、一気に気持ちが高揚する。うわあ、お会いしたかったです伯爵。相変わらず、人外の存在が心底お似合い。この役の無二の存在感はなんだろうね。

知寿さん。ソロは「モダン・ミリー」の「ハッピーエンドの作り方」。そして「ノートルダム〜」のエスメラルダの曲は予想していなかったので、心構えができていなくてとても動揺した。うわー、本物だ……!!抑えた低音が本当に美しい。パワフルな歌唱に格好のいい役柄が素敵な知寿さんだけれども、この曲は声の表情の繊細さが流石と思う。それにしても、知寿さんのエスメラルダを生で聴いてしまった。わー。うわー。

平方くん。「生きる」から「人生の主人になれ」と「マイ・フェア・レディ」の「虹」。久しぶり!久しぶり!元基くんが元気で良かった!今さん出演日の中からこの公演を選んでチケットを取ったのは、平方くんに会いたかったから。声が伸びやかで晴れやかで、一音一音が瑞々しい。なんといっても“素敵な人がそこに居る”、という立ち姿が良い。いま、年齢と経験と技術のバランスが1番良い時期だよね。

良い時期、を感じたもう1人。平野綾ちゃん。今さらながら歌が上手い。記憶よりもさらに良かった。張力といえばいいのか、弾力?声の輪郭がはっきりしていて、それでいて硬さがない。つやっつや。次のミュージカル出演は決まってるんだっけ?と思って調べたら、そういえば「この世界の〜」に出るんでした。5月か……行けるかな……。「ムーラン」の「リフレクション」、情感豊かで良かったです。もう一曲は「レディ・ベス」から「秘めた思い」。

山口保坂平野で、竹内まりやの「元気を出して」。ふわりとした雰囲気で可愛らしかったのだけれども、レベッカを連想させるこの3人で柔らかいポピュラーソングを歌うという落差が大きい。

今さん。については別記事であらかた書いたのだけれども。一曲目は振り付き&客席煽り付きで「Y.M.C.A.」。まあ、うん、今さんに一緒にやろうと言われたら、そりゃ振りくらいやりますけどね。若い頃はそうやって何度砦で死んだことか……と、それはさておき。声の輪郭が丸くなられていたのと、踊り終わったあとに疲れていたあたりがご年齢。2曲目はこちらも昭和で「ヤマトより愛を込めて」。私はこちらの方が今さんらしくて好きだった。アンジョルラスに限らず、理念や理想を高く掲げるような意志の強さのある歌は、今さんの声に合っていると思う。

山口今平方の3人では「最後のダンス」を。数フレーズだったけれども今さんのトートを聴いたのは初めて……じゃないかな……。どうだったかな…。私は若い頃の今さんにはルキーニを演って欲しかった派だったんだけれども、それでもミュージカルファンたるもの一度は想像するじゃない、好きな役者さんのトート。長年の地縛霊が成仏した気分。ありがとう。山口さんは言わずもがな、平方くんのすこぶる健康そうなトートもとても素敵だった。

トークの話。

“ここだけの話ですよ”が合言葉になっていたので、どこまで書いていいのか悩ましい。そんなに表に出しては行けないような話をしていたわけではないのだけれど。

山口さんが“もうすぐコキコキ(古希)”と何度も繰り返していて、その度に、いや嘘でしょ…ってなる。相変わらずのスタイル。相変わらずの美貌。

宇宙人にあったことがありますかネタ&幽霊を見たことがありますかネタをかなり引っ張った。平野綾ちゃんの携帯電話に残っている未確認飛行物体の写真の件など。

山口さんの子どもの頃の思い出話。

劇団時代の話を振られて、年長者組の猫トーク。今さんが歌い出しの3音だけハミングされて、そのリーダー猫姿を観るためだけにタイムマシンが欲しいと念じ続けている私の脳が、一瞬ショートしかけた。いいじゃん、そのまま歌っちゃおうよ。良くない。ロングラン中の知寿さんの年間出演数が365を軽く超えていた話。フレディ・マーキュリーが観劇に来た際にみんなでキャットウォークから覗いていたこと。ハードなダンスの筋肉痛に消炎剤を塗っていたら匂いで客席にバレた件。

ハードなダンスが辛かった話の流れで、劇団時代の某オーディションミュージカルについて。当時のダンスはまだ踊れるんだよ……と山口さんが突然立ち上がって踊り出され、舞台上の4人が騒然とし客席が沸く。それはもう、沸きに沸く。Not Dancingとは。

山口、保坂、平野、今で共演したエドウィン・ドルードの思い出話。この舞台で今さんは変態の紳士を演じていたのだけれども、ご両親が観劇にいらした回が一番大変なことになっていて……という、まさにその回は私も客席にいた日だったので、話を聞きながら懐かしくなる。あの日の今さん、本当にぶっちぎりに振り切ってキレキレだった。私の贔屓役者さんがこんなに!素敵!!って誇らしかったのを思い出す。最低の変態役だったけど最高だった。

綾ちゃんと平方くんでレディ・ベスの話。肌を露出させまくった平方フェリペが登場するシーンで一斉にオペラグラスが上がるのを見て、綾ちゃんがまた負けた!と毎回悔しがっていた話。そこから平方くんを脱がせにかかる流れになり、「(進行表を眺めながら)どこで脱ぐ?」「いや何の準備もしてないから!」「全体曲とか」「一人で上裸だったら変でしょ?」「他の人の歌のバックで脱いでもいい」「いやいや待って待って」と、焦って汗をかいていた。

トークは綾ちゃんの場慣れっぷりや保坂・今のソツのなさに山口さんののんびり感の中にあって、平方くんが椅子の上で身を反らせてケラケラ大笑いしている姿が可愛いかった。

総じて随分とゆっくりとした時間の流れる会で、カーテンコールで山口さんがバンドメンバーと「ようやく手をつなげるようになりました」と挨拶されるのを眺めながら、自分が客席で過ごしてきた年月の長さをぼんやりと考えた。

新帝劇の話も出ていたけれども、山口さんが立たれる姿を、私も見たいな。

@ichi_ko15
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