「なんで卒業生が卒業式の練習をしなくてはいけない?誰のための行事なのだ?」
ソウは、5年の頃からそう言っていた。
だから、5年生では卒業式練習を欠席した。
それから1年経ち自分の卒業式を迎え……いや、ちょっと待て。
振り返ればこの1年、めちゃくちゃ濃かったぞ。
ソウの中で何年も溜まったものが弾けた年だった。
家で癇癪を起こすようになり、
夜は布団の中で泣いていた。
悲しい、苦しい理由、
上手に言葉にできずに、ただ泣いていた。
そして、夜1時過ぎに涙は止まる。
フラフラっと起き上がり鉛筆を握る。
ノートを開き、そこにぎっしりと難しい数式を並べた。
現実を忘れるために数学に没頭。
やり切ったら床の上でコテッと眠りに落ちる。
それが夜3時ころ。
案の定、朝起きられないわけで、
学校へは遅刻しっぱなし。
(ソウはあの時どんな気持ちだったろう?)
間もなく、ソウは不登校を選択する。
運動会、修学旅行、音楽会……全ての行事を欠席。
不登校あるある。昼夜逆転が始まる。
ほとんど部屋にこもりゲームをしていた。
親は焦って散歩に連れ出そうとする。
嫌がるソウを無理矢理外に出させた。
光合成させたかったのだ。
心休まらない家。
(ソウはどんな気持ちだったろう?)
2ヶ月経ち、親も不登校が日常になりつつあったある日、
小学校の先生からフリースクールを勧められる。
ソウは、意外にも乗り気でフリースクールへ通う選択をした。
フリースクールでは、ソウの存在そのものを大事にしてもらった。
いつのまにか、ゲーム以外に興味が湧くようになった。
趣味が増えた。年上の友達もできた。
好きな場所ができたのだ。
(ソウはこの時のこと、いつまでおぼえているのかな?)
2学期、3学期……学校へは行かず、
フリースクールに通い続けた。
小学校の担任の先生が言った。
「学校に通うことよりも、ソウにとって1番良い環境を選択できることが望ましいのではないか」
親も、同じ気持ちだった。
学校は、ソウにとって1番苦手な存在。
その、学校のひとが
「自由になりなよ」
って、ソウの背中を押してくれた。
(ソウは、担任の先生の言葉に笑顔を浮かべた)
2月の初め、ソウは復学した。
新入生みたいにウキウキで通い始めた。
もともと友達のことは大好きだった。
10ヶ月伸ばしっぱなしのボサボサヘアも、全く気にせず、毎日学校へ通った。
(そして、ソウにスイッチが入った)
学校の同調圧力を撲滅させたい!
義務教育の無駄を無くしたい!
ずっと苦しかったモヤモヤが晴れた。
つまらない授業を目の当たりにした時は、そんなもの学ぶ必要は無い!と言い切り教室から出ていった。
全ての支配を跳ね返した。
「正しいことだからって義務にするな」
「そちら側の善を押し付けるな」
何も言えなかった、押しつぶされそうだった頃。
もう、あの頃には戻りたくない。
ソウは変身した。
校長室まで行って、意見をぶつけるようにまでなっていた。
3月、卒業式練習が始まった。
今年は練習に参加した。
ただ、みんなと形式通りに動くことは拒否した。
本当は、みんなのことも解放してあげたいと思っていた。
みんな大人の操り人形にされているようで、見ていて苦しかった。(みんなはそう思っていないようだが)
行き着いた先が、卒業式は保護者席で出席するということ。
学校も了承してくれた。
長い1年だった。それで出た答えだ。
卒業式直前、保護者席にソウの姿。
保護者たちがソウを二度見する。
卒業生入場。
その瞬間、ソウは頭を抱え、床を見ていた。みんなを見ていられなかった。
なぜか卒業証書授与だけは、形式通りに参加した。
式の間、ソウは自分の頭骸骨をコツコツとノックし続けた。物理的に。
1時間以上、保護者席にはソウの頭蓋骨のコツコツ音が鳴っていた。
2024年3月22日
ソウ、大好きな友達と一緒に笑顔で小学校の門を出た。