「The Model」のフェーズごとの営業管理フレームワークが人気だ。
「The Model」営業フレームワークを導入していないSaasを探す方が難しい。
営業のフェーズをすべて細分化して、CVを定め、KPIを設計する。ひとつのフェーズでKPIを落とし込み、数値を観測しながらチューンナップし、変数を洗い出し、課題を改善する。
プラクティカルな手法である。
これなにかのフレームワークに似てるように感じません?そう、フォード型の工場生産Modelである。車モデルを単純化し、パターン化し、作業工程を細分化し、それらの工程を徹底的に最適化する。定量化しKPIを設計し運用する。これである。
工場ならまだ対人ストレスが少ない。ただSaasモデルは、架電業務がある。練り上げられた架電スクリプトを用い、多くのケースに対応できる盤石なシステムを作り、笑顔で架電する。
ただここに罵声という変数が入る。
人が罵声を浴び続けると、どうなるか?
心が疲れる。
カール・マルクスが資本論で資本主義の悪癖のひとつは、すべての業務をどこまでも細分化し最適化することだ。数値を最適化することは、人を人扱いしていない、人から仕事のやりがいを無くすことと同義というようなことを書いている。
現代視点で注釈を加えると、資本主義は数値化されたものにKPIというラベルを貼ると、それを最大化するためにワークしてしまう。KPIを常に最大化するようにモチベーションされてしまう「今年10億だったから、来期は12億にチャレンジしよう」となる。
ここで、「あれ?なんで今期10億円も利益出したのに、来年は12億になるんだっけ?」みたいな問いは不要だ。そういった問いが生まれたときのために資本主義はKPIモンスターを飼っている。そういった問いを全て飲みこんでしまう、獰猛なモンスターだ。
KPIモンスターはKPIに対する問いに敏感に反応する。モンスターは問いを持つものに近づく、「KPI達成したら給与あがったろ?」と小さな声でつぶやく。そしてKPIモンスターは優しくマヌーサとルカニのデバフをかけてくれる。問いは雲散霧消される。あれ、俺なに考えてたんだっけ?
先日、僕はいま立ち上げ中の新規事業をするために、営業が強いで有名な企業のセールスにユーザーインタビューした。
セールス「営業していると禁止ワードの罵声で追い返されることはしょっちゅうです、ええ、毎日ですね。架電もテレアポも毎日しますよ。1日20件飛び込みしながら、架電40件ぐらい出来たら自分がんばったなって思いますね」
井上「タフっすね。それって成約したらはクライアントは、ハッピーな結果が出るんです?」「成約後に一緒に成果のゴールに向けてチャレンジしますが、クライアントの成果が出ないことも多いですね。」
井上「人に喜ばれないと辛いですね。日々の仕事はつらくはありませんか?」「会社のメンバーの励ましで救われていますかね。まあでも、チャレンジしてクライアントに喜んでもらえず、仕方がないって言ってくれる人や、厳しい言葉を言われると辛いこともありますので、なんとも言えないです」
これは20代の女性の経験談だった。彼女は今はカスタマーサクセスでワークしている。
別の急成長のSaas企業にヒアリングしたところ、チームのメンバーの離職率の高さが課題とのことだった。
KPIが不要ではない。本来KPIはビジョンを細分化した数値であるはずだ。
ただKPIは放っておくと、すぐにKPIだけが独り歩きし、KPIモンスターが跋扈しちゃう。それでも資本主義のKPI管理に石を投げることは出来ない。
そこでKPIを運用するために重要なのは哲学である。経営者は資本主義の仕組みを使ってワークをさせながら、哲学を駆動させる。
哲学とはなんだろう。意味を考えることだ。意味を考える。なんでこのKPIなんだっけ?を、顧客視点で立ち返って考える。ビジョンを見つめながら考えつづける。
KPIモンスターはKPIのみにフォーカスしていると静かに歩み寄り、ささやきをはじめる。「もっと数値やらないと」KPIモンスターの特技は「考えることをやめさせる」である。
モンスターを近寄らせないために、経営者はWHY?のあかりを灯し続ける必要がある。
ビジョンを伝えるのは経営者しか出来ないワークなのだ。