よく、同じ内容の夢を見る。
何らかの理由で知らない路線を乗り継いで、出先で仕事やら用事を済ませ、さあ帰るぞと意気込んでいる。時間の割に空は未だ明るく、不思議な浮遊感をもたらしている。
成すべきは全て成した。あとはゆっくり電車に揺られてさえいればいいだけ。
いいだけなんだけど。
帰れないのだ。いつも。
地元に向かっている筈の電車が止まる。路線を間違えて迷子になる。乗る方向を間違える。電車が機能しなくなって未知の土地に放り出される。途中で電車そのものが消える。その度にとてつもない不安感と焦燥感に駆られる。早く帰りたくて、でも帰れなくて、途方に暮れる。
未知は怖い。どこだかわからないところは怖い。知らないもの、何も教えてくれないものは怖い。情報を隠して大人しくしているものが無害だとは限らない。
日が暮れる前に帰らねばならないと思い込んで足掻くが、太陽のない空はいつまでも明るい。白夜のように、明度の高い闇がずっと空を覆っている。不安と焦燥も終わらない。いつまでも私を急き立てている。夜が来ないまま、ただ帰りたいと願いながら、いつも目が覚める。
今日もまた電車に揺られていた。
知っているようで知らない土地だった。行きがけによく確認しながら乗った筈の電車はまたしても見当違いの方向へ走り出す。
焦燥感は無かった。
現実の自分視点では到底考えられない。「このまま未知の世界に放り出されたとしても、まあ案外なんとかなるんじゃないか?」「そもそも日本て地続きなんだし万が一本当に帰らなきゃいけないなら歩いてでも帰りゃいいんじゃないか?」そんな根拠のない奇妙な落ち着き。
全てを受け入れて座席の窓から外を眺める時間はとても心地よかった。
私の他に乗客はいない。誰にも知られないまま、白い夜の中、どこかへ流されていく。もしかしたら行き先とか無くて、このまま消えるだけなのかもしれない。それでもいいとさえ思えた。
やがて、覗いていた窓から日が差した。