東京日記(11月30日/12月1日)

imdkm
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11月30日

あまり寝れなかった。寝れないぶん、からだの疲れはとってやろうと朝風呂を浴びる。ぽかぽかになりつつカプセルのなかでまんじりともせず時間を過ごし、タイミングを見計らって二度寝。1時間位睡眠時間を足せた。

本日は和光大学にて日本ポピュラー音楽学会の大会。たしかオンライン開催になったときに参加したことはあったけれど、現地に足を運ぶのははじめて。そもそも大学院生のときにとある学会に参加して若手発表して以来学会というのに足を運んでおらず、10年くらいぶりに「あの感じ」を味わう。まあ分野も違うんで違うっちゃ違う雰囲気だったけど。

この日は個人発表がメイン。見て印象的だった発表をいくつか。

  • 「丸サ進行」の流行とその実態——「Billboard Japan Hot 100 Year End」の分析を通じて(清水将也/東京大学・大学院)

  • Jポップ批評に見る1970〜80年代ポピュラー音楽シーンの残滓——SMAPの「フュージョン性」再考(岸本寿怜/大阪大学・大学院)

  • 同期演奏における音楽実践と楽器の変化——1980年代半ばから 1990年代半ばまで(吉村汐七/大阪大学・大学院)

清水さんの丸サ進行の発表では西村紗知さんの名前が登場し、岸本さんのフュージョン期SMAPの発表では柳樂光隆さんのやった冨田ラボ氏インタビューが登場し、知り合いがどんどん出てくるぞ……! と思った。まあそれはどうでもよいのだが。吉村さんの発表では打ち込みの同期演奏を全面的につかったJ-POPのアクトとしてTMN/access/電気グルーヴという流れ(楽器メーカーと関係が深かったポップアクトたるTMN/accessに対して、出自的にもDIYの文脈の強い電気、みたいな対比があるという話なのだが)が語られていて、そういう固有名詞が前面に出る発表があるんやな……と素朴に思った。清水さんとはいろいろ話したものの他のみなさんとは挨拶程度という感じになってしまった。

会場では柴崎祐二さんやアルテスパブリッシングの鈴木茂さんなどに会う。藤谷さんもなんかノリで来ていた。ほか、阪大の加藤賢さんや関西大学の永冨真梨さん、精華大の谷口文和さんをはじめお名前を存じ上げていたり交流はあったものの直接ご挨拶できていなかった研究者の方々ともご挨拶。加藤さんにはいろんな若手の方を紹介してもらった(ありがとうございました)。懇親会ではようやく大和田俊之さんや増田聡さんにご挨拶することができた。ほかいろんな方にお会いしまして数年来の伏線回収みたいな感じでございました。

12月1日

大会二日目。初日は12時につけばよかったのだがきょうは10時にワークショップがはじまるので朝ちょっと早かった。朝飯食べずに鶴川駅まで行って駅の蕎麦を食べる。

参加したのは「ポピュラー音楽の「深掘り」:楽曲の分析や解説の今日的なあり方とその教育的意義をめぐって」。YouTubeなどに愛好家が有名曲を取り上げて和声進行やスケールといった楽理にもとづいた解説をしている動画や、あるいはもっとシンプルなものでは曲を聴いてリアクションしている動画が増えている。そうしたかたちで楽曲の聴き方や楽しみ方を伝えるコンテンツを「深堀り」とくくったうえで、アカデミアは、あるいは教育の現場はそれにどう向き合っていくか……という趣旨。

興味深い問題提起ではあるし、発表者の発表内容も面白かったのだけれども、「誤情報やデマに対するリテラシー」の問いと「音楽を聴いて楽しみ、語るためのリテラシー」の問いが微妙にすれ違ったままの印象だった。ざっくりといえばアカデミシャンはアウトリーチとして後者のリテラシーを高める情報発信や取り組みを行いたいが、そこに前者のリテラシーの問題が立ちはだかるという話で、さらにいえば、「教育者としてどのようなリテラシーを育てていくべきか」/「研究者としてその成果をどう広めていくべきか」の引き裂かれみたいに見えなくもなかった。

というしがないウェブライターが外野から眺めた光景はちょっとまあおいとくとして、ワークショップを見学しながら考えていたのは、制作にまつわるチュートリアル動画やノウハウ動画もこうした「深堀り」動画に隣接するものとして捉えられるのではないかということだった。実際、SoundQuestが「深堀り」コンテンツのひとつとしてピックアップされていたが、あれは制作者やプレイヤー向けのコンテンツだろう(少なくとも、身の回りではそういう傾向がある)。ポップスとかロックだとそうでもないかもしれないが、少なくともエレクトロニック・ミュージックの制作においては、ハウ・トゥやチュートリアルが非常に多い。プロデューサー/ビートメイカーが必ず見ているチャンネルみたいなのもたくさん。ボイトレのトレーナーの方が歌い方を解説してる、とかいうチャンネルもそこに近いかもしれない。そうしたプロダクション/演奏/歌唱の現場における知識が在野の音楽にまつわる語彙に与えている影響はそれなりにあるのではなかろうか。このあたりにはさらに「作り手とリスナーの近さ(作り手に転じうる、という意味で)」や「そういう話を作り手がするのがあまりタブー(というと強いが、まあダサくみられたり)ではなくなってきた」、という事情も絡んできていて、そうすると「深堀り」コンテンツを語るには「作り手による語り」も補助線を一本明示的にひいたほうがいいんじゃなかろうか。

午後はシンポジウム「AIとポピュラー音楽 〜現状とこれから〜」。ちょっと時間がおしてしまってあまり質疑やディスカッションの時間がとれなかった印象、あまり新奇なトピックが出たわけではないものの、めまぐるしく移り変わる生成AIにまつわる論点を、実際に開発して応用していく現場の視点を取り入れつつ、幅広い歴史的パースペクティヴに位置づける、という意味で有意義だった。

和光大学を後にして、新宿へ。AMeeTでのカンサイ・オルタナティヴミュージック・ディスクレビュー執筆者を中心に食事会があり、集まって餃子を食べる。久々にお会い出来た方も多く、濃い時間だった……。

そしてバスタ新宿から山形へ。寒いね。三日間がんばった~。