週末カル活日記リターンズ:岩壁音楽祭 THE FINAL に行ってきた

imdkm
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公開:2025/9/23

2025 年 9 月 20日(土)~ 21 日(日)の 2 日間、山形県高畠町の瓜割石庭公園で開催された「岩壁音楽祭 THE FINAL」。かつて手掘りの採石場だった公園には、山あいに岩肌が垂直に切り立つおどろくような風景がひろがる。しかし、その規模は比較的慎ましいもので、よそで観光名所になっているようなたぐいのスペクタクルはない。あきらかに生身の人間の手にはあまりそうな、膨大な手仕事の蓄積がつくりだした空間であるにもかかわらず、)むしろだからこそ?)ある種の親密ささえ覚える。

瓜割石庭公園の空間は、おおざっぱにみっつくらいにわかれる。足を踏み入れるとみえる、正面にそびえる岩壁のふもとには、採石のために掘り込まれた洞窟がある。その手前、左手には岩肌に囲まれた少し開けた空間もある。洞窟の前を通り過ぎて奥まった場所へ進んでいくと、岩壁をくりぬいたトンネルの向こうに、ほぼ三方を高い岩壁に囲まれた広場があらわれる。

あそこには 2019 年の岩壁音楽祭初回に DJ として出演したときにはじめて訪れたのだけれど、まるで音楽フェスを開催するために存在していたかのような完璧なロケーションだった。洞窟はちょっとしたクラブのような佇まいだったし、奥の広場は周囲の緑にあふれた環境が岩肌のあいまに借景のようにのぞき、野外の開放感を感じさせながらも適度に「閉じられた」感覚もあった。前者を CAVE ステージ、後者を WALL ステージとして、岩壁音楽祭は 2 ステージで開催されてきた。

この場所を抑えたというだけでも「勝ち確」なのだが、岩壁音楽祭はアーティストのブッキングも興味深かった。比較的エレクトロニック・ミュージック/クラブ・ミュージック寄りなのだが、がっつりレイヴというわけではなく、ラッパーやシンガーも多く出演。個人的には ena mori(2022)や Omega Sapien(2022)、LIL CHERRY & GOLDBUUDA(THE FINAL)、COLA REN + tga(THE FINAL)といったアジアのアクトを招聘してきたことも印象深い。

ロケーションもブッキングもいいだけに、今回で終了してしまったのは惜しいものだけれど、しかし完全に未経験の状態からフェスを企画し、インディペンデントに 3 回も開催しきったこと自体が凄まじいことだ。

前述のとおり初回は DJ として、そして 2 回目はライターとして(取材記事は CINRA に掲載された)参加した岩壁音楽祭だったが、今年はそうした差し迫ったタスクはなし。なのでだらだらふらふらと、かなり気ままに過ごすことができた。最近足をいためていたこともあり、チルスペースに座ったり寝っ転がったりしながら Kindle を読んでいる時間もけっこうあった。なにしとんねんと思われるかも知れないが、CAVE ステージから聴こえる DJ の音や、エントランス横のチルスペースのアンビエントな BGM に包まれながら、自然豊かな公園でまったり過ごすのもそれはそれで最高なのはわかってもらえるはず。

2 日間の開催のうち、初日のオープニング・アクトは引地石材店による石切のデモンストレーション。その音を CAVE ステージの一番手をつとめる Yukio Nohara と、WALL ステージの一番手をつとめる北村蕗が録音。パフォーマンスに織り込むという趣向だった。石のかたまりにノミで穴を穿って楔を打ち込み、槌で楔をこんこん叩いていくとぱこんと割れる。いつもはけっこうあっさり割れるそうなのだが、思いの外時間がかかってしまって、アーティストふたりは石が割れるまえに準備に向かってしまった。観客が固唾をのんで見守るなか、いざ石が割れると、「おぉ!」と歓声が。かなり面白かったのだが、謎の時間でもあった。

DAY01

最初にみたのは北村蕗。山形出身で、10代なかばのころから音楽活動をしていた北村さんは初回はお客として遊びに来て、2022 年はスタッフ、そして THE FINAL でライヴ出演を果たすことに。ダンス・セット主体のセットリストで、オープニングは石切の音を交えたトランシーなテクノ。ダンサブルでありながら、変拍子やトリッキーな展開を交え、鍵盤を弾きまくってフルートを吹き、パワフルに歌う。すでに唯一無二のスタイルを確立した堂々としたステージだった。最後に披露した新曲はストレートな4つ打ちで、声ネタの使い方は UK ガラージやベース・ミュージックの要素が強い(あるいは Overmono 的、とかいうのが一番端的かもしれない)。ここまで直球にフロア仕様の曲はなかったと思うので、リリースが待ち遠しい。

続いて、志村知晴 × 君島大空。君島はステージ奥にアコースティックギターとラップトップを抱えて弾き語り、志村知晴を中心とした 3 人のダンサーがパフォーマンスを披露。途中、インダストリアルでノイジーな4つ打ちのパートがあったりもしたけれど、やはり印象的なのはヴォーカルとギター双方でエフェクトを駆使した演奏で、テクニカルな見せ場とテクスチャーの微妙なニュアンスが同居するパフォーマンスは圧巻だった。場所の都合であまりダンスをしっかり見れなかったのだが、ダンサーのステップと共にクラップしながらアカペラで歌い上げる場面などですごいシナジーを感じた。

いったんご飯食べたり寝っ転がったりしたのち、D.A.N.~みんなのきもちで 1 時間強踊る。D.A.N. の DJ セットは 3 人がめちゃくちゃ楽しそうなのが印象的で、けっこう大胆なつなぎも交えつつバキバキに盛り上げていた。フェスで聴くには本当に最高の空気感というか。みんなのきもちは遅回しのトランスでじわじわと陶酔させ(見たのは最初の 30 分弱くらいだけだけど)、ロケーションもあいまってかなりスピりかかった。

ふたたびちょっと休憩を挟んで、雨が降るなかで LIL CHERRY & GOLDBUUDA 。韓国を拠点に活動する兄妹ラッパーで、Rico Nasty と共演していたり、最近 Lil Cherry が Yves の楽曲にフィーチャーされていたのも記憶にあたらしい。まさか山形でライヴを見る機会に恵まれるとは思わなかった。雨脚がそこそこ強くなり、日が落ちて真っ暗になるなかでのパフォーマンスはパワフルかつ親しみやすくチャーミングで、オーディエンスもしっかりコール・アンド・レスポンスに応える。hyperpop 的なものからラテンポップ、トラップ、エレクトロ等々バラエティに富んだトラックはジャンルレスなフェスにはぴったりだった。

CAVE ステージに移って FELINE ~ E.O.U. の DJ で踊ったあと、少し早めに会場を後にして宿へ。初日から大満足だった。

DAY02

ホテルをチェックアウト時間ぎりぎりに出て、道中のスーパーで軽く腹ごしらえをしてから会場へ。昼過ぎに着けばいいかな、というつもりだったが、なんだかんだで11時過ぎには会場着。

とりあえず WALL ステージで野口文を少しだけ見る。ドラマーとのデュオだったけれど、正直冒頭 10 分程度みてあまりのれずに CAVE の lostbaggage へ。BPM 120 ちょいくらいのややゆったりめのグルーヴで、トライバルなパーカッションが多めのテクノセット。かなり渋く、小一時間出たり入ったりしながら踊る。

天気がよかったこともあり、日向ぼっこがてら Kindle で読書なども。ビル・ブルースター&フランク・ブロートン著/島田陽子訳『そして、みんなクレイジーになっていく 増補改訂版 DJカルチャーとクラブ・ミュージックの100年史 』みたいなでけぇ本も Kindle ならフェスで読める。ありがたい。コーヒーを飲み、漏れ聞こえる COLA REN のプレイを楽しみつつ、しばらくぼんやりする。

その後、 WALL ステージへ移動して ermhoi。マーティ・ホロベックとのデュオで、シンセとハープを弾きながら歌う ermhoi を、マーティ・ホロベックの多彩なサウンドを的確に放つ演奏が支える 40 分。正直、マーティのベースすごい! と思いながらずっと手元を眺めていた。ボリューム奏法、トーンのコントロール、指・ピックの使い分けなど、エフェクトペダルも使いつつ比較的オーソドックスな奏法の選択でさまざまなニュアンスが表現される。いいものを見た……。

ermhoi が終わって CAVE に戻ると、北村さんの DJ。ライヴはそこそこ見ているのだけれど DJ は初。140~160くらいの早めのテクノでがんがんに客をブチ上げていて、歓声は起きるわハンズアップするわ「オイ! オイ!」のコールは起こるわ、90 分間絶えずクライマックス状態。Ken Ishii の Extra をかけたときはさすがにびっくりした。そんでテクノ・クラシックがこんな若い客層にウケるんだ、とさらにびっくり。ラストには Underworld の Two Months Off もかけていた。

北村さんのあと、CAVE に登場したのは peterparker69 。一度ライヴで見てみたかった。もっとお客が集まってもいいのでは、と少し思ったけれど(真裏が Kid Fresino というのも大きいかもだが)しっかり盛り上がり、 hey phone では jeter の「みんな歌ってくれてもいいよ」の呼びかけで一体感が高まり、がっつり合唱が。「ワールドツアーでヨーロッパをまわってわかったけど、日本みたいにジャンルの壁なく前向きに音楽を楽しんでくれる場所は珍しい」(大意)とMCで語っていたのも印象深い。小箱みたいなロケーションもあいまって素晴らしかった。

フリー芋煮を食べてから CYK でひと踊りして帰るか…… と WALL ステージに向かったところ、芋煮待機のお客でごったがえすなか、ステージ上ではなにかのセッティングが始まって、見覚えのある人影がギターを抱えている。え、マジ? と思ったらマジのマジ、折坂悠太だった。シークレット・アクトとして、WALL ステージをしめくくるパフォーマンスをするのだった。「さびしさ」にはじまり、「正気」「夜学」「トーチ」などの楽曲を披露し、アンコールに答えての「坂道」まで、濃密な小一時間。ひとりのシンガーソングライターとして、もはや貫禄を感じさせる演奏と歌唱。必ずしもあからさまにテクニカルというわけではないけれども、巧みなストーリーテリングにとどまらず、言葉を伝えるヴォーカリストとしてのパフォーマンスはやはりずば抜けていたと思う。

折坂悠太のライヴが終わっても、CYK はまだまだ CAVE を湧かせていたけれど、なんとなくこの余韻を大事にしたくなって、そのまま帰宅した。