2020年 読んだ本の感想メモ

imunana17
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芥川龍之介「南京の基督」

神や神の子は実在するのかどうかが問題ではなく、彼らへの信仰が救済であり希望になるんだな……と金花を見て思った。彼女は最後晴れやかだったけど、実際は何も救われてない。この塩梅が芥川の巧さとつくづく感じた。そしてこれ、谷崎潤一郎の小説がさらに着想元らしく、芋蔓式のようにまた気になってしまう。

山本禾太郎「仙人掌の花」

自分を恋い慕う顔も知らない男への、主人公の心境の変遷が面白い。相手に対して想像の余地がある故の脳内美化が恋心や執着心を増幅させるんだなぁと思った。あと最後が超怖い。これからは二人共幸福になれるよって何。どうとでも解釈できるのが怖い。

坂口安吾「わたしは海を抱きしめていたい」

元娼婦とのR18話が9割なのに全然下品でなく、むしろ爽やかさすら感じる語り口。場面設定、背景描写も無く、ほぼ独白だけで読ませる筆力。安吾の凄さを思い知らされた。繰り返し語られる肉慾、孤独の二単語が頭に残る。孤独が悲しいと書いて孤悲(こい)と読むのだという、どこかで見た言説を思い出した。

サマセット・モーム「月と六ペンス」

ジャンルとしては架空伝記もの、なのかな?これという当てはめ方ができない。一人の人物を描くのに視点や切り口があまりにも多角的すぎて、多面体の水晶みたいな小説だと思った。厚みがすごい。グレートギャツビーが好きだから引き込まれた。

フランソワーズ・サガン「悲しみよこんにちは」

思春期女子の刻々と変わる複雑な心理描写が多い裏で、お話はドラマチックに進むし、舞台の南仏の美しい海岸が脳裏に浮かぶから、決して読み易くはないのにものすっごいのめり込める。あらすじを知ってても名作は面白いということを実感した。

エミリー・ブロンテ「嵐が丘」

聴いてた以上にヒースクリフがヤバい、ひどい、えぐい、常軌を逸した野郎だった……。ヒースクリフとキャサリンの関係はなんなんだ。クソデカ感情なんてもんじゃないでしょ。もはや野生とか原始とかそのレベルだよ……死ぬ前に読めてよかった。正直に言うと、キャシーとヘアトンのあたりが若干唐突に感じたりと、一部の隙もなく完璧な構成の小説とはいえない。ただそんな些細な瑕疵を塗り潰す勢いでヒースクリフとキャサリンの情念や狂気が、片方が死んでもずーーっと作品を支配し続けてるのがすごい。書いた側も正気じゃなかっただろ。

リチャード・ブローティガン「西瓜糖の日々」

今まで読んだこともないタイプの未知の小説だった。ユートピアともディストピアとも違う白昼夢みたいな世界の、甘くて苦くて、決して濃くはないのに忘れられない後味がじーーんと残る。

ダグラス・アダムス「銀河ヒッチハイク・ガイド」

大変に面白かった。ブリティッシュジョーク、ライトで笑えるSF、宇宙の真理、このうちのどれかにピンと来た人に投げつけたい。何度爆笑したかわからない。訳文がすごい読みやすくてさらさら読めた。続編読みたい。

小森香折「ニコルの塔」

仄暗い雰囲気とか数多のオマージュ溢れるモチーフとか刺さる人にはほんと刺さる。本作がきっかけで、レメディオス・バロやサルヴァドール・ダリってなんだろう??と取っ掛かりを得た少年少女がいたかと思うとすごい本だ。

町屋洋平「青が破れる」

ストーリーどうこうじゃなくて、文章の純度が高すぎて脳内と心が洗われるような、それでいて主人公の心の動きにヒリヒリハラハラさせられちゃうような本だった……同時収録の二編もおもしろかった。

ボルヘス著、カターレス編「ボルヘス怪奇譚集」※感想メモ無し

@imunana17
療養中のオタクです。 Misskeyに同じIDで生息してます