2023年 読んだ本の感想メモ

imunana17
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レイ・ブラッドベリ「猫のパジャマ」

超面白かった。ルヴェルの夜鳥がビターかつ上質な味わいの洋酒入り生チョコ詰め合わせだとしたら、こっちはホテルのビュッフェで美味しい料理を一点ずつ味わってるような感覚。「さなぎ」でまず度肝を抜かれ、「島」「ふだんどおりにすればいいのよ」「変身」でゾクゾクし、「酋長万歳」「オーレイ、オロスコ!シケイロス、然り(シ)!」で読書の楽しさを久々に思い出し、表題作の可愛らしさにニコニコし、「マフィオーソセメントミキサー」の登場人物のスコッティ過激派ぶりは面白くて笑った。ほんとに全部が絶品。ブラッドベリって本当に書くのが好きで、スコッティことフィッツジェラルド始めとする偉大な先人への敬意も忘れず、亡くなる寸前まで書きまくってた創作エネルギーは素直に凄いと思わされた。ルート66は個人的に殿堂入りかもしれない。

平山夢明「ダイナー」

本を閉じてからものすごく深いため息が出て30分くらい放心していた。面白すぎて。文で読むのもおぞましいゴアなスプラッタと読んでるだけで腹減る飯テロが息つく間もなく襲いかかってくるの、中毒性が高い。こんな純粋な「面白さ」にのみ振り切ってる小説を読むのは久しぶりで、まるでアトラクションに乗ってるみたいで超楽しかった。こんなことを書いたら頭がおかしいと思われそうだけど、作中設定、カナコとボンベロとの関係、殺し屋たちの関係やキャラ立ちといい全体的に超殺伐系乙女ゲーム(夢小説)っぽさも感じた。選択肢4つのうち3つが即バドエン(死亡)直行みたいな作風の。そういうのが好きでR18G並のグロに耐えられるなら本作も絶対に好きだと思う。カナコとボンベロの最後のシーンは、某レノ主演の某映画のオマージュだよね?他にもオマージュや元ネタありそうだからちゃんと確認したい。解説では山風の忍法帖シリーズに触れられてて、そりゃ私に刺さるわ……と納得したし、同作者の異常快楽殺人が読みたい本リスト入りしました。どうしてくれんだ。

グスタフ・ウィード「薔薇」※感想メモ無し

シェイクスピア「テンペスト(白水Uブックス)」

めくるめく魔法や幻惑の描写も、プロスペローの復讐心はじめキャラ達の思惑陰謀が交錯しつつ最後は(一部除いて)大団円!な爽やかな締め方もよかった。でもプロスペローが復讐を思いとどまる心境変化の演技はぜひ舞台で見てみたい!!エアリアルが超絶万能なのもめちゃ面白かった。今だったらご都合チートって叩かれそう。某アニメの予習のつもりだったけど、その事を忘れるくらいにはのめり込んでいた。アントーニオがアロンゾー殺しをセバスチャンに唆した時の台詞と、プロスペローが復讐を止めてこの諸悪の根源トリオを許す台詞が好き。

牧野信一「山男と男装の美女 ミッキィとジョンニィ」

タイトルに一本釣りされたけど結構おもしろかった。主人公が男装美女の入浴の見張り中に彼女を女だと意識してドキドキしてるシーンが個人的にツボだった。少年ジャンプとかマガジンのラブコメ漫画にありそう。

J・G・バラード「結晶世界」

バラード三部作とか全く知らずに読んだ。なんかこう……凄い小説だった。微に入り細に入り緻密に書かれた情景描写は退廃的で美しくて、何もかもを閉じ込め広がり続ける水晶の輝きや乱反射する光をモノクロのページ上に幻視した。そんな世界観で展開するのが、1人の女を巡る男同士のやり合い×2。三角関係なんて1つだけでも充分濃いのに、それが並行して2つ進むんだから唸る。主人公の行動指針がかつての不倫相手(人妻)で一貫してたから、ドラマ部分は読みやすかったのかもしれない。人間はじめ森羅万象を時間と空間から解放し全てが「永遠」になる理(ことわり)へと変容したのが「結晶世界」……という理解でいいんだろうか。ハンセン病との関わりといい理解が足りない気がするから、何年かしたらもう一度読んでみたい。

有島武郎「或る女」

女性が一人で身を立てて生きてけない時代でひたすら我欲と激情の迸るまま突っ走り自滅していく女の一年(!?)を描いた大長編。ストーリーラインがシンプルな分、主人公の葉子の心理描写がとにかく執拗・丹念・濃厚で、多少時間を置いても忘れられないねちっこさ?がある。主人公の早月葉子さん、想像の10倍は感情移入を許してくれない女だった。恋に身を焦がす様も含めて9割くらいは自分の事しか考えていない。残り1割は妹。生まれた時代を間違えたとご自身で仰ってたけど、恋という名の本能剥き出しな生き方はあまりにも獣じみてて、女性の選択肢が増えた現代でも無理だろ……と思わざるを得ない。その一瞥や仕草や言葉で男を魅了し意のままに操り(作中ではこれがタクトと表現されてたのも面白い)、女にも常にマウントを取って悦に浸っていた美女が、不安と情緒の乱れでそんな余裕もなくなり、妄想に囚われ狂気に駆られヒスっていく心理描写はもう圧巻。前々から有島武郎の文章は吹き荒ぶ砂嵐みたいだと思ってたけどその本領発揮だった。話は本当にシンプルだから超面白ぇ!とは少し違うけど、フルマラソンを全力疾走しているような葉子の生き様には引き込まれるし、豊富な語彙に彩られた濃厚な心理描写の嵐が次から次へとやってくるので、読み応えと達成感が半端ない。約1年かけて頑張って読み切れてよかった。

稲垣足穂「飛行機の黄昏」

最高すぎた。図書館で借りたけど自分でも買いたい!表題作の飛行機の黄昏(要約:最近の飛行機はなっとらん)もよかったけど、イチオシは横寺日記。足穂のエッセイがもっと読みたくなる。

森見登美彦「四畳半タイムマシンブルース」

元の舞台(サマータイムマシンブルース)を知らないのにあまりにも展開が読めすぎてイマイチ。良くも悪くも森見ファン、四畳半シリーズのキャラファン向けだと感じた。とりあえず主人公はおめでとうお幸せに

ホルヘ・ルイス・ボルヘス「夢の本」

読み終わるのにものすごく時間かかったけど、全てを味わい尽くした途端、見える世界が激変した。ボルヘスの知性と叡智に匹敵する人類が今どれだけいるんだろうと思わされた。

尾崎翠「第七官界彷徨」

最小限の人物たちが狭い世界で織り成す、少し変わった生活と会話に揺蕩う感じがたまらなかった。

太宰治「HUMAN LOST」※感想メモ無し

朱川湊人「幸せのプチ」

一つの町を舞台にした、ノスタルジーとほろ苦さと温かさが詰まった連作短編。正直あまり期待してなかったけど想像以上に良かった。同時に買ったわたしの宝石よりも好きかもしれない。

坂口安吾「不良少年とキリスト」

安吾の太宰へのクソデカ感情を原液で浴びられて最高だった。

芥川龍之介「黄粱夢」※感想メモ無し

朝井リョウ「正欲」

いまいち刺さらず読了後ずっとモヤモヤしてたんだけど、「マイノリティ(性的倒錯者)もマジョリティ側と同じで誰かと『繋がりたい』と思ってるんだよ!」と如何にも本質ぽく書いているのが、それこそマジョリティ側の書きそうな事で嫌だったんだと気づいた。はっきり言って安っぽく感じた。私自身人間社会でマジョリティの嫌な圧を日々感じて生きてる側だけど、作中の彼らの描写はテンプレみたいに安直で全然響かない。でもこれくらい分かりやすくないと世間にウケない、通じないのだろうな。実際に本作が「衝撃作!」って受容されてる現実を見ると、現代(令和)の日本の性やマイノリティへの認知レベルの低さにげんなりする。

佐藤究「テスカトリポカ」

噂に聞く以上の凄まじさ。娯楽小説と呼ぶには題材があまりにも悪辣で凄惨で「楽しめる」とは口が裂けても言えない。読書に慣れててグロ耐性他あらゆる耐性をお持ちの猛者にしかおすすめできない。普段私の目に見えている世界とは程遠く、でもすぐそばに潜んでいる麻薬ビジネス臓器売買といったブラックマーケットが、まるでルポみたいに淡々とした筆致で、とにかく微に入り細に入り徹底的に暴くように描かれる。メキシコのカルテル、ジャカルタの裏社会、日本のヤクザ、闇医者、他多数。いや作者どこまで取材したんだよマジで。その緻密すぎる描写に絡め取られたが最後、暗黒の世界に秒で引き摺り込まれてしばらくは戻ってこれない。そしてある主要人物の生き様の根底に深く深く刻まれ、物語全体の通奏低音を成すアステカ神話と、テスカトリポカを始めとする神々への信仰が、本作をただの犯罪小説ノワール小説で済ませない異様さと恐ろしさと、一種の神秘性を作り出している。神話や信仰をただのカッコつけた比喩やエッセンスとして用いずに一貫して作中の闇社会と結びつけ、神話の継承とも言ってもいいほど深みのあるストーリーに昇華させているのは見事という他無い。血と麻薬と硝煙の匂いにむせ返り、酷い暴力の音を聞き続け、今すぐにも逃げ出したいのに目の前の想像を絶する惨劇から目を逸らすことができない、超弩級の面白さがそこにはあった。こういうスーパーインモラルR18G小説が直木賞取るって凄いことですよ。もう数年も前だけど。

ことわ荒太「月の裏に望む」

文章がめちゃくちゃ読みやすい……というか、あまりにも平易すぎて、私の中に何一つ残るものなく終わってしまった。キャラたちの横の繋がりが少しずつ判明する構成はちょっと面白かったけど、肝心のお話は毒にも薬にもならない感じでとっかかるものもなく、読了後に何も思い出せない薄味にも程がある小説だった。タイトルも無理やり感あるし。

ロード・ダンセイニ「ペガーナの神々」

世界を創造し、小さき神や人間を生み出し、架空の地ペガーナにて森羅万象を司る神々の紹介から始まり、予言者を筆頭とする人間たちとの関わりや対立にシフトしていき、やがて来たる終末の日で締め括られる、ダンセイニ卿の完全創作神話。正直もっと知名度あって良いと思うんですけど!!オタクが大好きなクトゥルフ神話の源泉だよ!明らかにアザトースの元ネタっぽい神様とか出てくるよ!こんな不可思議で、理不尽で、神秘的な世界観どの創作でも見た事ない。ペガーナに住みたいとは微塵も思わないけど、神々と人々が紡ぐ予測のつかない神話の数々に引き込まれっぱなしだった。個人的には死を司るムングが印をむすんだ。そいつは死んだ。みたいな描写がツボだった。

アルトゥール・シュニッツァー「夢奇譚」

何故図書館の読みたい本リストに入れてたのか思い出せなかったけど面白かった……というか、すっごい変な本だった。1ノートどころか1ツイート(1ポスト)で梗概を書けそうなくらい話はシンプルなんだけど、主人公フリードリンの、妻や女たちへの性愛や熱狂や憎悪といった心理描写の嵐にくらくらする。全く道理が通ってないのに謎の説得力がある。人の心理なんてそんなもんだとは思うけど、それを文章で読ませるというのがスゴい。タイトルに反して現実か夢か分からない曖昧さ、という印象は受けなかったけど「夢」が重要なファクターなのも事実で、そこが面白いなとも思った。Wikipedia読んだらシュニッツァーの作品は一種定型的な部分もあるようだから、機会があれば輪舞とか、森鴎外が翻訳したという他の作品も読んでみたい。

鷺沢萠「少年たちの終わらない夜」

鷺沢萠作品はひさしぶりに読んだけども、思春期の青少年特有の言葉にできない衝動や葛藤を文章にするのがやっぱり果てしなく上手すぎる。80年代末のちょっとワルい男の子たちの青春……と呼ぶには彼らの行いは軽率で奔放で、いわゆるキラキラまぶしいという感じではない。でも作中の少年たちは、善きも悪きもティーンにしか出来ない事をやって、仲間たちと遊んで、笑い、踊り、ムカつく奴を殴り、女の子と寝て、だけどどうしようもないモヤモヤや苛立ちを抱えてて、振り回され、時に爆発させちゃう。そんな姿も含めて、みんな砂金みたいにキラキラしてて、彼らがそこに確かに息づいてるという手応えがあった。私の青春は彼らの過ごしたそれとは程遠いのに、だ。そこが鷺沢萠のすごいところだと思う。自分とは程遠いはずなのにかつての自分の姿を重ねてしまうし、10代の頃私が感じてたこと考えてたことを彼らが同じように感じてる、と思わせられる。表題作含む4作ともに、大人になりたくない、色んなことから目を逸らしてる男の子と、現実を見つめて進むまたは自分に正直すぎて彼らの元を去っていく女の子、という対比がうっすらと窺えたのも興味深い。今度鷺沢作品を読む時は女の子の描写にも注目してみたい。

ジャック・ケルアック「オン・ザ・ロード」

若い作家のサルが自由奔放なディーンに影響されて時には一緒に、時には別々にアメリカ各地をヒッチハイクする話。それだけ。すっごく独特の文体や構成がなかなか馴染まなくて読了に何ヶ月もかかったけど、それだけの時間をかける価値はあった。途中で「これは小説じゃなくてアメリカを熱狂的に駆け抜ける旅そのものを文章化したものなんだ」と気づいてからぐっと読みやすくなって、サルやディーンと一緒にアメリカを縦横無尽に走り回っているような気になれて、面白いというよりはめちゃくちゃ楽しかった。当時の若者が一種のカルチャーを生み出すほど影響受けまくったのは正直めっちゃわかる。ディーンについてはもう……一箇所に定住できなくていつまでも大人になれず狂ったように遁走するしかできない生き様、若い頃は絶対に憧れただろうし、今はその危うさにキリキリしたし、ラストは「ああ…」って悲しくなる。こいつに実在のモデルがいたのが一番びっくりだよ!!!

オマル・ハイヤーム「ルバイヤート」

英訳フィッツジェラルド、邦訳は竹友藻風。挿絵の美しさと、リズムよく享楽的に韻を踏んで飲めや飲めや煽り立てる言葉の魔法に酔わされる詩集だった。今度は程々に飲酒し酔った状態で味わいたい。ところで英訳したフィッツジェラルドをグレートギャツビーで有名なスコットの方だとずっと勘違いしてた。別人かい!

高原英理「観念結晶大系」

何だこれは……!?!?って終始唖然としてた。ストーリー、構成、文章表現、キャラクター、世界観、何から何まで「その発想はなかった……」ばっかりで、読み進めるごとにひたすら幻惑させられてた。小説の常識や固定観念を根底からひっくり返されるような小説だった。世界や時空を超えて鉱石や結晶に共鳴する人々の物語、とでも言えばいいのかな……とにかく説明不可能で摩訶不思議で、どこまでも幻想的。極限まで研ぎ澄まされた美しい言葉と世界観に没入させられ、そこそこ分厚いのにものの数日で一瞬で読んじゃった。最高だったよ。

寺山修司「寺山修司詩集(ハルキ文庫)」※感想メモ無し

ディーリア・オーエンズ「ザリガニの鳴くところ」

設定や展開の所々がテンプレ的なのは少し気になった(主人公カイアの美女設定は正直いらんかった気がする)けど、大自然の中で孤独に生きる少女の成長譚と、殺人事件が絡み合って収束していくストーリーラインは正直文句のつけようもなく面白かった。最後の最後まで真相の予想がつかず、どっちだ?どっちだ!?ってシンプルに楽しめた気がする。そして何より湿地の大自然やそこに住まう生き物たち、それらに囲まれて育ったカイアの感性が織りなす情景描写の美しさったら……素晴らしい邦訳に感謝感激。感動っていうキャッチコピーは少し違くね?とは思うけど、何とも言えない読後感が残り続ける感じはたまらなく好き。気になってる方がいたらおすすめしたいくらいにはすごく良かった。

中山可穂「弱法師」

正直何で買ったのか思い出せないレベルで期待してなかったけど、ものの見事に後方から良い意味でぶん殴られた。難病に侵された少年とその義父、辣腕の女編集者と若い作家、姉弟と1人の女、三者三様の「不可能の愛」がこれでもかとばかりにガンガン刺してくる。表題作も良かったけど一番ガツンときたのは編集者と作家の物語である「卒塔婆小町」。双方の情念とも呼ぶべき壮絶な愛とその結末には絶句するしかなかった。モチーフ元は三島由紀夫の「近代能楽集」らしい。いずれそっちも読みたいなぁ

ディーノ・ブッツァーティ「タタール人の砂漠」

あらすじを書き起こしたら恐ろしく単調な物語で、実際最初の方は中々エンジンかからなかった。けど、砂漠や砦や山の峰々といった情景描写の美しさと、普遍的な「人生」の全てが詰まったような主人公の生き様に自分を重ねずにはいられない凄まじい本。というかよっぽどの大物でもない限りこの主人公には自分を重ねてしまう人多いと思う。それくらい普遍的で寓話的(訳者解説より)。僻地の砦に配属され、最初はあんなに離れたがっていたのに、だんだんとそこに執着するようになり、いつしか敵の襲来を待ち望むようになる主人公ドローゴを置き去りにして、時は平等に残酷に過ぎていく。その心理描写と「時の遁走」が絡み合って、読み進めるごとにどんどん引き込まれていく。要約するとめっちゃよかった。

津原泰水「夢分けの船」

現代を舞台に明治文学風の文体で、幽霊と音楽を巡る青春を描いた物語。とにかく文体や文章が魅力的で、言葉やリズムが生み出す心地よさ美しさにずっと揺蕩っていたいと思わせられた。古風なのにそれでいて流れるような読みやすさもあって、読むスピードにいい意味で苦心した小説は久しぶりだった。お話は、青春小説という分類ではあるけど、四国から出てきた青年が東京で自分なりに音楽と向き合おうとする朴訥とした心理描写や、彼を取り巻く人間関係や、そこかしこに潜む謎が、キラキラとも泥臭いとも言えない独特の雰囲気を作り出している。めちゃくちゃ先が気になる!!ってわけではないけど、この世界観にずっと浸っていたいと思ってしまう吸引力と魅力はあった。津原泰水作品もっと読んでみたくなった。

泉鏡花「草迷宮」※感想メモ無し

小田雅久仁「禍」

何気ない日常からふと目を離した途端、身の毛もよだつようなおぞましい非日常の世界に引き込まれる連作短編集……といったらすごくありがちに見える。けど、特筆すべきは各作品のモチーフが「人体」や「五感」であること。目、耳、鼻、皮膚、肉など、多くの人が持ち得る身体の各部位を発端に始まる怪奇なストーリーは、とにかく他人事とは思えない身近さと不気味さがあって怖い。しかも作者の文章表現がめちゃくちゃ上手いうえに大変読みやすく、内容がスラスラ頭に入ってくるものだから、臨場感が凄まじい。(特に「耳もぐり」「農場」「髪禍」の気持ち悪さったら……)そういった、生理的嫌悪感や吐き気を催してくるマジで気持ち悪い話もあれば、幻想的な世界観で切ない余韻を残してくる話もあり、ホラー一辺倒ではないあたり作者の引き出しの多さに唸らされた。そしてどの話の主人公も、そのおぞましい非日常に巻き込まれながら、次第にそれを受け入れ溶け込んでいくので、そのさまが殊の外に薄気味悪く、かつ不思議と後味の悪くない奇妙な読後感をもたらしてくる。推しがおすすめしてたからという不純な動機で読み始めたけど、すごく面白かったです。推しに感謝。

@imunana17
療養中のオタクです。 Misskeyに同じIDで生息してます